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在日者の足跡を訪ねるツアー

2008年05月06日

第１３回神奈川の渡日者の足跡を訪ねるツアー＜報告＞

苦難の足跡
関東大震災虐殺の足跡を訪ねる

　晴天で、さわやかな風が吹いた２００８年５月６日(火・休)、参加者１９名で、関東大震災虐殺の足跡をたどりました。見学地は次の通りです。

●関東大震災殉難朝鮮人慰霊之碑→久保山墓地にあります。非難する途中、久保山の坂で電信柱に縛りつけられていた朝鮮出身者の死体を目撃した当時小学校２年生の石橋さんが、１９７４年にこの碑を建立しました。この碑の裏面には「少年の日に目撃した一市民建之」と書いてあります。

●震災無縁仏の墓→横浜市は、関東大震災の横死者のうち、氏名不詳で引取人のいない３３００名を仮埋葬しました。この中に虐殺された人が含まれていたかもしれません(引き取り手がないこと~考えると可能性は高い)。その後、横浜市西区の久保山墓地に久保山合祀霊場を建設、１９２６年９月１日に慰霊祭を執行しました。久保山墓地に横浜市大震火災横死者合葬之墓と久保山墓地震災無縁仏の墓があります。

●関東大震災韓国人慰霊碑→横浜市南区堀ノ内にある宝生寺。階段を登り山門の左手に「関東大震災韓国人慰霊碑」があります。リヤカーを引いて焼け跡をまわり、殺された朝鮮出身者の遺体を収容した李誠七さんは、なんとか追悼したいと思い、受け入れてくれる寺を探しました。こころよく受入れてくれたのが宝生寺の佐伯住職。１９２４年９月１日に｢朝鮮人追悼会｣が宝生寺で行なわれ、その後、毎年９月１日に追悼会が行なわれるようになりました。この碑は在日本大韓民国居留民団神奈川県地方本部が建立委員となって、１９７１年に建てました。(写真)

●中村橋→当時の小学生が書いた震災作文に、次のような記述があります。
「其れから少し立って、中村橋の所へ行くと大勢居るから行って見ると鮮人がぶたれて居た。こんどは川の中へ投げ込んだ。すると浴いだ日本人がどんどん追いかけて来て両岸から一人づつ飛込んでとび口で頭をつっとしたら、とうとう死んでしまった」。
「三日はおしるごろから　きんぢょの人たちはかたなおもったりやりおもったりてつぼうおもったりして、なにおするのだろうとおもっていますと、ほりのうちのほうか一人りの人おつれてわあわあといって中村橋の上へきました。その一人りの人はちょうせんぢんでした。ちょうせんぢんお橋の上でおほぜいの人たちがかたなできったりてつぼうでぶったり、やりでつついたりしていました。しまいに川の中へほおりこんでしまいました」。

●万治病院跡地→万治病院跡の広場には、地震後、多くの人が非難しました。しかし午後２時には火がせまり、人びとは中村川をわたり山に逃げます。
　万治病院跡の川向には、県揮発油貯庫(石油倉)がありました。２８棟の倉庫に大量の石油、揮発油、カーバイトなどが貯蔵されていました。レンガ造りや瓦屋根で、火がつきにくい倉庫でした。ここに火がつけば、万治病院跡の広場から逃げられなくなるので、人々は山への避難を急ぎます。午後３時には火がつき、一面の火となりました。中村川に流れ出た石油にも火がつき、火の川となりました。燃えつきるまで一週間以上もかかったと言われています。

●南吉田第三小学校→当時、南吉田には第一、第二、第三と、３つの小学校がありました。第一小学校と第二小学校は、現在の南吉田小学校のある場所にありました。第三小学校は中村川沿いにあり、万治病院跡の広場同様、｢川に面していることから火事からのがれることができる｣と多くの人が三小の校庭に非難しました。しかし火がせまり、人びとは中村川をわたり山に逃げます。逃げ遅れて４３名が亡くなったという記録があります(｢大正震災史｣大正１５年内務省)。

●山の下の原→万治病院跡や第三小学校から、中村川を非難してきた人々が、この｢山の下の原｣に逃げました。ここには数千人の避難民があつまり、さらにけわしい崖をよじのぼり石油倉の裏山や稲荷山などに逃げた人も多くあります。

