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藤島大(ふじしまだい)

1961年東京生まれ。秋川高校-早稲田大学でラグビー部に所属。雑誌記者、スポーツ紙記者を経てフリーに。著述業のかたわら、国立高校や早稲田大学のラグビー部のコーチも務めてきた。
著書に『ラグビー特別便』(スキージャナル)、『スタジアムから喝采が聞こえる』『ラグビーの世紀』(洋泉社)『知と熱』(文藝春秋)などがある。

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お問い合わせ先 rugbycolum@wasedaclub.com

楕円球コラム 「楕円球は呼ぶ」

Vol.68 「ただラグビーをする」投稿日時:2009/02/10(火) 17:29

本当に洟をかんでいたのでガビガビのハンカチで洟かむふりして涙をふいた。
暮れから新年、花園取材で往復の「のぞみ」車中、読んで読み返して、泣けて泣けて、たちまち座右の書となった。いまも机の前の壁に立てかけてある。

『ボン書店の幻』。内堀弘著。ちくま文庫。

これはアマチュアリズムの一冊である。1930年代、昭和7年からの数年間、東京・雑司が谷の印刷所に住み込み、ボン書店の名で、ほとんど奇蹟のように美しい詩集を「刊行」していた謎の人物についてのストーリーだ。

おもにモダニズム詩集やシュルレアリスム関連書を…。と、書いて、次の言葉が思いつかない。作った。創った。いや造った。刊行した。出版した。生んだ。世に出した。どれがふさわしいのか。

主人公、鳥羽茂は、著者ではなく刊行する人である。詩を書き超現実主義を論じた者の名なら現在に残される。しかし、ひとり、たったのひとりでデザインを施し、活字を組み、印刷をしていた者の存在は歴史から消えた。その生と死とは――。

美意識を貫く。詩と詩人を愛する。岡山の旧制中学時代、鳥羽茂の下宿には印刷機があった。すでに詩集をつくっていた。芸術とは早熟でもある。慶応大学文科予科を入学ほどなく退学したのは経済の事情だろうから、裕福の道楽とは違う。さりとて、凝りに凝った装丁のモダニズム詩集が採算に合うはずもない。そこにあるのはアマチュアリズムというピュアリズムだ。美しい本をライクどころでなくラブして、やがて生活に窮し、結核を患った。

いけない。ラグビーのラも書いてない。

東芝ブレイブルーパス、そしてジャパンのクリスチャン・ロアマヌ、大麻の陽性反応。その前には同僚のトンガ出身選手がタクシーで窃盗事件を起こした。マイクロソフトカップの重厚なファイナルを制した東芝は、だから、ぎこちなく喜んだ。「笑顔なき優勝」。そんな見出しもあった。本稿執筆時は未定だが、ロアマヌの予備検定の結果しだいで日本選手権を辞退する。

一連の対応で明らかなのは、アマチュアでもプロフェッショナルでもないトップリーグの現状だ。それをすべて否定する立場にないし、今季のトップリーグは総じて内容があって観客数も増えた。ただ「アマでもプロでもない」のは確かだ。事が起きると、どうしても企業の都合、比喩的に述べると「総務部の発想」が頭をもたげる。企業はラグビーのプロではない。されど、ただ競技のみを愛するアマでもない。

クボタでは、プレー中の一選手のラフプレーとその処分に沿って、監督までが「9週間の自主的謹慎」を行った。過剰だ。ここに自立した「個」は見当たらない。なんとなく会社の不祥事対応マニュアルに準(殉)じているようだった。ヤマハも、それより先に同様の例で「選手の半分の期間の謹慎」をしている。

当事者に悪意はあるまい。しかし、グラウンド内の不行跡については、出場停止などリーグ規定のペナルティーが科せられている。それがまさに罪と罰だ。監督まで不在となればチーム力総体に影響は広がり、入場券の価値をそぎ、また対戦相手にも心理的影響はおよぶ。つまり「監督も謹慎」は、対外イメージを気にしながら、実のところ、会社本位という意味で「内向きの論理」なのである。

今回の東芝のようなグラウンド外の出来事についても、違法の当人は警察や競技の統括組織、さらには所属チームや会社によって制裁を受ける。「それですむのか」に理があるのなら「それではすまないのか」にも理はあるはずだ。窃盗にも大麻にも無関係の東芝の選手には「ラグビーをする権利」がある。ファン・対戦相手との関係においては、それは「義務」でもある。

関東学院大学の件では、筆者は「出場辞退」に反対だった。ただし「誰が当事者か」を部内にも発表せぬ対応にも賛成できない。当事者が不明なら非当事者も不明なのだ。ここにも個は抜け落ちている。過ちを犯した個人は、ことによってクラブから厳罰を受けてもやむをえない。しかし無関係とわかった者には公式戦を戦う権利があった。

ブレイブルーパスは日本選手権に出場しなくてはならない。ひとりずつのピュアリズムの集合体として。

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藤島大(ふじしまだい)

1961年東京生まれ。秋川高校-早稲田大学でラグビー部に所属。雑誌記者、スポーツ紙記者を経てフリーに。著述業のかたわら、国立高校や早稲田大学のラグビー部のコーチも務めてきた。
著書に『ラグビー特別便』(スキージャナル)、『スタジアムから喝采が聞こえる』『ラグビーの世紀』(洋泉社)『知と熱』(文藝春秋)などがある。

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