戦後、GHQ(連合国軍総司令部)の要請で来日した米国教育使節団は、漢字を廃止してローマ字による表記を勧告した。「漢字の暗記が生徒に過重の負担をかけている」との指摘もあったという。
さすがに一気に全廃とはいかず、「当面の間使う漢字」として当用漢字が定められた(阿辻哲次著「知っておきたい漢字の知識」)。空前ともいえる今日の漢字ブームなど、当時は想像だにできなかっただろう。
そのブームをリードし、急成長を遂げた日本漢字能力検定協会が文部科学省の立ち入り検査を受け、揺れている。漢字検定のほか、年の瀬に京都・清水寺で発表する「今年の漢字」で知られる、あの団体である。
税制で優遇される公益法人なのにここ数年、数億円単位の利益を上げていた。業務委託した理事長関連企業への多額な支出や、京都市内の一等地購入など不透明な経営実態も明るみに出た。
協会は脱サラした理事長が設立した。漢検は資格ブームに乗って急速に受検者を伸ばし、二〇〇七年度は二百七十万人を超えた。もうけ過ぎなら検定料を引き下げるのが筋だろう。ファミリー経営で私腹を肥やすなど言語道断だ。
「金をつかむ者は人を見ず」と中国の故事成語にある。欲のためには何事も顧みない、では困る。一から出直す覚悟が必要だ。