●信愛塾→信愛塾は、１９７８年に中区山下町で活動を開始しました。現在、キャンプ・ハイキングなどの子ども会、小学生から高校生までの補習教室、高校・大学生韓国・朝鮮学習会、韓国・朝鮮語講座、中国語講座、日本語教室、タガログ語教室などを行なっています。
　誕生して３０年の間に、指紋押捺拒否者を支える｢神奈川指紋拒否者相談センター｣の事務局や｢横浜市国籍条項撤廃連絡会｣の事務局が置かれるなど、差別との闘いや国籍条項撤廃に向けての活動が続けられてきました。２００１年には現在の南区中村町に移転、２００２年かながわボランタリー活動奨励賞を受賞、２００４年には｢ＮＰＯ法人　在日外国人教育生活相談センター・信愛塾｣となりました。

●在日大韓基督教会横浜教会→１９１７年に横浜市中村町で開拓伝道が開始され、１９２８年に創立礼拝が行なわれました。１９３９年以降は、礼拝時における｢日本語使用｣に強く抵抗し、憲兵が礼拝を監視するようになりました。１９４１年には礼拝時に｢日本語使用の誓約書｣を当局に提出させられました。１９４５年の横浜大空襲で教会堂は焼失します。
　１９７２年に打越保育園開園、１９７８年に信愛塾を設立しています。

　今回のツアーでは、横浜教会でまとめの会を行い、そこで｢震災作文｣の話をうかがいました。
　最後に震災作文の一部を紹介します。

震災作文
　２００４年９月に南吉田小学校で、当時の南吉田第二小学校の｢震災記念綴方帳｣が発見されました。また他の震災作文としては、壽小学校(現在の横浜総合高校の場所)の｢大震災遭難記｣、石川小学校高等科二年(現在の年齢で中学生)の｢地震ニ関スル作文｣などが残っています。これらの作文を書いた子どもたちは、家を消失し家族を失い、非難生活が続き、震災後数ヶ月に作文を書いています。作文は子どもたちの個人体験がもとに書かれており、思い込みや勘違いの部分もあるはずです。聞いた話を見たように書いたものもあるでしょう。また、デマを信じた側から書いたものです。それでもこれらの作文は当時を知るためには、貴重な資料です。

南吉田第二小学校｢震災記念綴方帳｣から
「(９月１日)私はいなり山ににげた。山へ上っておなかがすいたので　おとうさんがお菓子をもって来てくれました。暗くなると、朝鮮人が五人つかまった。二人はころされましたが、他の三人は電しんばしらに　いはひつけてあった。(４年)｣

｢(１日夜から翌朝)火は石油倉についた。だんだん日が暮れる。もうすっかり夜になった。朝鮮人があばれる。とうとう一人の朝鮮人がつかまって殺されてしまった。朝鮮人おうのに　山だの川だのいっている。夜がほのぼのと明け、内の焼跡へいくと見にいくとみんな灰になっている。(６年)｣

｢二日起きると朝食をたべて五、六時間立つと間もなく朝鮮人がくるといって注しんで来た。女子共は驚いて山へ上った。すると下から来るといったので僕等も共に山へ上った。すると又こんどは山から来るといふので下へおりた。こうしてそういふ事を下ったり上りたした。すると父が山から来たといった。其れとばかりに男の大人の人達は山にかけ上がった。すると朝鮮人は日本人の勢のあるのを知ってピストルを二、三発発砲した。運よく日本人がけがをしなくてすんだ。
　ひなんした家の隣の家では刀や槍があった。其所は日本刀の名刀ばかりであった。兼光の名刀を買ったばかりだから、切レ味を為シテ見エウといふので兼光の名刀を持って人に日本刀かしてやって行った。其れから少し立つと朝鮮人が居たので其れといふので山で戦った。朝鮮人は三十人位だが、日本人は50人ぐらい、朝鮮人はピストル、日本人は竹槍、刀。鉄砲わっというと朝鮮人も発砲した。日本人も竹槍、刀、鉄砲や其々武器を持って戦った。一人日本人の竹槍でつかれた鮮人もピストルヲ発砲した。日本人のくびへあたった。間もなく、うーむ、うーむと苦しがって大勢の人につきそわれてやって来た。僕はあー気の毒だと思った。
　其れから少し立って、中村橋の所へ行くと大勢居るから行って見ると鮮人がぶたれて居た。こんどは川の中へ投げ込んだ。すると浴いだ日本人がどんどん追いかけて来て両岸から一人づつ飛込んでとび口で頭をつっとしたら、とうとう死んでしまった。(６年)｣
※朝鮮出身者が集団をつくったり、ましてや武装して自警団と戦ったという事実は全くありません。

