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クローズアップ2009:企業スポーツ、第2の苦境 日産、ホンダなど次々休廃部

 世界的な経済危機が、国内のスポーツ界に大きな打撃を与えている。90年代のバブル崩壊で企業スポーツは、次々と活動中止に追い込まれた。さらに「第2波」が追い打ちをかける形となり、日産自動車が野球部、卓球部、陸上部の休部を決めるなど、リストラが相次ぐ。トップレベルの選手を支えてきた企業スポーツは、逆境にさらされながらも、新たな展開を模索する動きも出ている。【滝口隆司、仁瓶和弥、北村弘一、石井朗生】

 9日に発表された日産のリストラ策では、09年3月期決算の営業損益が約1800億円の赤字に陥るとして、従業員2万人の削減が打ち出された。

 90年代の経営危機の際、日産は2チームある野球部を存続させた。当時、神奈川県横須賀市に本拠地を置いた野球部の遠征費、用具費など運営費は年間約3億円。35人いた部員、スタッフは、シーズン中になると業務を免除されて野球に専念した。99年度末にグループ全体で3兆円近い負債を抱え、野球部は休部やむなしの状況だったが、ゴーン社長は「社員の帰属意識の向上に貢献する」として存続を決断した。

 現在は、部員数や、シーズン中の業務免除こそ10年前と変わっていないものの、年間運営費は大幅に削減されたという。ただし、約1800億円の営業赤字に対し、野球部休部による削減効果は大きい金額ではない。

 しかし、東芝の野球部監督や関連会社の社長を務めた経歴を持つ日本野球連盟の鈴木義信副会長は「経営者は株主を含め、対外的姿勢を見せなければならない。野球に理解があったゴーン社長が心変わりしたのはそのためでは」と話す。削減される社員の感情に配慮したとの見方もある。

 企業スポーツの調査を続けているスポーツデザイン研究所によると、91~08年までに休廃部となった運動部は計324。90年代後半から増え、98年に49、99年には58の部が活動を中止。これをピークに減り始め、沈静化したかに見えたが、昨秋から再び休廃部の波が襲ってきた。

 昨年12月にはプリンスホテルがアイスホッケーの西武プリンスラビッツを廃部し、ホンダも男子ハンドボール部の日本リーグからの撤退を打ち出した。スポーツに積極的に取り組んできた日産の決定は、こうした流れを「加速させるのでは」と危惧(きぐ)するスポーツ関係者は多い。

 ●…存続への模索も…●

 ◇リスク回避へ複数企業から支援--社会との融和に活路

 社員の福利厚生という目的で始まった企業スポーツだが、社員の士気高揚や広告宣伝価値が求められた時代を経てさまざまな模索も始まっている。

 新日鉄は90年代のバブル崩壊の教訓からスポーツ活動を「所有から支援へ」という発想に切り替えた。バレーボール、ラグビー、野球の運動部を「広域チーム」とし、複数の企業の支援を受ける仕組みを作った。03年に新日鉄君津野球部を引き継いだ「かずさマジック」の鈴木秀範監督は「一つの企業に負担をかけないという考えでチームが発足した」と話す。特定の企業の経営問題で休部になるリスクは減った。

 ◇スポンサー獲得、目指す一流選手

 オリンピックを目指すトップ選手の環境も変わった。スポンサー契約を結んだり、契約社員になるケースが増えている。

 98年長野冬季五輪の金メダリスト、スキー・ジャンプの船木和喜選手は自ら「フィット」という会社を設立。船木選手は「廃部でジャンプを続けられない人が続出しては日本ジャンプ界に将来はない」と会社のホームページで呼び掛け、他の選手を受け入れながらスポンサー獲得やイベント活動をこなす。

 休部が決まった日産自動車の卓球部にかつて所属し、日本初のプロ卓球選手として活躍した松下浩二さんは「トップ選手の環境は良くなった」と見る。その上で「下の層の選手の受け皿が減っている。上ばかりでは土台が広がらず、競技全体としてはマイナス」と課題も指摘する。

 また、最近の新しい動きとして、スポーツを通じた社会貢献を打ち出す企業が増えてきた。コニカミノルタは06年に「ランニングプロジェクト」をスタートさせ、陸上部で培ったランニングノウハウをイベントを通じて一般の人に広めている。池原実・広報グループ課長は「スポーツも企業の財産であり、それを社会に生かすのは十分可能だ」と語る。

 サントリーのラグビー部が小学生向けのラグビー教室を開いたり、女子バスケットのジャパンエナジーが引退した元日本代表を中心に「バスケットボールクリニック」として全国を巡回する例もある。

 リーグ戦を開催している団体競技が加盟する日本トップリーグ連携機構の市原則之専務理事は「企業の運動部は今後、社会に出て存在価値を示さなければならない」と話す。

毎日新聞 2009年2月13日 東京朝刊

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