渋谷区が、区内14カ所の公衆トイレについて、命名権(ネーミングライツ)の募集を行っている。景気悪化で企業側が購入に二の足を踏むなど、自治体が財源にあてこんだ“命名権ビジネス”は全国的に振るわない。対象のトイレは、JR渋谷駅前など一等地がめじろ押しだが、やはり応募はゼロ。公衆トイレが持つマイナスイメージも災いしているらしい。締め切りは13日夕。担当者は「問い合わせが数件あり、申し込みにつながる感触はある」と話すが、全国初といわれる公衆トイレへの命名権の契約成立には、ハードルが高そうだ。
・写真:渋谷区が命名権を募集している表参道の公衆トイレ
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渋谷区によると、命名権契約は5年間が基本。契約料は企業側が申込時に設定した金額が尊重される。あまりに低い場合は拒否するという。契約が成立すると、4月からトイレの名前として企業名や商品名をつけることができ、名前が入った看板を設置できる。1月30日から応募を受け付けている。14カ所の中には、「流行の発信地」と呼ばれる街とあって、トイレと分からないおしゃれな外観のものも多い。
しかし、10日現在で正式な応募は寄せられていない。公衆トイレが持つ負のイメージがあるようだ。
人気の商業施設「表参道ヒルズ」に隣接する「表参道公衆便所」を利用した男性会社員(30)は「最近のトイレは設備も良くなったが、『汚い』とか『臭い』という感じはぬぐえない」と話す。
「命名権が好感を持って受け取られやすいスポーツ施設などに導入されてきたことと比べると珍しい取り組みだが、公衆トイレはマイナスのイメージを浮かべる人が多い」。命名権のコンサルティング事業などを行うベイキューブシーの盛光大輔ディレクターはそう指摘する。一方で「トイレ用品を扱う業種などでは、自社商品を設置するなど使い方次第でプラスになる可能性が高く、命名権を購入する企業が出てもおかしくない」と分析する。
実際、トイレ関連製品大手「TOTO」では類似した取り組みとして、平成18年から子供向け職業体験施設「キッザニア東京」の協賛企業となり、施設に4カ所あるトイレに無償で便器などを提供。トイレ内にテレビモニターが設置され、子供らに、便器の製造工程を映したビデオを流して、イメージアップを図っている。
しかし、渋谷区の試みに関連業界の反応は芳しくない。
トイレ関連製品大手「INAX」は「景気の悪化が進んで経済情勢が難しくなっており、応募に特段のメリットを感じていない」。
トイレの備品などを扱う「小林製薬」も「アイデアはおもしろい」としながらも、「現在スポンサーとして活動する予定はない」と消極的だ。
盛光ディレクターは「渋谷区の試みが成功すれば、財政状況が厳しいおり、マイナスイメージが強い施設にも命名権を取り入れる自治体が次々と出てくるでしょう」と、同区の契約の行方を注目しているが、どういう結果になることか…。
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