「三日はおしるごろから　きんぢょの人たちはかたなおもったりやりおもったりてつぼうおもったりして、なにおするのだろうとおもっていますと、ほりのうちのほうか一人りの人おつれてわあわあといって中村橋の上へきました。その一人りの人はちょうせんぢんでした。ちょうせんぢんお橋の上でおほぜいの人たちがかたなできったりてつぼうでぶったり、やりでつついたりしていました。しまいに川の中へほおりこんでしまいました。(６年)｣

壽小学校｢大震災遭難記｣から
｢(１日)そして、いよいよ夜になりました。すると朝鮮人が三百人来るとか三千人来るとかいって大さわぎになりました。そして七時ころ、○の中を歩いて居ると朝鮮人が立木にゆわかれ竹槍で腹をぶつぶつさられのこぎりで切られていました。そして其のあくる日からはかんごくのざい人が来て朝鮮人をふせいでくれました。(５年生)｣

｢(２日朝)丁度其の時、朝鮮人が逃げて来て、後ろから丸たん棒や色々な物を持って追っかけて来て、其の朝鮮人をぶっていた。其の中の一人の朝鮮人は死んでしまった。後の一人は頭の真中から血が流れて来た。(５年)｣

｢(２日朝)、そのあした、朝鮮人がころされているというので、私は行ちゃんと二人で見に行った。すると道のわきに二人ころされていた。こわいものみたさにそばによって見た。すると頭はわれて血みどりになって、しゃつは血でそまっていた。
　皆んなは竹の棒でつっついて｢にくたらしいやつだ、こいつがいうべあばれたやつだ｣とさもにくにくしげにつばきをひきかけていってしまった。(高等科１年)｣

｢(２日昼ころ)丁度其の時、上の山で『誰か早く来て下さい。鮮人が三人居ますよ。応援、応援』と云う若い男女の人の声がした。殺気立って居る人々は、我がちに声のする方へ向って行った。すぐその後ろから『井戸を警固して下さい』と云う声もした。私はずいぶんおどかされた。其の時、また一つの事件が持上った。其は、競馬の方から一人の男の人がお米をかついで下町の方へ行くのか丁度私達の居る前を通りかかった時、後ろから『待て、待て』と云う声がした。其の人がふりむくと『お前は朝鮮だろう』と云って身がまへをした。其の人は『私は日本人ですよ』と云った。『何、嘘を云ふな』と云いつつ、その人の頭をゴルフの道具でうってかかた。その人の頭からは、だくだくと生々しい血が流れ出た。其の人は｢いたい｣と云ってどんどん逃げていった。私の目の前でこの悲劇が行なわれたのでびっくりした。小さい子供はなき出した。私の目で見るとさっきの人はたしかに日本人に相違なかった。(高等科２年)｣

｢(１日夜から翌日)やっと皆んながねむりについた頃、がやがやという人声がきこえて、此方へ来るようであった。すると向うの方でピストルの音が五、六度したと思うと、ばたばたと人が此方へ来るようであった。私達の寝ている前へ来ると、土べたにべたっとすわった。こっちで寝ている人はたいがい目がさめてしまったから、其の人の様子を息をこらして見ていた。『私、朝鮮人あります。乱暴しません』といいながら、私達の方に向って幾度も頭をさげておじぎをしました。そこへ大勢の夜けいの人達が来て、其の朝鮮人に向って頭のような人がそばによって、『これ、お前はさっきいろといった所にいないでこんな所に来たのだ』『私さっきの地震おっかない事あります』『うそいえ、そんな地震いつあった｣朝鮮人はだまっていた。頭立った人は皆んなと色々と話をしていたが、又向き直って、『おい』『はい』『さっきけいさつのだんなと立ち合った時には、何んにも持っていないといったが、今お前のもっているのは何だ』『ええっ』と、いったが、『これさっきもらった米です』『そうか見せろ』『いえだめです』『何がだめだ。これでもか』といいながら、こしにさしてあった日本刀をぎらりとぬいて、朝鮮人の目の前につき出した。朝鮮人はそれでも大事そうに小さい油紙につつんだ物をはなそうともしなかった。私は心の中で早く出せばよいのに、たかがお米なら中を開いて見せてやればよいと思った。いつまでたっても返事をしないので、こん度は大勢の人が日本刀でほうをしっぱたいたり、ピストルを向けたりしても、鮮人はだまっていた。
　さっきの鮮人に向い『おい、だまっていちゃわからねえよ、なんとかしねえか』と、いって刀をふり上げて、力まかせに鮮人のほほをぶった。その時に月の光が輝いて、そのすごさといったら、身の毛もよだつくらいでした。いくらなにをされても鮮人は一言もはなさなかった。しらべる人からがをおって鮮人に向い、『おい、しかたがねえから、けいさつへ行ってだんなの前でお話をしろよ』そういいながら大勢でよってたかってかつぎ上げて、門の方へと行ってしまった。行った後は、やはり水をうったようにしんとしていた。私は翌朝までまんじりともしなかった。
　東の空がだんだん白んで来る頃、私は松山に行こうと思って足をはやめた。壽けいさつの前を通りこそうと思うと、門内からうむうむとうめき声が聞こえて来た。私は物ずきにも、昨夜の事などはけろりとわすれて、門の内にはいった。うむうむとうなっているのは、五、六人の人が木にゆわかれ、顔なぞはめちゃめちゃで目も口もなく、ただ胸のあたりがびくびくと動いているだけだった。
　私はいくら朝鮮人が悪いことをしたというが、なんだかしんじようと思ってもしんじる事はできなかった。其の日けいさつのにわでうめいていた人は、今何処にいるのであろうか。(高等科１年)｣

