<まず乗ってみました>
試乗したのは『G』にHDDナビを装着したモデル。この組み合わせがインサイトのベストバイでしょう。全車スマートキーはオプションとなるので、キーを差し込みエンジン始動。いわゆる「ホンダ方式」のパラレルハイブリッドなので、普通にエンジンがかかります。
ブレーキを踏み、シフトレバーをDに。サイドブレーキを下ろして発進。ここまでのプロセスは、普通の一般車と何ら変わりありません。悪く言えばハイブリッドらしい新鮮味はなく、良く言えば抵抗は全くなし。動かす過程から特別感たっぷりのプリウスとは大きく違う点。もちろんこれはシビックHVでも同じ事なのですが、インサイトのコンセプトもこれに従った形となります。
動き出しは極めてスムーズ。トルコン内蔵式となったCVTは、かつてのクラッチの断続でギクシャクしていた時代を全く感じさせません。基本はまずECONモードON状態で走りだします。発進のレスポンス、そこからの加速は、フィットの1.3と1.5の中間あたりといったところでしょうか。
<フィットの1,4リッター?>
パワーは、いわゆる「システム出力」(エンジン+モーターが同時に稼働した時の最大出力)で98ps。フィット1、3の100psに及びませんが、トルクの大きさはモーターの合わさるインサイトのほうが確実に上。
一方フィットに比べ車重は100kg以上違うので、それにより併殺されている感じです。しかしシビックHVと比べれば、発進時に車重の軽さからくるレスポンスの良さを実感します。スピードが上がってくれば、エンジン性能やタイヤの違いによりシビックHVが若干有利ですが、タウンスピードで走っている限りは、その差は全く感じない。むしろ、インサイトの方が好印象です。
ECONモードON状態では、アクセルに対しクルマの反応は極めて穏やか。平坦路を走っている限りは問題ありませんが、少しでも上り勾配に差しかかったり、また4名乗車の際などは、すぐにかったるさを感じるくらいのセッティングです。スイッチをOFFにすれば、もちろん加速感はグッと向上。回して楽しい分類のエンジンではありませんし、絶対的な余裕は現行プリウスに敵いませんが、普通のペースで走っている限りは十分な動力性能です。
<足回りは硬め>
足周りは比較的硬めのセッティング。コツコツと路面の状況を伝えてきますが、決して不快なレベルではありません。ただ試乗したのは走行300km未満のド新車とあり、走り込んで足周りが馴染んでくれば、当初少し硬いと感じていたとしても、しっかり感のある足周りというポジティブな印象へと変わっていく事と思います。
嬉しいのは、リアまわりの落ち着きが増している事。リアシート後方にCPUのユニットが搭載されており、その分の重さが効いているのか、空荷状態でもリアサスが突っ張っているような印象がほとんど感じられなかったのは○。また5ドア車で気になるアンジュレーションでのドラミング音や、リア開口部が大きい事によるボディ剛性の低下も、街中を走る限り感じられませんでした。
<シビックとは明らかに車格が違う>
ただしインサイトは欧州での『Bセグメント』に属すフィットの乗り味の延長線上にあり、やはり『Cセグメント』に属すシビックHVのほうが確実に1クラス。しっかり感や乗り味の質感の高さなど、大きな差も感じます。
同じ排気量で絶対的な動力性能はいい勝負ですが、確実に車格の差(価格差でもある)は存在します。また、低速で急に重くなったりといった現象は払拭されたもの、基本的に常に軽めでフィーリングもやや人工的な印象が残る電動パワステは、フィットやフリードと同じく、少し違和感が残るポイントです。
<肝心のハイブリッドシステムは?>
気になるハイブリッド車という視点からのインサイトの印象ですが、信号待ちで止まろうとブレーキをかけて減速していくと、メーター上で約10km/h付近でエンジンがストップ。発進しようとブレーキを離そうとすると踏力のストローク残り20%くらいでエンジンが始動。右折待ちなどで発進〜停止を繰り返す場面でも、頻繁にアイドルストップしてくれます。
エンジンスタートの際の振動は、抑えられてはいるものの、若干ショックを伴ってドライバーに伝わってきます。プリウスの場合、モーターで動き出せば、エンジン始動は走行中に行われる事になりますが、インサイトは必ず発進直前……つまり停車状態でエンジンを始動させることになります。その差を考えれば仕方ないところ。まぁ神経質にならず、音楽を聴きながら運転をしていれば、ほとんど気にならないレベルです。
<エコラン指南装置>
大変よく感じたのは、アンビエントメーターの色変化によるコーチング機能。タコメーター中央にはインフォメーションディスプレイでの表示もありますが、街中を走っている限り、この小さいモニターに視線を落とす事は実質的にほぼ不可能。
しかしながら、上のメーターでは、思っていたより遥かに敏感かつリアルタイムに色変化を行ってくれるので、これはその分かりやすさや楽しさ、ドライバーのエコ運転意識を高める点も含めて、まさにアイデア賞モノかもしれません。運転していくにつれ、常にエコ運転の意識が高まる事と思います。
また、回生を伴うブレーキのフィーリングも自然。踏力に対し制動力か素直かつ比例して立ちあがり、停止直前にクッとカックンブレーキ傾向になる事もありませんでした。
<普通のガソリンエンジン車に限りなく近い>
感想としては、現存のいわゆる一般のガソリン車の感覚をできるだけそのままに、アイドルストップや全気筒休止、かすかに聞こえるモーター音などで、ハイブリッド車の良さを上手く詰め合わせてまとめています。
発進〜停止が連続する場面では、アイドルストップ→発進でエンジン始動→停止直前にアイドルストップという動きが少しせわしなく感じられ、やはりこういった場面では「半」電気自動車化も可能なプリウスと比較すると、どこかガソリンがもったいないという印象。もちろんこれはシビックHVでも同じです。
インサイトは、今までハイブリッド車=何か特別な車、と感じていた一般オーナー向けがターゲット。それならこの完成度とこの価格を持ち合わせていれば、その購入意欲をくすぐるインパクトは絶大だと思います。もちろん、当然新型となり3代目へと進化するプリウスの完成度も気になるところではありますが、ホンダもこのあと、グリーンマシン計画は引き続き継続する模様。お互いのメーカーのハイブリッド戦略に今後さらに注目です。
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岩田和馬(19歳 大学1年生 大阪府在住)
子供の頃から筋金入りのクルマ好きで、自動車メディアの仕事に就くことが夢です。自動車メディアは東京中心であり関西人には縁遠いものに感じていましたが、国沢学校での経験を通し夢実現に向け頑張って行きたいと思います。
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