欧米の銀行へ巨額の公的資金が相次いで注入されている。邦銀はまだマシだと言われるが、この優位もいつまで続くかわからない。
金融庁関係者が語る。
「スイスにあるBIS(国際決済銀行)のバーゼル銀行監督委員会が一月十六日に、国際業務を行う銀行の自己資本比率規制を強化する案を発表しました。慌てたのが金融庁です。もし新規制が導入されれば、自己資本比率を現在の八%から一五〜二〇%程度まで引き上げなければならないからです」
この規制案の背景には、リスクの高い投資に狂奔してきた金融機関の反省があるのはもちろんのこと、この数カ月の激変で多くの銀行が傘下に投資銀行を持つようになったため、リスク・ヘッジの必要性が高まったという認識がある。
しかし、「これにはウラの狙いがある」と金融機関関係者は話す。
現在、欧米の金融機関は公的資金の注入や資産に対する国の損失保証により自己資本が厚くなっている。
例えば、シティグループは、四百億ドルもの公的支援により自己資本比率が一五%弱まで上昇。クレディ・スイスは約一三%になっている。一方、三菱UFJフィナンシャル・グループは昨年九月末で一〇・五五%。仮にBIS規制が二〇%まで引き上げられれば、邦銀は軒並みピンチに陥る。
「仮に二〇%ルールが決まれば、邦銀は海外から撤退するか、貸出先を減らして資産を縮小しなければならない。欧米の銀行には有利な状況だ」(同前)
勿論、規制はまだプラン段階で、「各国の意見を集約したうえで、最終案がまとめられる。その過程で日本の金融当局の意向も反映される」(金融庁関係者)という。
だが、メガバンク幹部は、「実際に巻き返すことは容易ではない」と語る。
八〇年代に、日本の銀行が海外で積極的な投融資を行った際、その封じ込めのために導入されたのが、現在のBIS規制だった。いわば、欧米金融当局による欧米金融機関のためのルール変更なのだが、もし日本が巻き返せなければ、邦銀は同じ轍を踏むことになりかねない。 (金融ジャーナリスト 森岡英樹)