石川小学校高等科二年｢地震ニ関スル作文｣から
｢(１日夜から翌朝)夜になるとこんどは朝鮮人さはぎ、男の人は手に手に竹槍をもっている。私と弟はすみの方に蒲団をかぶって小さくなっていた。その中にチョウチンを消してくださいとゆうてきた。十時頃になるとむこうの方でやれ、やれと朝鮮人をおいかける声、私は生きているかいがなかった。夜になってもまだ地震はちょい、ちょいゆれる、その度に大きい木につかまっていた。
　朝になって外通へ行って見ると、朝鮮人がひもにゆはかれて、交番の前にいた。｣

｢(２日から翌日)今晩は、とぬきみを下げた男の人が来て、朝鮮人が襲来して来たから、朝鮮人と見たら殺してもよい、外出するには一切武器を持って歩きなさいと、ほうぼう言って歩く。恐い思ひをして、又恐い目にあわなければ良いかと思って、身震いをした。
　恐いながらも二日の夜は明けて、三日の朝となった。六時頃、向ふ山で女の人が、皆さん、早く来て下さいよう、朝鮮人が此ちへ逃げて来て、此の西洋館へ入って居から、早く、早くと手まねきをした。銃の音であろう、ヅドン、ヅドンとなった。半潰の西洋館へ皆んなはどんどん入って居って、朝鮮人を表へつき出して、棒でやつ者や丸太でぶって居る。すると其の朝鮮人は頭をおさへて、あいたいよ、いたいよ、御免よ、御免よと逃げまわって居る。其の鮮人は、すぐ警察につれて行かれたのであろう、又もや三日の晩は来た。｣

｢(１日)朝鮮人が火付けをしたり、人をころしに来るので、方々でかがり火をたいてわいわいいっている。夜中になると急にさわぎ出した。『そら川の方へいったぞ』『あっちへ逃げたぞ』そうゆう声がするたびに、びくびくする。時々地震が来るので、なほおぢけてしまう。明方になると、鮮人がつかまったといふので見にいくと、大きな人が電柱にゆはかれている。その鮮人は、おばたの長さんといふ人が、火をつけやうとする所を見つけてつかまへたそうだ。隣りの兄さんは大きな竹の棒で頭をぶった。私もぶってやった。｣

｢(１日夜から翌朝)それから夜になると、又、裏の戸板で寝るとその晩から朝鮮人のさわぎであちでもこっちでもわい、わいとさわぐので、寝てもこわくて寝て居られませんでした。そして、その夜も明けてその朝になると、朝鮮人が耳からえりの所にかけて切られて、肉がでて血がだらだら流れて居て、おかしな言葉でわいわい泣いて行って、警察へ連れて行って、大ぜの人々にさんざんにひどい目にあはされたりして、とうとうころしてしまひました。｣

｢(１日夜)すると朝鮮人が火附けするといって大さはぎしているので、もうこはくて一晩寝ずに番をしていた。男の人は鉄の棒を持ったり刀を持ったりして番をしてくれている。皆は夜の明けるのをまっていた。夜が少し明けかかるとそこの家の人はおむすびと梅干を一つずつくれた。皆お腹がすいているのでうまくてもまずくても夢中で食べた。それからお礼をゆって相澤の方へと下って来ると、交番の前に朝鮮人が電信柱へ針金でぎりぎりにゆはかれて半てんを着ている人に鉄の棒で頭をぶたれている。
　それから牛坂の方へと下りて来るとどこが車橋やらけんとうが附かないので、しばらく考えていると車橋が遠くの方に見えた。いそいでくるとまだ地面が焼けてほてってまだもへている所もあった。それから船へ行くと川にも焼けた人やころされた朝鮮人がぶくぶくあっちへ流れ、こっちへ流れ、其の度にくさくて、くさくてしようがなかった。それからのむ水がないので、氷会社へ氷をひろいに行くと男の人が通りの真中へとひっくりかへって死んでいた。私はそれを見て、もうきびがわるくなってしまった。｣

