釜山のチャガルチ(魚市場)の近くに、ヤン・コプチャン(ホルモン)通りがある。
細い通りに、無数のヤン・コプチャン(ホルモン)専門店がある。
ヤンとは、ミノ(牛の胃袋)。コプチャンは、小腸。
チャガルチの魚料理も飽きたので、ホルモンを食べに行った。
韓国でホルモン料理は珍しいというが、映画「チング」で、幼馴染のヤクザと主人公が、久しぶりに出会って、ヤン・コプチャンを食べながら、旧交を温めるシーンが有名だ。
店は、大きな店舗だったが、店の中に6つの四角いカウンターがあり、中にひとりづつ、アジュンマが働いている。
私は、20年前、美人であったと思われるアジュンマのカウンターに座った。
「ヤン・コプチャン・ハゴ・ソジュ・シュセヨ」
下手な韓国語で注文する。
アジュンマは、にっこり笑って、何か聞いたが、無論、韓国語が分からない。
多分、ヤンニョム・グイ(辛い薬味焼き)かソグムグイ(塩焼き)か、どんな焼き方を聞いているだろうと推測して、
「ソグイグイ」と言ったら、理解してくれたようだった。
日本のように、自分で焼くのかと思ったが、アジュンマが汗をかきながら、炭火で焼いてくれた。
ただ、焼くスピードが速すぎる。
早く食べろとせかされる。
通常、ヤン・コプチャンと呼ばれているが、大腸(テッチャン)もある。
テッチャンは、脂肪を多く含むせいか、焼くと大きな炎が噴出す。
私の食べるスピードが遅くて、肉が焦げてしまうと、アジュンマは、鋏で焦げた部分を切ってくれた。
隣に、韓国女性に三人組がいた。
私とアジュンマの珍妙な韓国語会話を聞いていたのか、その一人が、流暢な日本語で通訳をしてくれた。
以前、日本で働いていたという。
彼女は、「私達は、この店の『トクイ』なんです。」と言った。
「トクイ?」 私は理解できずに聞き返した。
「私の御婆さんが教えてくれましたが、日本語で、常連の客を『トクイ』と呼びませんか?」
納得した。「お得意さん」のことであろう。
意外なところで、日本語が韓国に残っていることに感心する。