【第27回】 2009年02月13日
「かんぽの宿」騒動で分かった!
賛否両論なき日本のネットはゴミの山
~今こそトーマス・ジェファーソンの名言に学べ~
言い方を変えると、ネットの黎明期に“ネット上ではすべての個人が自らの意見を発信できるようになるから、ネットの普及とともに民主主義が強化されるであろう”と言われていましたが、ネットが十分に普及した今、それは正しい洞察だったと評価できるでしょうか。
私は個人的に、“かんぽの宿”騒ぎを通じてその答えが明確になったと思っています。日本のネットはゴミの山であり、ジャーナリズムの担い手になり得ないことはもちろん、民主主義の強化に何の貢献もしていないと確信しています。
“かんぽの宿”騒ぎの
本当のインプリケーション
“かんぽの宿”はいよいよ大騒ぎになっています。もちろん、真実はまだ明らかにされていません。ただ、今回の騒ぎは別の点で教訓を提示していることに留意すべきです。
皆さんもグーグルやヤフーで“かんぽの宿”を検索してみてください。検索結果の最初の数ページを開いてみると、驚くまでに同じような内容、具体的にはオリックス政商論、小泉—竹中—宮内陰謀論、日本郵政不正論のオンパレードです。それも、評論家と称する一部の人たちの意見の引用と礼賛ばかりが目につきます。もちろん、丹念に探せばそれと反対の意見もネット上に出ているのでしょう。しかし、検索の上位に来なければ埋もれるだけです。
民主主義が貫徹されるためには、どんな事象についても賛否両論が健全に展開されるべきです。そのためには、トーマス・ジェファーソンの言葉からも明らかなようにジャーナリズムが重要な役割を果たすのです。ところが、“かんぽの宿”から明らかになったのは、日本のネット上は同じような一面的な評論とその安直な引用ばかり、情報のゴミ溜めとなっており、今のままではマスメディアに代わってジャーナリズムを支え、民主主義を強化する器にはなり得ないということです。スキャンダルやゴシップの集積場でしかないのです。
それに比べると米国では、ネット上で様々な問題について検索すると、大抵の場合は検索上位で賛否両論が見つかりますので、ネット上でも民主主義とジャーナリズムがある程度根付いていると言えるのでしょう。もちろん、ネットは基本的にゴミ溜めになっているという点では日本と同じですが。
第27回 | 「かんぽの宿」騒動で分かった! 賛否両論なき日本のネットはゴミの山 (2009年02月13日) |
---|---|
第26回 | 「かんぽの宿」への政治対応はモラルハザードの塊 (2009年02月06日) |
第25回 | 百年に一度の危機に悪乗りした一般企業への公的資金注入 (2009年01月30日) |
第24回 | オバマ大統領誕生の熱狂が示す日米の“危機感”格差 (2009年01月23日) |
第23回 | 官邸はもはや機能不全!百年に一度の天災に人災も加わった日本の悲劇 (2009年01月16日) |
第22回 | 中央政府にすがる日本の地方自治体首長はニューメキシコ州知事の実績を見習え (2009年01月09日) |
【異色対談 小飼弾vs勝間和代「一言啓上」】
知的生産術の女王・勝間和代、カリスマαブロガー・小飼弾が、ネット広告から、グーグルの本質、天才論に至るまで持論を徹底的に語り合った。豪華対談を6回にわたって連載する。
feature
- 山崎元のマルチスコープ
- 電機大手のしみったれた副業解禁に見る、「副業の自由」確立の必要性
- 週刊・上杉隆
- 日本スポーツ界の“至宝”、石川遼の可能性に注目する
- 今週のキーワード 真壁昭夫
- 事態の深刻さを理解できない米国民がオバマ改革の成功を阻む
- トップが語る世界自動車危機の行方
- 米GM ボブ・ラッツ副会長 「電気自動車で起死回生を誓う」
- 8人に1人が苦しんでいる!「うつ」にまつわる24の誤解
- 「早く職場に戻りたい」――復職を願う「ウツ」休職者に潜む落とし穴
岸 博幸
(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)
1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス非常勤取締役を兼任。
メディアや文化などソフトパワーを総称する「クリエイティブ産業」なる新概念が注目を集めている。その正しい捉え方と実践法を経済政策の論客が説く。