イスラエルの総選挙で、中道のカディマと強硬派のリクードが接戦を演じた。治安優先の右派陣営が過半数を確保して、連立政権の行方は混沌(こんとん)としているが、中東和平交渉の停滞が憂慮される。
今回の総選挙は、オルメルト首相が、米国人実業家からの違法献金などの汚職疑惑で昨夏、辞任を表明したことから実施された。
開票の結果(定数一二〇)、与党は中道の第一党カディマが二八と現有議席を一つ減らすにとどまったが、労働党は一三と六議席減らした。代わって野党のリクードが躍進、極右強硬派の「わが家イスラエル」を含め、右派陣営が過半数六五を占める結果となった。
イスラム原理主義組織ハマスが実効支配するガザへの武力攻撃を有権者が支持したからにほかならない。当初、劣勢予想のカディマが健闘したのは、右派優勢の世論調査が報じられ、極端な右振れやこれによる緊張の高まりを警戒する心理が働いたためらしい。
躍進したリクードのネタニヤフ党首は、一九九〇年代後半の首相時代、東エルサレムにもユダヤ人入植地拡大を進めるなど「領土と平和の交換」を拒否し、和平に積極的だった米クリントン政権との関係をぎくしゃくさせたことで知られる。わが家イスラエルは、和平交渉自体を否定している。
カディマのリブニ党首は勝利宣言するとともにネタニヤフ氏に連立参加を呼びかけているが、同氏は応じる意向はなく、“勝利宣言”するなど異例の事態になっている。連立政権の行方の予想は難しいが、右派陣営の台頭で和平交渉は停滞を余儀なくされそうだ。
治安を何より優先するイスラエルにとって、ガザ地区から撃ち込まれるロケット砲に不安を募らせる現実は理解できないでもない。だが、武力攻撃と報復の連鎖に戻る事態は何としても避けたい。
この選挙結果は米国にとっても重大だ。オバマ大統領はイスラム世界との対話を強調、ミッチェル中東特使を現地に派遣するなど和平に素早い動きを見せているが、早速外交手腕が試されることになる。イスラエルの最大の後ろ盾である米国は、リーダーシップをどう発揮するのか。
選挙の影響はパレスチナ情勢にとどまらない。焦点の一つは核開発疑惑のイランへの対応である。武力主義は禁物だ。中東が再び世界の火薬庫にならぬよう日本をはじめ国際社会は、共存と対話を粘り強く働き掛けねばならない。
この記事を印刷する