ガイトナー米財務長官は、金融危機の抜本的な解決に向け、総額一兆五千億ドル(約百三十六兆円)に上る包括的な金融安定化策を発表した。官民が資金を出し合って金融機関の不良資産を買い取る投資基金設立などが柱となっている。
これで四百万人の雇用創出を狙う大型景気対策法案とともにオバマ米新政権による対策が出そろったことになる。
金融安定化策は、大恐慌以来の深刻な景気後退の原因とされる急激な信用収縮を緩和することが最大の狙いだ。証券化商品など不良資産を買い取ることで経営の重荷を除き、金融機関に融資拡大を促し、貸し渋りの改善につなげる。
新設の投資基金は買い取り規模を五千億ドルで始め、最大一兆ドルまで拡大を目指す。公的資金を活用した大手銀行への資本注入も継続するが、普通株に転換される優先株を保有する形にして政府の監視を強める。
連邦準備制度理事会(FRB)は今月始める自動車などローン担保証券の購入支援融資制度を拡充し、政府の公的資金も受け資産担保証券購入枠を拡大する。政府は住宅ローン借り手対策として五百億ドルを充て、差し押さえ防止策を検討する。
ブッシュ前政権は昨年十月に緊急経済安定化法を成立させ、公的資金枠七千億ドルのほぼ半分を金融機関に資本注入した。しかし、大半は損失の穴埋めに使われ効果が薄かったことから、消費者や中小企業に直接資金が回るようにしたのが今回の対策だ。しかし市場からは具体性に乏しいと失望の声も出ている。具体化を急ぎたい。
一方、大型景気対策法案は下院に続き上院でも可決され一歩前進した。上下両院で法案の内容が異なるため、両院協議会で一本化作業が行われる。昨年、緊急経済安定化法案が下院で否決され成立が遅れると、世界的な株価暴落をもたらした。協議を急いでもらいたい。
ガイトナー長官は「金融安定化策の成功には国際協力が必要だ」と強調している。長官は今週末にローマで開かれる先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で、オバマ政権の景気対策や金融安定化策について説明する予定だ。
会議では、金融と実体経済がともに悪化していく「負の連鎖」を食い止めるため、証券化商品の規制や金融機関の監督などについて議論、輸入制限などの保護主義への反対を打ち出す方針だ。危機克服へ国際協調と迅速な実行が重要になろう。
大阪市の米粉加工販売会社「三笠フーズ」(破産手続き中)による汚染米の不正転売事件で、大阪、福岡、熊本の三府県警合同捜査本部は、不正競争防止法違反(虚偽表示)の疑いで同社社長や幹部、仲介業者ら五人を逮捕した。
残留農薬やカビ毒に汚染され食用にならない米を食品として流通させた今回の事件は、食の安全よりも利益を優先させたという点で極めて悪質である。捜査当局は刑罰の重い詐欺容疑での立件も視野に入れている。責任追及と不正ビジネスの実態解明を急いでほしい。
逮捕容疑は、五人が共謀して農薬に汚染されたベトナム産うるち米を工業用として購入。昨年一―八月、正規米に混ぜ計八百九十六トンを熊本、鹿児島両県の酒造会社六社に食用と偽り販売したとされる。仕入れ価格一キロ一八・九円が六九・五―九八円につりあげられた。
三笠フーズの汚染米を購入した酒造業者や菓子業者が膨大な商品を廃棄する被害を受けたばかりか、今なお風評被害にも苦しんでいる。学校や病院などの給食に汚染米が使われていたことも判明し、消費者の食への不信が決定的になった。被害者は消費者自身といえよう。
汚染米問題では農林水産省の責任は一段と重い。汚染米は保管しておくだけでも経費がかかるため、三笠フーズのように大量に購入してくれる得意先はありがたい存在である。農水省は五年間で九十六回も点検に入りながら、おざなりな検査で不正を見抜くことができなかった。
さらに大阪農政事務所の元課長が三笠フーズから飲食接待を受けていた不祥事も発覚している。背景に官民のなれ合いや癒着がなかったかどうかについても捜査当局は厳しく迫らねばなるまい。
(2009年2月12日掲載)