岡山県内の公立高校で自己推薦入試が行われ、国公立大二次試験も間近。受験シーズンが佳境に入ってきた。神社には合格祈願の絵馬が鈴なりだ。
受験生が手にする鉛筆は十六世紀、ヨーロッパで黒鉛の固まりを細長く切って筆記に使ったのが始まりとされる。日本での鉛筆製造は真崎仁六という人物の手による。
本紙夕刊に連載された「創業物語」によれば彼は一八七八年のパリ万国博覧会で鉛筆を知り、帰国して研究に没頭。黒鉛など材料を探し歩き、試作品完成まで十年を費やした。今の三菱鉛筆につながる。
シャープペンシルは元祖「早川式繰り出し鉛筆」の名をご存じの向きもあろう。考案者の早川徳次は東京の下町で金属加工業を営み技術を生かして一九一五年、従来のセルロイド製よりはるかに優れた金属製の繰り出し鉛筆を開発した。
早川は二三年、関東大震災に遭う。工場は焼け、妻子も失う。それでもくじけず大阪で新たに会社を興し、まったく別分野の鉱石ラジオ生産に挑む。これが成功し、総合家電メーカーの礎が築かれた。生い立ちを示す名を冠し、今は液晶や太陽電池で知られる。
筆記具一つにも物語がある。試練に出合った時、人間の本当の力が試される。若者たちもひるむことなく挑み、持てる力を出し切ってほしい。