「答え」より「疑問」を多く投げかける内容だった。オバマ政権が発表した新しい金融安定化策である。期待が膨らんでいたせいか、肝心の具体策が欠落していたことへの落胆も大きかった。ニューヨーク株式市場が、新政権発足以来の大幅下落となったのも無理はない。
大型景気対策法案が成立の見通しとなったタイミングで金融安定化対策のオバマ版も発表し、経済再生に向けた前進を印象付ける狙いがあったのだろう。13、14日にはローマで先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)も開かれる。初参加のガイトナー財務長官は、米国が景気と金融安定化の両面で必要な手だてを取っているとアピールし、他国にも「大胆な行動」を求める構えのようだ。
しかし、米経済を覆う不透明感が解消に向かい始めたとは言い難い。特に危機の元凶となった金融不安に対して、オバマ政権がどのような戦略で取り組もうとしているのか、全容は見えないままである。
ガイトナー長官が発表した新金融安定化策の目玉は、官民で金融機関から不良資産を買い取る構想のようだ。民間資金も取り込む点が新しいが、不良資産の買い取りという発想は、前政権が当初、目指そうとしてあきらめたものである。
買い取る際の価格をどのように決めるかという難しい問題に対処できなかったためだ。不良資産の多くは、もはや売買されなくなった証券化商品で、「市場価格」なるものが存在しない。政府が納税者負担を軽くしようと低い値段を付ければ、損失の拡大を嫌がる金融機関は売ろうとしないだろうし、逆に価格が高ければ、金融機関は売りたがっても納税者は納得しづらい。
前政権は結局実行できず、不良資産の損失処理で減少した資本を補う資本注入などに切り替えたが、金融不安は解決しなかった。
米政権が、不良資産を切り離さない限り金融機関の経営不安も貸し渋りも解消しない、と再認識したことはいい。しかし、肝心の価格決定を具体的にどうするのか、民間資金をどのようにして引き込むのか、結果的に公的資金がどれだけ必要なのか、といった問いへの答えは「また次回に」となってしまった。
今、最も懸念すべきは、オバマ政権の政策が前政権のように二転三転したり、小出しで後手に回ることにより、市場や国民、議会の信用を失うことである。ガイトナー長官は今後、関係者と協議しながら慎重に具体策をまとめると言うが、時間的余裕はもはやない。
大幅な公的資金の追加投入と政府の強制力を伴った不良資産の抜本処理を避けて通ることは難しい。「日本の失敗を繰り返さない」と言うのなら、オバマ政権は一刻も早く具体策を示し、国民と議会の説得に全力を挙げるべきだ。
毎日新聞 2009年2月13日 東京朝刊