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【農は国の本なり】第2部・農地転用の闇〔2〕 億単位の税 無駄に2009年2月2日
冬田をつがいのキジが駆けていた。愛知県豊田市高岡町の優良農地を埋めた物流倉庫群から数百メートル。世界企業トヨタの本拠地は、県内有数の穀倉地帯と重なる。 「昔は稲を担いで200メートルも田のあぜを歩いたもんだ」 農業法人「中甲(なかこう)」に農地を預ける地主は懐かしむ。散りぢりだった農家と農地を集め、全国に名だたる大規模経営が成り立つよう導いたのは、国・県などの土地改良事業だった。 高岡地区の元自治会長は「住民が住民を説得してね。土地を交換しあって平らで広い田を造った。果てしなく感じて、みんなが並んで田を植えた」。 縦横に農道が走り、枝下(しだれ)用水から引いた用水路、逢妻女(あいづまめ)川に注ぐ排水路が何年もかけ、田畑の間を網の目のように整備された。均一な区画の「美田」が規則正しく並ぶ一帯の30年間の改良事業費計5億円のうち、4億円程度が税金。事業に着手した1966(昭和41)年度の国家予算は4・5兆円(2008年度83兆円)。土地改良の歴史は、そんな時代からだ。 ナゴヤドームに相当する4・5ヘクタールを埋めた物流センターは、改良事業による排水路を挟み2棟が建つ。昨年末、農林水産省は「安易な転用」に警鐘を鳴らしたが、この場所を許可したのも国だった。 最後の改良事業(96、97年)では、用水路を地中にパイプライン化。事業後、農振法上の転用規制「8年」が過ぎると、待ってましたとばかりに倉庫への転用話が舞い込んだ。平たんに整地された農地は、建設事業にも格好の“更地”なのだ。 農地政策に詳しい楠本雅弘・元山形大農学部教授は「土地改良の“投資”は、たった8年の耕作で回収できる額ではない。血税を注いだのだから、50年以上など農地として半永久的に規制されるべきだ」と訴える。 パイプライン化とともに、水位が下がれば自動給水する装置も完備。水田を見回りする手間は省け、年中行事だった用水路のどぶさらいもなくなった。 かつて耕作していた地主は「農業をやるのには便利な土地だったんだけどねぇ」。倉庫のわき、パイプラインの取水口にあるバルブは固く閉まり、もう開かれることはない。 【土地改良事業】 国、県などが農地を整理し効率化を目指す公共土木事業で、1−2割が農家の自己負担。戦後全国で数十兆円がつぎ込まれた。事業後は、受益農家でつくる公共法人「土地改良区」が管理。受注企業への農林水産官僚の天下りなどが問題視される。
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