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社説:漢字検定 広がる学びの意欲に水差すな

 公益法人にしてはもうけすぎだと、文部科学省が財団法人「日本漢字能力検定協会」(京都市)に過大黒字を指摘した。立ち入り検査で解明を進めている。

 06、07年度だけでも利益は15億円以上といい、「運営に必要な額以上に利益を生じさせない」公益法人規定からはみ出す。

 さらに、業務委託で理事長の一族の会社に支出したり、巨額の不動産購入、供養塔を建立するなど、不特定多数の利益を図るべき本来の姿とは遠い。何のために税法上の優遇措置を受けるのか、納税者も、検定料を払って受検する人たちも釈然としないだろう。

 90年代に文部省(当時)の認定を受けた協会は難易度で等級をつけた検定を実施するほか、関連教材販売などで業績を伸ばしてきた。毎年暮れには世相を表す漢字を公募、清水寺で発表して話題になっている。

 英語検定も抜いて年間約270万人も受検するほどに成長した背景には、公益法人として“お墨付き”を得て、入試や就職試験で検定結果が生かされるようになった事情もある。こうした協会の取り組みが「漢検」として広まり、漢字教育や私たちの日常の漢字文化への関心を高めたことは評価できるだろう。

 だが公益法人としての自覚と、向けられた疑問に対し説明する責任感は欠いていたといわざるを得ない。「もうけすぎ」は文科省が以前から指摘し、検定料引き下げを指導したが、協会は一部にとどめていた。

 また外部識者らの評議員の大半は漢字などの専門家で、組織運営上の法令・倫理を守るコンプライアンス機能も不十分だった。公益に資する以上、余分な利益は受検者の負担軽減などに還元されるのは当然だ。検定料の抜本的な改定など、早急に目に見えるかたちで組織運営の改革を図らなければならない。

 文科省も調査結果の公表と実効性ある対策を示す必要がある。ただし、官による締め付け強化を求めているのではない。

 実施主体が公益法人であるとないとにかかわらず、今さまざまな検定が盛んに行われている。

 実務的な資格検定から「ご当地検定」など趣味、教養を豊かにするものまであり、教育の基本政策が目指す生涯学習社会の柱の一つになりつつある。昨年の中央教育審議会答申も、その質の向上を求めている。

 単にブームというより、私たちの社会が伝統的に持つ、年齢を超えた知識欲や好奇心、向上心がそこにあるだろう。漢字学習の機運の高まりも、正確に読み、書きたいという素朴な思いが底にある。

 今回の問題が、多彩な検定を広めて人々が活用する機運に水を差すようなことがあってはならない。そのためには、運営者が自律や説明責任を常に意識することが不可欠だ。

毎日新聞 2009年2月14日 東京朝刊

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