「活動にカネをかけない代償は時間です。私には時間の余裕がない。選挙は、とにかく人海戦術だと実感します。ポスターを張ったり、チラシを配ったりするのも、人の力が必要になる。もちろん、妻や両親にも手伝ってもらっています。学生ボランティアですか? 残念ながら、この近所には大学も少なくて…」
平日は毎朝7時からの1時間、選挙区内の駅で演説に立つ。その間、2〜3人のスタッフが周囲でチラシを配る。1日で手に取ってもらえる数は平均すると約250枚。人が少なければ、配れる枚数も減ってしまう。
昨年夏には、1度に30万枚のチラシを印刷し、有権者の認知度を高めるための“重点ポスティング”作戦を実施した。半分の15万枚をスタッフで選挙区内の家々のポストに入れて回り、残りの15万枚は新聞に折り込んだ。印刷費用が1枚3円で90万円。新聞折り込みの費用は70万円に上った。
相手陣営は、選挙区で人気のコミュニティーペーパーに次々と一面広告を打ってくる。Aも負けじと、4分の1サイズの広告で対抗する。その費用は1回につき100万円だ。
無駄な出費だと思われるかもしれない。カネをかけない活動が理想だとは、もちろんBにも分かっている。しかし、相手候補の物量作戦を目の当たりにすれば、黙って見過ごすわけにもいかない。Bの選挙区では過去、民主党候補が与党現職に大差で敗れ続けている。民主党にとっては鬼門の選挙区でもある。
1億円を使うのは簡単
「1億円でも、使おうと思えば簡単です」
Bは真顔で言う。
公認料の500万円が支払われて以降、月50万円の活動費の支給は止まった。クリスマスの頃、新人候補に対して党から100万円の追加支援があったが、それもすぐに消えていった。
資金繰りに窮する中、Bは年末ジャンボ宝くじを20枚買った。当たったのは3000円が1枚、300円が2枚だけだった。
「私の事務所には、資金集めのパーティーをやるような余裕はありません。カネ集めに労力をかけるなら、他にやるべきことは山ほどあるんです」。民主党新人候補の窮状はマスコミでも報じられている。
「あんた民主党か? 大変だろう」
最近では、事務所を訪ねてきた見ず知らずの人が、そう言って1000円札をカンパしてくれるようなことも増えた。ありがたい話には違いないが、カンパの合計はせいぜい月に数万円程度だ。
「うちの会社で活動資金をすべて面倒見てもいいですよ」
Bの懐具合を察し、そんな申し出をしてくる支持者もいる。しかし、Bは丁重に固辞し続けている。怪しいカネを掴み、悪いしがらみをつくってしまえば、将来の活動に支障が出かねない。
家族への負担は避けられない
では、Bがこれまで使った3000万円近い自己資金は、いったいどこから出ているのか。
「すべて父親からの借金です。公認の内定が出た後、頭を下げて頼むと、何も言わずに出してくれました」
Bの父親は企業の重役とはいえ、サラリーマンである。
政治に縁のない家庭に生まれた若者が国政を志す時、たとえ政党の公認を得ようと資金の問題が大きな壁となる。そして、あくまでしがらみを排除して闘おうとすれば、家族に大きな負担が押しかかる。