自民の現状を象徴するかのような現首相と元首相の“内輪もめ”である。ただ、小泉元首相が世間に不評を買う定額給付金関連法案の再可決に異を唱えたのはもっともだ。与野党協議で打開を図れ。
小泉純一郎元首相は郵政民営化推進派議員の会合で、見直し発言を繰り返す麻生太郎首相に「首相失格」の烙印(らくいん)を押した。
「奇人変人」呼ばわりされたことも、よほど腹に据えかねたのだろう。「自分では普通の人だと思っている」とぶぜんとした表情を見せた。
「どっちもどっち」ともいえる感情的な言動はともかく、依然影響力を持つ小泉氏の一撃で、麻生降ろしの動きが陰に陽に活発化することになりそうだ。
注目したいのは、衆院の与党「三分の二」勢力を背景にした「再可決」戦術の問題点を小泉氏が突いた点だ。定額給付金の財源を確保する二〇〇八年度第二次補正予算関連法案について「(参院否決後)三分の二を使ってでも成立させなければならない法案とは思っていない」と言ってのけた。
衆院三分の二勢力は、小泉政権下の〇五年郵政選挙で得た議席だ。一方、〇七年の参院選で安倍自民は惨敗、参院で野党が多数を握るねじれ状態になっている。
直近の民意を葬ることになる衆院再可決は異例の措置であるはずだ。なのに信任を得ていない福田、麻生両政権はインド洋での給油継続法などで六回も行使。そして次は定額給付金では度が過ぎる。まして郵政民営化に反対だったとも語った麻生氏が、郵政選挙でもたらされた三分の二を使うのは筋違いも甚だしい−。小泉氏の思いはこんなところだろう。
再可決は与党から十六人の造反者が出ればできないとされる。自民、公明両党執行部は小泉発言に困惑しながらも参院で否決され次第、再可決に臨む方針。民主党は“言い出しっぺ”の小泉氏が二十日にロシア外遊から帰国するのを待って参院で否決するという。
解せないのは、多くの若手議員らが麻生批判をした小泉発言に共感する一方、造反には慎重姿勢を示していることだ。ここは筋を通すべきではないか。予算関連法案の反対は不信任に等しいというなら、給付金撤回など与野党協議での事態打開を執行部に求めるべきだ。その努力はどうした。
小泉氏の“正論”に耳をふさぎ再可決を決め込むようでは、有権者の反発は倍加して自民党総体に向かうのではないか。
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