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社説:かんぽの宿 個別譲渡の検討が必要だ

 日本郵政によるオリックス不動産への「かんぽの宿」などの譲渡契約が白紙となる見通しになった。これまでに明らかになっている入札の経緯や価格などからみて、当然といっていい。

 今回の手続きは、西川善文日本郵政社長自らが語っているように、一般の競争入札ではなかった。宿泊施設と社宅などを一括で譲渡する計画のため、個別施設がある地元自治体に引き受けの意思を聞くこともなかった。譲渡決定間際の段階で、東京都世田谷区のスポーツ施設が除外されたことに関しても、説明は不十分なままだ。

 70施設合わせた譲渡価格の109億円についても、赤字施設が多いとはいえ、土地代と建設費で約2400億円を要していることから、国民の納得は得られないだろう。

 郵政事業は07年10月に民営化されたが、日本郵政グループ各社はまだ100%政府が株式を保有している。しかも、簡易保険の保険料で建設されている。日本郵政株式会社法の付則に本業以外の廃止や譲渡が盛り込まれているとはいえ、売却などの処理をするに当たっては、慎重でなければならない。

 日本郵政は16日までに、契約までの経緯の詳細を総務省に報告する。弁護士や不動産鑑定士などをメンバーとする検討委員会で資産査定や譲渡方法の在り方を見直す。総務省も独自に査定を実施する。それぞれ、公正な形で行い、その結果を包み隠すことなく国民に示すべきである。それにより、資産評価は客観性が高まり、譲渡価格への不信も薄れるだろう。

 その上でのことだが、地元優先の観点からも、まず、個別施設ごとの譲渡を探るべきだ。年金や健康保険の福祉施設の売却は、事業性を最重要視しながら、個別に実施している。この場合、一括譲渡に比べ、時間を要することは避けられない。鳩山邦夫総務相が言及している12年9月末までの廃止・売却の期限延長も検討していい。

 日本郵政は雇用の継続のためにも一括売却が適切な譲渡方法とこれまで説明してきた。そこで、個別譲渡に転換した場合、当該自治体や地元企業は雇用維持に配慮する必要がある。雇用情勢が厳しい情勢下だけに、この点は重要である。

 同時に、事業性、不動産価値の両面から、譲渡が困難と見込まれる、あるいは、譲渡希望のなかった施設については廃止も検討すべきだろう。一括譲渡方式を採用しても、不採算施設はいずれ、廃止の公算が大だ。この場合も、雇用面での対策を講じておけば、大きな問題は生じないだろう。

 今回、メリルリンチ日本証券をアドバイザーにしたいきさつや、不良債権処理手法である一括譲渡の採用が疑念を呼んだ。いま一度、出発点に立ち戻ることが賢明な道だ。

毎日新聞 2009年2月13日 東京朝刊

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