｢(３日)朝起きると朝鮮人がつかまったので、わいわいいっている。私はこはごは見にいった。其の人は、手から足からかたくしばられて、電信にいはいつけられていた。其のまありには、たけやりをもった人たちが、かたまっている。其の中の一人が、なかまは幾人だと聞いたら、ただ首をたれて何もいはないので、ぶてぶてといふのがどこからでも聞こえた。私はあまりのこはさに帰って来て話をしたら、かはいそうだけれどもしかたがないといふ人もあれば、もっとしてやればいいのにといふ人ばかりである。｣

｢(３日昼)運動場へ、へんなずぼんとしゃつを着た人が入って来た。だれかがおまへはだれだと云って聞くと、私たし日本人と言葉が大層へんであった。昨夜から鮮人が一ぞに時の声を上げてさわいて居るものですから、植木会社では先が尖った棒を皆に一本づつくれました。皆は朝からもらった棒を用心して、其れあやしいぞと云ふ声に其の棒をふりまはしてなぐりつけた。ごめんなさい、かんにんしてくださいと鮮人はさはいで居る。皆でしらべてぽけっとを見たら、どく薬だのマッチの紙を多さん持って居ると云って、こんなやつなんか殺してしまはなければ居けないと云って、やれ、やれと云って、ぶったりけったりなんかして、目の上の○をとびくり出した。其れでもおき上がろうとしてして居た。足と手をしばって学校の坂からづるづるとしきづって、車橋からほっぽってしまった。其れでもまだ上がってこようとした。皆で石を投げたりしたら、死んでしまった。｣

｢(２日)夜の十時頃で、家の上の男の子が栗の木の下で○の子といっしょに寝ていた所を、朝鮮人がその上を通ったといって、上の家の子が朝鮮人と間ちがえられて、竹やりでつかれたので、大さわぎになりました。朝になって上の家へ行ったら、足をつかれた男の子はいたそうな顔をしながらねていました。｣

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神奈川外キ連　第１３回神奈川の渡日者の足跡を訪ねるツアー

苦難の足跡関東大震災虐殺の足跡を訪ねる

日時　２００８年５月６日(火・休)１時～５時

集合　午後１時　ＪＲ保土ヶ谷駅
　　　※横須賀線です。東海道線は止まりません。
　　　※東口。改札を出て左。横浜銀行のＡＴＭ付近。

見学場所
　久保山墓地(震災無縁仏の墓・関東大震災殉難朝鮮人慰霊之碑)
　宝生寺(関東大震災韓国人慰霊碑)
　中村橋周辺の震災関係跡地
　※最後は在日大韓基督教会横浜教会でまとめの会を行い、当時の小学生が書いた震災作文の話を聞きます。
　※久保山墓地周辺は、上り坂・下り坂がけっこうあります。
　　久保山墓地をパスしたい方は、
　　２時１５分、京浜急行南太田駅前で合流とします。
　　申し込みの際、お申し出ください。

参加申し込み
　５月３日(土)まで神奈川外キ連事務局　伊藤明彦へ。
　Ｅ-メール　aky-ito☆r04.itscom.net
　　　(☆を@に変えてください)

・履き慣れた歩きやすい靴でご参加ください。
・タオル、飲み物などは各自ご用意下さい。
・集合時にトイレはすませておいてください。
・荒天以外は実行します。
・解散は５時頃、横浜教会です。(ＪＲ石川町駅へ１０分)

