日本のワサビ「HONWASABI」(1)
鼻の粘膜を刺激する厳しい辛さ。
さわやかな薄い緑色と深山を想わせる香り。
わさび(WASABI)は、刺し身や、そば、寿司など、和食に欠かせない食材です。

揮発性が高いことが、ワサビの特徴です。
辛味と香りが一番良い状態なのが、すり下ろしてから10分程度。
そのかわり強烈な辛さは、食べ終わった後に、口に残りません。
日本人は、ワサビの味と香りの、いさぎ良さを好みました。
そんな日本の調味料「ワサビ」について、今回は説明します。
■ワサビ

学名 Eutrema japonicum
和名 ワサビ
英名 Wasabi
まずは生態から。
アブラナ科の多年生水生植物です。
西洋ワサビと区別するために”本ワサビHONWASABI”と呼ばれます。
夏涼しく冬温暖な山地の沢に生え、水温が10度から17度の範囲でないと育ちません。
また水質(酸性かアルカリ性か、含まれているミネラルの割合など) などの条件が合わないと生育が悪くなったり病気になったりします。 収穫までに3~4年かかる割に採れる量が極めて少ないので高価です。
品種改良によって畑で栽培可能な物もありますが、高級品は綺麗な沢で育った本ワサビです
HONWASABIの原産地は日本。日本の山に自生していた植物です。
日本を代表する香辛料のイメージが強いのか、外国人が作った映画のタイトルにもなりました。
■WASABI

■文献に見られるワサビ(1)
この植物が人に利用されるようになったのは、いつからかはわかりません。
とりあえず、文献に残っているWASABIの記述を紹介しましょう。
666年ごろ(飛鳥時代)
奈良県明日香村の苑地(えんち)遺構から出土した木簡にワサビや薬草とみられる植物名や、庭園を管理する役所名などがかかれていた。この場所は薬草園だったと推定されている。木簡には上下に切れ込みがあり、わさびを保管した容器にくくりつけたラベルとみられます。ラベルには「委佐俾三升(わさびさんしょう)」とかかれていました。
■発掘現場

718年(奈良時代)の賦役令(税金を納める方法を記した法律)の中にも「山葵」の名前がみられます、土地の名産を年貢として納めていたと推定されます。
918年(平安時代)の「本草和名」という本に「山葵」として、名前が出ています。この薬草辞典にによると、深山に生え、銭葵(ぜにあおい)の葉に似ていることから山葵(やまあおい)と書いて「WASABI」と読むのだと紹介されています。
鎌倉時代の建治2年(1276年)富士の南条氏へのお礼の手紙に日蓮聖人が食した河海苔、八頭芋とともに富士川支流精進川のわさびがでてきます。
この時代の代表的なわさび料理ですが、寒汁(hiyajiru)が挙げられます。
hiyajiruとは冷水に味噌を加えて、野菜や焼き魚など、様々な具材を入れた汁です。
冷たいみそ汁で夏の料理として好まれました。
■現在のhiyajiru
キュウリと紫蘇が入った冷たいhiyajiru

鎌倉時代の料理書である『厨事類記(ちゅうじるいき・1296年以降・紀宗長著) 』の中でわさびのことが書かれています。 寒汁(ひやじる、冷たい汁)を供える時の記述に「汁の実に、山薑(ワサビ)、夏蓼(なつたで)、板目塩(いためしお)、薯芋(やまのいも)のとろろ、橘葉(たちばなのは)などは同じ盤(さら)に盛りてこれを加え置く」とあり、「山薑(ワサビ)」の文字が記載されています。
■山葵の文字が見える

また、室町時代の寺子屋の教科書とされる『庭訓往来(14世紀後半前後に確立)』に、「御時の汁には、・・・山葵、冷汁(ひやしる)等也、・・・」と記載され、わさびが寒汁の実として、法会の食事として食されていた記述もあります。
■食用の鯉

■鯉の洗い

四条家の料理書『四条流庖丁書(1489年)』に、「鯉は山葵酢」の記載があります。鯉の刺身をわさび酢につけることが記されています。
わさびを刺身(ナマス)のツマとして用います
■「四条流包丁式」
886年、神饌・御饌の式を新しく改案、制定したときに確立した。
神饌とは神宮へ供える料理。天皇に奉る料理が御饌。
写真は、器具を使い、魚に直接手を触れずに、調理している図。

1638年(江戸時代)寛永15年に京都の旅宿の主人松江維舟重頼が書いた貞門俳諧の書「毛吹草巻第四」には諸国の名物が記述されています。その中に記されているわさびの産地を拾い出すと、安芸(広島)の新城山葵と近江(滋賀)の国の名前が見られます。
自生している地名では1600年代にはすでに、地方の名産品として、流通販売されていたことが推測できますね。
■ワサビの自生地(山間部の沢)

ワサビについての栽培ですが、1600年以降から栽培が始まったという伝説が、一部地方では通説となっております。これは、徳川幕府が一地方に自生しているワサビを賞味、賞賛した後に、栽培させたという伝説です。
しかし、上に挙げたように、
(1)複数の文献にも名前は登場している。
(2)ワサビは元来日本全国に自生していた植物である。
ことから考えて、食べられると判明した時点で、自生地では食べていたのではないだろうかと思います。
さて、江戸時代に入った後、ワサビの人気はますます高まり、色々な料理に多用されるようになります。
(2)につづく
■日本わさび(HONWASABI)
■西洋ワサビ
