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小泉発言―あきれる自民の右往左往

 「怒るというよりね、笑っちゃうくらい、ただただあきれている」。このところ表舞台から姿を消していた小泉元首相が、せきを切ったように麻生首相への激しい批判をぶつけた。

 小泉氏がやり玉にあげたのはまず、郵政民営化をめぐる首相の一連の発言である。反対だったと言ったかと思えば、賛成したと言い、分社化の見直しに触れた直後に、見直しの中身を言う立場にないと退き……。

 この発言にあきれているのは小泉氏だけではない。4年前の郵政総選挙で得た議席があるからこそ、衆院の再議決で野党をかろうじて抑え込んでいるのに、そのおおもとの大義を首相自らがぐらつかせるとは。国民もそこに厳しい目を向けていることは14%にまで落ち込んだ内閣支持率で明らかだ。

 小泉氏は衆院再議決にも疑問を投げかけた。「定額給付金は(衆院の)3分の2を使ってでも成立させねばならない法案だとは思わない」

 野党優位の参院は近く、定額給付金を含む第2次補正予算の関連法案を否決する。政府与党は衆院での再議決で成立させる構えだが、党内にいぜん大きな影響力のある小泉氏が再議決に背を向けるとすれば、動揺は必至だ。

 小泉氏は「政治に一番大切なのは信頼感だ。首相の発言を信じられなければ選挙は戦えない」とも述べた。倒閣宣言ともとられかねない言葉だ。

 自民党内は大揺れだ。首相はきのう「私に対しての叱咤(しった)激励だと感じました」と述べたが、この4カ月余の麻生政権の迷走に不満を募らせていた議員の間には、閉塞(へいそく)感を打ち破ってくれたという安堵(あんど)の空気も広がっている。

 深刻化する不況、下落し続ける内閣支持率。麻生首相のままではとても総選挙は戦えないという思いは強まるのに、「反麻生」の旗はだれもあげようとしない。そんな焦りの中に、小泉氏が絶妙の一石を投げ込んだ形だ。

 だが、そもそも麻生氏を重用し、首相の座をうかがえるところまで押し上げたのは小泉元首相その人である。定額給付金に疑問があるならもっと早く声をあげるべきではなかったか。

 今回の小泉発言で、結果として自民党に国民の耳目が集まったのは間違いない。得意の短い発言で流れをつくる「小泉劇場」の再現を狙っているとすれば、それは引退を表明した元首相がやるべきことではあるまい。

 いや、小泉氏が本気で首相に政策転換を促すというのなら、定額給付金をめぐる衆院再議決では言葉通り「反対」の行動をとるべきだ。

 情けないのは、麻生政権に批判や不満があるのに、正面から主張しようとしない自民党の議員たちだ。福田前首相にも、自ら公約した道路特定財源の一般財源化が骨抜きになったことを、どう思っているのか聞いてみたい。

「かんぽの宿」白紙―西川郵政は説明つくせ

 混迷が続く「かんぽの宿」売却問題で、日本郵政の西川善文社長が鳩山総務相に対し、オリックス不動産への売却を白紙に戻すと報告した。年初に総務相が「待った」をかけて40日近く。ひとまず収拾の方向になった。

 ただし、西川社長が「公明正大に進めている」と胸を張った入札は、一連の経緯が明らかになるにつれ、むしろ謎めいた部分が出てきた。

 いちばんの疑問は、売却対象に入っていた東京都世田谷区の「レクセンター」が、入札の最終段階で外された点だ。その後、最後まで競っていたホテル運営事業者が入札から降りてしまった。その結果、1社だけ残ったオリックス不動産が落札した。入札の「競争状態」が最後まで確保されていたのか、疑念が生まれている。

 最後に売却対象から外したのはなぜか。オリックス不動産に落札させるためではなかったのか。それ以外に高値売却の方法はなかったのか――。

 こうした点に対する納得できる説明はなされていない。西川社長は総務相に白紙撤回を伝えた際も、報道陣の取材に一切応じなかった。日本郵政は週明けに白紙撤回を正式に発表するという。まずはその席で、十分に説明しなければならない。

 同時に、近く設置する予定の専門家による検討委員会に、第三者の目でこの点についても厳しくチェックしてもらわなければ疑念は解消しない。また総務相としても、白紙撤回を事実上指示したからには、独自に調査し、入札にどんな問題があったのかを解明し国民に示す責任があるだろう。

 西川郵政は今回に限らず経営情報を出し渋り、官業体質へ逆戻りしてきた。この手痛い失敗を機会に、民間会社として自立の道を歩む決意を新たにしなければならない。

 総務相は売却にノーを通した。しかし心配なのは、未曽有の不況が深まるなか、今回より有利な条件で売却できるのかという点だ。「かんぽの宿」は年40億〜50億円の赤字が出ている。1日1千万円以上。売却が遅れれば赤字が積み重なり、赤字分だけ高く売れないと売却損が増えてしまう。

 しかも、売却には不利でも、雇用を守るという条件は必要だ。一括売却するはずだった79施設は個別に売ることになりそうなので、よけいに時間も手間もかかる。条件の悪い施設は買い手が見つからないかもしれない。

 今回の売却は、「2400億円をかけた国民の資産を109億円で売るのか」という強い反発を呼んだ。

 だが、採算を度外視して造った施設がしだいに古くなり、地価も下落を続けているのだ。売却方法の工夫でカバーできる範囲は限られている。売却をやり直しても大幅な損失が生じる恐れを覚悟しておく必要があるだろう。

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