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2007年11月23日

第12回神奈川の在日者の足跡を訪ねるツアー

　強制労働の足跡「こどもの国を訪ねる」

　１１月２３日(金)、晴天、風が冷たかったのですが、こどもの国(田奈部隊：東京陸軍兵器補給廠（しょう)田奈部隊填薬所)を訪ねました。参加者は１４人でした。

　見学のポイントは次の通りです。
＜こどもの国周辺＞
・徳恩寺→戦時中、この寺の墓地の土手に、横穴を堀り７～８人の朝鮮出身者を葬った、と言い伝えられています。墓地の最上段にある｢千秋の丘｣は横浜の野宿生活者の墓ですが、1991年、時代身元不明の朝鮮出身者と思われる骨も合葬しました。
・南寮跡地→田奈部隊発足後の作業員宿舎で、朝鮮出身の作業員はこの南寮を中心に寝泊まりした。敗戦後、朝鮮出身者が集まり住み、1945年11月頃には朝鮮人連盟の長津田支部がおかれ、民族学校も開かれました。
・引き込み線と分岐点→弾薬運搬のための引き込み線は現在、東急こどもの国線になっていますが、当時は２つに分かれていました。その分岐点に２本の線路と橋が残っています。さらに奈良橋バス停付近で１本線路が見えています。引き込み線の建設には、職を求めて集まった朝鮮出身者も多く作業していると考えられます。
・恩田倉庫跡地→中恩田交差点から住吉神社までの、道路をはさんで、こどもの国線とは逆側の丘一帯に恩田倉庫がありました。７００以上の素堀りの横穴で、ほとんどが職を求めて集まった朝鮮出身の作業員によって掘られました。部隊の弾薬や資材を保管しました。
・松岳院→1945年４月米軍機が墜落し、パラシュートが開かず死亡した米軍兵を埋葬しました。
・勤労学徒慰霊碑→1944年11月、学徒動員された学生を乗せたトラックが、住吉神社前で川に転落し、６人が死亡しました。その慰霊碑が1953年に建立されました。死亡した６人の名が刻まれています。２００６年に設置された新しいプレートがありました。
＜こどもの国園内＞
・司令部壕→ゲートを入って直ぐ左手、従業員の駐車場にある建物と建物の間の、崖の下にあります。入口手前の駅や駐車場殻の陸橋から確認できます。
・平和の碑→入口ゲートをくぐった右手の丘に憲兵詰所と女学生用休息所がありました。現在ここには「平和の碑」が建っています。学徒動員で田奈部隊で弾薬作りを行った、神奈川高等女学校の30回生の有志が、「自分たちの造った手榴弾が、沖縄の人たちの自決に使われたかもしれない。自分たちの造った武器が、自分が知らない所で、人を傷つけ、そして人を殺していた・・・」という思いから「戦争のない世界を願って」1996年にこの碑を建てました。
・中央広場→引き込み線の一方は、現在の中央広場まで伸び、ホームがありました。ここで1945年２月７日昼前、馬車から貨車への積み込み作業中だった棒地雷が突然大爆発を起こし、近くの倉庫にあった爆雷用火薬２トンが爆発、馬と６人の作業員が一瞬で細かい肉片になり四方に飛び散りました。馬肉と人肉の区別は不可能で、集めた肉片を６つに分けて遺族に引き渡しました。負傷者も多数あり、たまたま食事当番だった女学生が負傷、片足を切断しました。
・弾薬庫跡→３３か所の半洞窟式弾薬貯蔵庫の他、有煙薬火薬庫、無煙薬火薬庫、水畜火薬庫（黄燐）、未填薬弾薬庫などがありました。弾薬庫は、丘の斜面を横から掘って平らにし、コンクリートで作ったのち、再び土をかぶせました。ひとつの弾薬庫に入口２つ、換気筒２つが基本です。この建設作業には、当時日本の植民地だった朝鮮からの強制連行者が従事していたとかんげられます。現在、弾薬庫跡は変電設備等、別なものとして利用されています。(写真は｢無名戦士の像｣に使われている弾薬庫跡)
　参加者によって、弾薬庫の作り(石の並べ方など)が朝鮮式であるということが指摘されました。

タグ：: こどもの国; 在日; 戦跡

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2007年05月03日

第１１回　在日者の足跡を訪ねるツアー

強制労働の足跡
　　相模湖・ダムを訪ねる

　２００７年５月３日、１９人が参加。

　相模湖は相模ダムによってできた人工湖。京浜工業地帯で軍需品を量産するための大量の電力と工業用水の確保のため１９４０年に着工、１９４７年に完成しました。のべ360万人がダム工事のために働き、その３分の１が朝鮮の出身者でした。他に捕虜として強制連行され、相模湖・ダムで働かされた中国人が２８７人いました。この相模湖を｢神奈川の在日者の足跡を訪ねるツアー｣で訪ねるのは２回目です。

