国が計画して整備する道路、ダムなどの建設費や維持管理費の一定割合を地方が負担する「国直轄事業負担金制度」について、大阪府が異議を唱えるなど制度のあり方がにわかにクローズアップされてきた。
背景には財政難が深刻化する中で、事業決定に十分に関与できないまま一方的に支出を強いられる地方の不満があるといえよう。地方分権の観点からも制度の見直しは避けられまい。
国の直轄事業に対する地方自治体の負担金支払いは、地方財政法で義務付けられている。国道の場合、地方は建設費の三分の一、建設後の維持管理費も半額近く負担する。
全国知事会は「地方分権の趣旨に反する」として廃止を要求している。だが、国は「公共事業で利益を受けるのは地元」として譲らない。
議論は平行線をたどってきたが、最近になって大阪府の橋下徹知事が強烈な一石を投じた。財政難を理由に二〇〇九年度の負担金を最大で二割削減するとし、府の予算案に削減分を計上しない方針を明らかにした。
地方から国への異議申し立てとして、具体的な予算対応は異例である。橋下知事は法律違反は覚悟の上の措置とする。
確かに危機的状況の財政立て直しに向け、聖域なしに改革を進めているという大阪府にとって、機械的に国から負担金を要求されるのは理不尽だろう。怖いもの知らずの橋下知事らしい問題提起といえる。
さらに新潟県の泉田裕彦知事は、建設費上昇などを理由に国から増額を求められていた北陸新幹線の建設負担金について、「国から十分な説明がない」と反発し、支払いを拒否する姿勢を示した。新幹線建設費の地元負担は、国直轄事業と同じようなシステムになっている。
共同通信が国直轄事業の負担金制度に関して先日まとめた調査によると、岡山など全国三十六の都道府県が「地元に事業内容の決定権がない」「国が全額負担すべきだ」などと問題視していることが分かった。
ただ一部には「地域の事情があり一概には言えない」との回答もあった。インフラ整備が遅れている地域で目立ち、国に反旗を翻すのをためらう心情があるのかもしれない。
問題は事業決定について地方の関与の薄さに加え、負担の重さだろう。要するに権限と負担のバランスが問われている。国は地方の声をよく聞き、事前協議や負担のあり方などを見直すべきである。
精密機器大手「キヤノン」の関連施設工事を受注した大手ゼネコン鹿島からの裏金をめぐる脱税事件で、東京地検特捜部は大分市のコンサルタント会社社長大賀規久容疑者とグループ企業社員ら十二人を法人税法違反容疑で逮捕した。
大分県の誘致を受けて、キヤノンが大分市内に建設した二工場が事件の主な舞台だ。受注した鹿島は、下請け契約を結んだ業者に架空の外注費を払った形で裏金を捻出(ねんしゅつ)していたとして、〇六年三月期までの二年間に約六億円の所得隠しを国税当局から指摘された。大賀容疑者は、受注の仲介に当たり、鹿島から裏金を含む手数料などを受領し、隠し所得は三十億円に上るとされている。
裏金は、取引先へのリベートや政治家へのヤミ献金などに使われ、企業側には「必要悪」との考えが強いようだ。準大手の西松建設が海外事業で捻出した裏金を日本に持ち込んだとして、前社長が外為法違反の罪で起訴されたばかりである。特捜部は国内での受注工作などに使われた疑いで捜査している。
このような業界の悪弊につけ込んだのが大賀容疑者ではあるまいか。特にその人脈は、キヤノンの御手洗冨士夫会長との親交や大分県の幹部・県議らまで広がりを持つというから、見過ごすわけにはいくまい。御手洗会長は日本経団連のトップとして、企業全体の指導的な立場にある。これまで事件とのかかわりを否定しているが、大賀容疑者との関係について、もっと丁寧な説明を求めたい。
裏金は脱税や汚職などの温床になってきた。不正の連鎖を断ち切るためにも、今回のような不透明な金の流れをはっきりさせる必要がある。検察当局は徹底した捜査で、事件の全容解明を進めてほしい。
(2009年2月14日掲載)