◎新幹線の地元負担増 やむを得ぬが説明尽くせ
国土交通省などが、建設中の整備新幹線の総事業費が当初の想定よりも増える見込みに
なったとして、石川、富山など沿線十道県に負担金増額を要請したのに対して、新潟県が異議を唱えた。財政が厳しい中、これ以上の重荷を背負いたくないという気持ちは分からぬではないが、現行の「ルール」の下では、総事業費が増えれば地元負担も重くなるのは当然であり、多少の負担増もやむを得まい。国交省には、沿線自治体の理解を得る努力を尽くすよう求めておきたい。
新潟県の泉田裕彦知事は、負担増を受け入れられない理由として説明不足を挙げており
、整備新幹線の必要性や地元負担そのものを否定する意思はないように思われる。きちんと話し合えば、説得は可能だろう。混乱が長引き、工事の遅れにつながるのだけは避けなければならない。
国交省は昨秋、整備新幹線の既着工区間(東北新幹線八戸―新青森を除く)の総事業費
が二〇〇三年の試算より約四千百億円増えるとの見通しを示した。新工法採用などでコスト縮減に努めても、資材価格の高騰や地質不良などによる工事費の増加分を吸収しきれないという。同省はこの見通しに基づき、沿線自治体に計約千四百億円の新たな負担を求めている。
ただ、沿線自治体は今でも毎年度の地元負担を工面するのに苦心しているのである。試
算の根拠となったデータなどを詳細に示さずに負担増を迫れば、不満を覚えるのも当然と言えよう。コスト増の一因となった資材価格も、最近はむしろ下落傾向にある。場合によっては状況の変化を加味して再試算することも必要だろう。
新潟県では、知事がわざわざ臨時記者会見を開いて地元負担の支払い拒否も辞さない姿
勢を示したが、この手法にもいささか疑問を感じる。大阪府の橋下徹知事が道路や河川などの国直轄事業負担金支出の削減を打ち上げた直後であり、うがった見方をすれば、それを意識したパフォーマンスのようにも映るのである。その本音が地元負担の軽減にあるのならば、もっとスマートなやり方があるのではないか。
◎金元工作員と面会へ 拉致の真相に迫りたい
一九八七年の大韓航空機爆破事件の実行犯として逮捕され、韓国で暮らす金賢姫・北朝
鮮元工作員と、この元工作員の日本語教育係だったとされる拉致被害者の田口八重子さんの家族との面会が遠からず実現するとのニュースが飛び込んできた。
一歳のとき母の八重子さんを拉致された長男が「瞼(まぶた)の母」に関する情報を元
工作員から聞くのは拉致事件の真相により迫ることになるばかりか、北朝鮮が犯した犯罪の罪深さについての立証を補強することになるだろう。
金元工作員は拉致工作にかかわっていない上に、逮捕後の取り調べや手記などで八重子
さんとの生活をいろいろ語っているため、この面会によって拉致問題に関する新事実が出てくる可能性は低いとされている。が、直接、尋ねることは伝聞や手記に勝る。北朝鮮は八重子さんについて、同じ拉致被害者の日本人と結婚し、一九八六年に交通事故で亡くなったと主張したが、韓国人拉致被害者と結婚したとの情報もあり、生きている可能性も否定できない。
折からオバマ米政権の外交を担うヒラリー・クリントン国務長官が十六日から日本を振
り出しにアジア四カ国を歴訪する。同政権の外交は「敵とも対話する」であり、そうしたシグナルをすでに北朝鮮に送っているといわれるが、日本としてはクリントン国務長官に北朝鮮による拉致犯罪をあらためて理解してもらう努力を惜しむべきでない。
すなわち、一九七〇年代から八〇年代にかけて行われた日本人拉致の目的は「対南工作
」であり、韓国人も数多く拉致され、韓国を転覆させる狙いがあったことを分かってもらい、拉致問題は根底で核問題と連関しており、二つの問題の解決は北朝鮮をして国際社会のルールに従う一員にすることと不可分の関係にあるとの認識を深めてもらうのだ。
日韓両国政府が金元工作員と拉致被害者の八重子さんの家族とが会うことを進めている
のは画期的なことである。クリントン国務長官の心を揺さぶる外交手腕が日本に求められているのだ。