猫が、人間に愛され、ペットとなった理由は、その可愛らしさも原因ですが、当初の要因は、人間の貴重な食料・穀物を、鼠から守るメリットがあったからです。
イギリスのウィスキー蒸留所では、原料の穀物を鼠から守るため、「ウィスキーキャット」が飼われていましたし、イギリスの軍艦でも、鼠駆除の為に、猫を飼うことが、しばしばありました。
今日は、そんな猫の物語。
1948年、世界大戦の直後、その猫は、香港で、イギリスの水兵に拾われました。
水兵の軍艦アミシストに持ち込まれた、その猫は、サイモンと名づけられ、軍艦の食料を食い荒らす鼠退治に絶大な貢献をすることになります。

戦友と共に
水兵たちに愛されたサイモンは、鼠を取ると、水兵のベットに、「獲物」をプレゼントし、船長の軍帽の中で眠りました。

船長と談笑
1949年、中国共産党の軍隊が、南京を攻略する寸前、南京のイギリス人を救う為に、アミシストも揚子江に派遣されました。
軍艦はイギリスの国旗を掲げていましたが、共産軍は、アミシストを無差別に砲撃します。アミシストは、艦橋に被弾し、船長を含め、多くの死傷者を出しました。サイモンも重症を負って、血だらけになりました。
サイモンを愛した船長は、戦死しましたが、船医の必死の介護のお陰で、サイモンは生き延びました。
中国軍の砲撃の為に、多くの水兵が恐怖のトラウマに病んでいましたが、水兵と同じように怪我をしたサイモンが、その後、恐怖を克服し、元気を回復する姿は、水兵達の心を癒す助けとなったのです。

「離せ。コラ!」
サイモンの負傷中、船内には鼠が増殖しました。その中で、一番、体の大きい鼠のことを、水兵達は、「毛沢東」と呼んで忌み嫌っていました。
サイモンは、傷から回復すると、その「毛沢東」と対決して、遂にその鼠を殺しました。水兵たちは、喝采して、サイモンを自分達と同様に、「熟練した水兵」だと賞賛しました。

サイモン水兵の乗艦
「俺には、仕事がある」
その後、アシミストは、インド洋と航行し、スエズ運河を通って、イギリスに帰りました。
激しい戦闘を生き延び、水兵に愛されてきたサイモンは、既にイギリスでも有名になっていて、立ち寄る全ての港で歓迎され、多くのファン・レターが殺到しました。
イギリス海軍の猫として、初めて、従軍記章とディッキンメダルを受賞したサイモンは、イギリスでの検疫終了後、ロンドン市長が出席する中で、正式に勲章を授与される予定でしたが、その前に、突然、死んでしまいます。
戦闘での傷と感染が原因だったようです。
彼の葬儀には、軍艦アシミストの水兵全員が出席して、戦友の死に敬意を表しました。
サイモンの墓
戦友に愛された、幸せな猫でした。