小さな命が懸命に生きようとしていた。
1月下旬、札幌市中央区の市立札幌病院9階にある新生児集中治療室(NICU)を特別に見せてもらった。体温や脈拍をチェックするモニターがずらりと並び、プラスチックのふたに覆われた九つの保育器は、鼻や口に細い管を入れられた小さな赤ちゃんたちで満床状態。元気な泣き声は聞こえず、室内は静寂に包まれていた。
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07年11月15日夜、札幌市北区の女性宅で生まれた未熟児の受け入れ要請があったときも満床だった。同病院には、NICUでの治療が一段落した赤ちゃん用の回復期病床(GCU)が32床あり、比較的状態の落ち着いた子をGCUに移すことも考えられたが、当日は1人しかいない新生児科の当直医が治療で手が離せなかったため受け入れを断ったという。
この未熟児はほかの6病院でも受け入れを断られ、119番通報から約1時間半後、同市手稲区の病院に搬送されたときには心肺停止状態で、後日、死亡した。札幌ほど新生児の治療体制が整っていない地域では、NICUが満床でもGCUをやり繰りするなど無理をしてでも受け入れているのが実情。市立札幌病院新生児科の服部司部長は「(札幌市内には)他にも高度な医療を行う病院が複数あるという状況が落とし穴だった」と救急・病院間の連携のまずさを認める。
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同市ではその後、市産婦人科医会が産科救急の輪番制から撤退する事態となったため、市夜間急病センターに助産師2人を配置し、救急搬送可能な病院の情報を集約して救急隊と連携する新システムを08年10月から導入。妊婦・新生児の受け入れ拒否は起こらなくなっている。しかし、市産婦人科医会の遠藤一行会長は「患者の生命に危険が及ぶ問題が起きないとは限らない」と指摘する。NICUと小児科・新生児科の医師数を増やさない限り根本的な解決にならないからだ。
医学の進歩により数百グラムの体重で生まれた超未熟児も救えるようになり、一方でリスクの高まる40歳以上の高齢出産も増加。2500グラム未満の未熟児の出生割合は札幌市内で88年の6・8%から06年は9・7%に増えた。市立札幌病院は09年度にNICUを6床、北海道大学病院も3月までに3床増やす計画だが、NICUの需要を賄える保証はない。新生児科医を含む道内の小児科医は06年12月末現在1117人。10年間で351人も減っており、ここでも医師不足が大きな壁となって立ちはだかる。=次回は16日に掲載します
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■ことば
未熟児や重い病気を抱えた新生児を24時間体制で治療する新生児集中治療室。国は年間出生数1000人当たり3床を整備基準とし、病床数に応じた医師・看護師数の配置を求めている。札幌市を含む道央圏には104床あり、国の基準(78床)は上回るものの、医師・看護師数も満たすのは57床にとどまる。道内のほかの医療圏も道北27床▽オホーツク15床▽釧路・根室15床▽十勝13床▽道南12床で基準に達しているが、医師・看護師数を満たす施設は半数もない状況だ。
毎日新聞 2009年2月14日 地方版