わたしたちは恐慌への突入を回避できるのだろうか。鉱工業生産指数は昨年12月に前年同月比で20・6%のマイナスとなった。経済の状況を示す指標が発表されるたびに、そこには恐ろしくなるような数字が並んでいる。
16日には10~12月期の国民所得統計が発表される。国内総生産(GDP)の実質成長率は年率換算で2ケタのマイナスが予想されている。日本経済は、非常灯が激しく点滅しているような状態だ。
こうした厳しい状況に対処するため、雇用の場の確保や企業の資金繰りの支援など、政府が追加的な経済対策をとるのは当然だ。
しかし、混迷した状況から抜け出すには短期的な対策だけでは不十分で、新しい成長分野を切り開く戦略的な対応が欠かせない。
政府部内ではそうした観点から新成長戦略のとりまとめが行われている。20年までに数百兆円規模の新しい市場をつくり、少なくとも200万~300万人の新規雇用を創出するといった目標を掲げる方向だ。
短期の経済対策を中長期の改革につなげることをうたい、(1)低炭素革命(2)健康長寿(3)底力発揮--を柱に、経済の再生と雇用の拡大を図るという内容だ。
(1)は世界最高水準の環境技術の開発とそれを活用した社会システムの構築をめざし、(2)では医療・介護関連のサービス産業の活性化、(3)は農業などの地域に根ざした産業の底上げを図り成長産業とする、といったことを提示している。
その中で環境関連については、米国のオバマ大統領がグリーンニューディールを掲げ、環境ビジネスを経済再生の核と位置付けて振興しようとしている。欧州諸国のほか、中国や韓国などもこぞってこの分野を育てようとしている。
一方、日本は温室効果ガス削減の中期目標を示さなければならず、政府が設けた地球温暖化問題に関する懇談会は2020年時点に1990年比で最大25%減らすことを含め6通りの選択肢を示した。
世界に先行して省エネを進めてきた日本は、欧米に比べ削減コストが高いとして、高い目標の設定には消極的な意見も根強い。しかし、それに挑戦することにより、環境関連の産業の競争力を高めるという戦略も必要ではないだろうか。
具体的には、太陽光や風力といった自然エネルギーの利用を大幅に拡大し、省エネ車の普及を進めるといったことになるだろう。
自然エネルギーによってつくられた電気を電力会社の負担で買い上げる仕組みや、太陽光パネル設置への補助金復活といった措置もとられている。
しかし、現行のままでは、自然エネルギーの利用は限定的なものにとどまる。コストを電気料金に上乗せして広く負担を求めるなど、自然エネルギーの活用を飛躍的に拡大している国々の例も参考に新たな支援の枠組みをつくるべきだ。
また、太陽光や風力によってつくられた電気は周波数が不安定という問題がある。しかし、電力会社ごとにつくられている電力系統の相互接続を強化すれば、受け入れ可能な自然エネルギーによる電力の量は大幅に拡大できるという。
さらに、いったん電池にためて送電する方法もある。それにより周波数は安定するが、これに利用できる大型の電池が日本ですでに実用化されている。そうした電池の普及を政府が支援するという方策もある。
省エネ車では、エンジンと電気モーターを切り替えるハイブリッド車が現在は有力だ。そこではニッケル水素電池が使われている。
しかし、大量に電気を蓄えることができ、放電量も大きいリチウムイオン電池が自動車用として開発できれば、1回の充電でガソリン車並みの走行ができる電気自動車も可能という。
そのためには安定したリチウムイオン電池を開発する一方で、急速充電器の整備も必要だろう。取りはずしできる共通仕様の電池をつくり、ガソリンスタンドで交換するといったアイデアもあり、普及のためのインフラ整備に官民あげて取り組んでもらいたい。
太陽光パネルの開発で日本は先行してきた。また、電気自動車用のモーターと、モーターの回転数を直接制御するインバーター技術、そして電池の開発でも日本企業は優位にある。
しかし、要素技術で優れていても、全体として優位性を発揮できないのは、IT(情報技術)分野で日本が経験したことだった。
現在の政治状況をみると、こうした政策の大転換が可能なのかこころもとない。しかし、今後、政権交代があったとしても、日本としてなすべきことははっきりしている。
日本は高度成長期に、石炭から石油へとエネルギーの大転換を図った。今回は、それを上回るエネルギー革命が起ころうとしている。
歴史的な大転換に対応するには政治のリーダーシップが不可欠で、要素技術の優位性を全体としての優位性につなげられるよう、緑の産業創造をめざした大胆な行動を期待したい。
毎日新聞 2009年2月15日 東京朝刊