　一行はまず県立相模湖交流センターへ行き｢相模湖・ダムの歴史を記録する会｣の方と合流しました。この交流センターの建物がある場所は当時の｢朝鮮人収容所｣跡地です。ここに収容され強制労働をさせられた朝鮮出身者は、補充され常時３５０名、熊谷組が直接管理し｢マルボウ｣と呼ばれていました(Ｏに｢募｣と書かれた帽子をかぶっていた)。
　
　ビデオを見て(ＮＨＫ横浜やＴＶＫが放送した｢記録する会｣の取り組みを紹介した番組)、事前説明を受けた後、相模湖畔の｢湖銘碑｣へ(写真)。この碑は｢記録する会｣の運動によって建てられたもので、碑文は日本語・韓国語・中国語で、当時の長洲神奈川県知事の名で書かれています。そして８３名の殉難者の名が刻まれています。
　
　次にダムの上に立ちました。当時は機械がなく、手押しのトロッコでの砂利や木材の運搬です。他にもダイナマイト発破、縦坑掘など、危険な重労働であったことを思い起こすことができました。
　
　相模ダムと相模湖大橋の間に木々に囲まれて慰霊塔があります。この碑には５２名の名しか記されていません。中国人殉難者は１名も刻まれていないのです。
　
　その後、交流センターに戻り｢記録する会｣の方から補足説明を受け、質疑、意見交換をし理解と交流を深めました。イラクの問題や９条の問題なども話題になりました。｢記録する会｣は、地元での運動ですので多くの地元の人たちから聞き取りをしています。その中で｢工事で亡くなった朝鮮人を埋めた場所がある。今もその場所を知っている。しかしその場所は現在、民家が建っている。だからその場所は言えない｣という話も聞いているそうです。発破をかけるなど危険な仕事はいつも朝鮮出身者が行なった、記されている以外にも亡くなった人がいて埋められた、中国人の捕虜についてはＧＨＱが調べた、朝鮮出身者は敗戦直後逃げてもらった、書類は全部焼かれた・・・、このような話が印象的でした。

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2006年05月05日

在日者の足跡｢工都川崎｣

川崎の足跡

川崎市役所
　戦前戦中、川崎市役所に多数の朝鮮出身労働者が働いていました。｢横浜貿易新報｣１９４２年９月２７日の記事には｢川崎市が糞尿処理のため川崎署の尽力により半島出身人夫２１名を採用し…｣とあります。この後｢実によく働く｣との談話が掲載されています。また同１９４３年４月１１日の記事には｢川崎市の清掃課では糞尿汲取人夫の労力難を打開すべく川崎署の応援を得て昨年９月以降半島出身者３０余名を雇用し…｣とあり、彼らの大部分は日本に来たばかりで言葉も通じないものが多く、25名が尋常夜学校での勉強を希望し、大島国民夜学校に入学したと掲載されています。

川崎社会館跡
　現川崎区役所の裏手に｢川崎社会館｣という施設がありました。１９２１年に神奈川県匡済会によって設立された施設で、労働者合宿所のほか、簡易食堂、公設浴場、公設市場などがありました。開設した１９２１年、宿泊者の３％を、また世界恐慌期の１９３１年には約３０％を、朝鮮出身者が占めていました。

稲毛神社
　太平洋戦争開戦直後の１９４１年１２月９日。川崎市議会議員全員が、戦勝と皇軍の武運長久祈願を行ないました。

川崎南税務署(殉職官吏故端山豊蔵之碑)
　戦後１９４７年、税務署員が川崎区池上新町の朝鮮人集住地区を酒税法違反で捜査していました。敗戦直後の当時｢どぶろく｣づくりは朝鮮出身者にとっては生活の糧でしたが、酒税法により密造酒とされ、違法行為とされたのです。６月２３日、捜査中の税務署員が刺殺されるという事件が発生しました。
　１９５０年１０月に、川崎南税務署敷地内に｢殉職官吏故端山豊蔵之碑｣が建立されました。当時の東京国税局長阪田泰二氏によるこの碑の建立趣旨文には｢第三国人｣｢不逞の報復｣など、差別的な表現が見うけられます。

殉職官吏故端山豊蔵之碑｢建碑趣旨｣
　故大蔵事務官端山豊蔵氏は戦後世態の劇變に伴う道徳の頽廢に因り税法違反日に多きを加えんとするに際し神奈川税務署関税課長としてこれら悪質犯罪者の摘發に日夜鞅掌しつつありたるが偶偶昭和２２年６月２３日第三国人酒税密造の報に接し卒先課員を統卆してこれが取締に當たりたる處不幸凶漢の不逞の報復に遭い遂に前途有為の身を犠牲に供しその職に殉ずるにいたり

