オルメルト首相の辞任表明に伴うイスラエルの総選挙で、国会定数百二十のうち野党のリクードなど右派勢力六党が合計六十五議席に達し、過半数を占めることが確実になった。イスラエルの右傾化によって、中東和平の進展に暗雲が漂う。
女性のリブニ外相率いる現与党の中道カディマは議席を伸ばせなかった。リブニ氏は、昨年九月に汚職疑惑で辞表を提出したオルメルト首相の後継としてカディマ党首に就任した。新鮮さと清潔さを売り物にしていたが、パレスチナ自治区ガザを支配するイスラム原理主義組織ハマスのロケット弾攻撃がやまないことから、イスラエル国内には和平より自国の安全を優先する声が高まり、「強い指導者」を求める有権者をつかみきれなかった。
「リブニ氏は安全保障問題に弱い」と批判したリクードは倍以上の議席を確保し、カディマと拮抗(きっこう)する勢力となった。さらに、ハマスやアラブ系イスラエル人への強硬策を掲げる極右政党「わが家イスラエル」が議席数を増やして第三党に躍進した。ただ、カディマ、リクードとも単独過半数には遠く及ばなかったことから、今後は他党との連立政権樹立に向けた動きが焦点になる。
連立政権の行方は見通せない。リブニ外相が「次期政府はカディマが主導する」と表明すれば、リクード党首のネタニヤフ元首相は「私が次期政府の先頭に立つ」と譲らない。地元メディアによれば、政権の形はカディマとリクードを中心とした中道・右派による大連立や、リクード中心の右派連立が有力とされる。
仮にカディマ主導の連立政権が樹立されても、リクードはオルメルト政権が行った中東和平交渉は継承しない方針であり、和平進展が難しくなろう。連立政権にわが家イスラエルが加われば和平交渉はますます厳しさを増そう。わが家イスラエルのリーバーマン党首はハマスの壊滅、和平交渉停止など極めて強硬な対パレスチナ政策を主張している。
イスラエルの右傾化は、中東の平和を願う国際社会の期待を裏切るものだ。積極的な仲介努力で和平を進めようとするオバマ米政権にとっても痛手となろう。しかし、手をこまねいているわけにはいかない。米国は、これまでイスラエル寄りだと批判の強かった軸足を中立に移し、国際社会と連携しながら和平推進へ精力的に取り組んでいく必要がある。
オーストラリア南東部ビクトリア州で発生した森林火災は、延焼面積が東京都の約二倍にも及ぶ未曾有の大規模火災に拡大した。死者は三百人に達する恐れが出てきたともいわれ、同国史上最悪の森林・原野火災となってしまった。
「火の壁は四階建てのビルのようだった」「列車に似たごう音がした」。被災者たちの話から火勢のすごさが伝わってくる。多くの犠牲者が出た一因に挙げられているのが警報・避難体制の問題だ。
同州では森林火災の際には早く避難するか、周囲の草木を除くなど延焼予防策を講じて家に残るのが鉄則とされてきた。今回は火勢が非常に強かったため家に残っていて犠牲になった人も多い。情報伝達の在り方も含め、生命を守る手だてを徹底的に見直してほしい。
被害を広げた最大の要因は異常気象だ。ビクトリア州では一月末から記録的な猛暑に見舞われていた。これに近年の干ばつの影響による極度の乾燥や、強風が重なったとみられる。
地球温暖化に伴う異常気象が世界の各地に自然災害をもたらし、生活や生態系を脅かす深刻な事態となっている。地球が発する警告と受け止め、一刻も早い国際社会の一体となった取り組みが求められる。
しかし、先進国と発展途上国の思惑などが絡んでなかなか進展していない。気になるのがリード役を担うべき日本の対応だ。欧州連合(EU)に先行を許し、消極的だった米国もオバマ大統領になって積極姿勢に転じる中で、存在感が薄い。
「環境問題こそ日本の生きていく道」との信念を持ち、環境分野での優れた技術などを生かし、国際社会挙げての温暖化対策実現へ向けて全力を注いでいかなければならない。
(2009年2月13日掲載)