トキコ(元東京機器工業川崎工場)
　１９４５年４月東京機器工業川崎工場に朝鮮出身労働者を連行した、という記録があります。｢トキコ社史｣には｢内地からの応徴士が労働給源窮迫により、徴用困難となってきた２０年４月には、朝鮮から半島応徴士(当時訓練生と称した)７４名をも受け入れた｣とあり、さらに｢川崎労働史｣には当時の同社勤労課長の説明として｢軍需省、県とが打ち合わせて割り当ての指示があり、２人の職員が京城までゆき、多分朝鮮総督府の関係者からでしょう、１００名から１２０名かの名簿をもらい連れてきたのです。途中、釜山その他で逃亡してしまい、川崎に着いたのは７２名でした。しかし、７２名というのは珍しく良い方だと、県や関係者から言われました｣とあります。

川崎沖縄労働文化会館
　１９２０年頃、｢富士瓦斯紡績｣には、１０００人もの沖縄出身の女性が働いていました。｢富士瓦斯紡績｣が沖縄から多くの女工を集めた背景には、砂糖価格の暴落にともなう｢ソテツ地獄｣と呼ばれる沖縄県民の窮乏化という現実がありました。｢富士瓦斯紡績｣では１５４名が関東大震災で亡くなり、そのうち沖縄出身者が４８名でした。関東大震災の復興のために、さらに多くの沖縄出身者が川崎に来るようになり、この会館がある川崎区中島を中心に住むようになりました。

中島八幡神社(朝鮮池跡地)
　中島八幡神社の脇に、かつて｢朝鮮池｣と呼ばれる池がありました。１９１０年頃から川崎区内では、工場や家屋の盛り土用に各所で土が掘られました。その跡は池となりました。中島八幡神社の脇を掘ったのは朝鮮出身者で、この池の周辺に朝鮮出身者の集落があったと言われています。

大島八幡神社(砲弾を持つ狛犬)
　大島八幡神社には、砲弾を持つ狛犬があります(写真)。これは日露戦争に参加した大島村の人たちが、１９０６年に奉納したものです。日露戦争は、日清戦争に勝利した日本とロシアが、朝鮮の支配権を争ったもので、ポーツマス条約で、日本は大韓帝国に対する支配権をロシアに認めさせました。

ふれあい館
　ふれあい館は１９８８年に川崎市によって建設されました。在日コリアン多住地域の桜本地区で、地域の人びとが認めあい共に生きる地域社会の創造を目的としています。ふれあい館の事業には、地域の子どもたちがいつでも来て遊べるプログラム、学童保育、ハングル講座、チャンゴ講座、歴史や人権に関係する講座などがあります。

川崎と朝鮮出身者

大工場建設にともなって
　川崎には第一次世界大戦頃から朝鮮出身者が暮らしています。次々に建設された大工場｢日本鋼管｣｢富士瓦斯紡績｣｢鈴木商店(現・味の素)｣｢浅野セメント｣や、臨海部の埋め立て工事の労働力として日本に渡航した人たちでした。

関東大震災の頃
　１９２３年の関東大震災の時には、川崎市内全域でも｢朝鮮人暴動｣のデマが広がり、自警団が組織され暴行・虐殺が行なわれました。震災後、帰国した人たちもありましたが、多くの人は震災の復旧工事に従事しました。川崎では、公的施設や工場などの復旧に果たした朝鮮出身者の役割は大きいものでした。この復旧工事を期に、朝鮮出身者の人口は急増しました。

植民地政策による困窮から
　１９２０年代から、日本の植民地政策、｢土地調査事業｣や｢産米増殖計画｣などによって｢朝鮮｣では生活できなくなった人たちが渡航します。当時朝鮮出身者は、社会的差別の中にあり、低賃金・重労働の職業しか得られず、解雇も日本人に先立って行なわれました。世界恐慌後は就職難の時代で、特に朝鮮出身者の状況はひどく、川崎市の歳末失業救済事業の登録者数の記録によれば、
　　１９２９年　１０００人中　　８０８人が朝鮮出身者
　　１９３０年　２５８７人中　１４７８人が朝鮮出身者
　　１９３１年　４１２４人中　１４４７人が朝鮮出身者
という状況です。
　こうした中、｢神奈川朝鮮労働組合川崎支部｣(１９２７年)などの団体も発足し、活動が展開されました。しかし｢朝鮮出身者｣の労働運動は、厳しい弾圧を受けたのでした。
　１９３０年代は軍需増産のため、臨海工場地域の拡張が進み、朝鮮出身者が増加する一方、川崎市外からの労働者も集まり、慢性的な住宅不足となりました。朝鮮出身者は、貧困と社会差別から、よりいっそう劣悪な環境の地域に住む人が増えました。

朝鮮出身労働者の「募集」
　１９３９年７月４日、「労務動員実施計画綱領」が閣議決定され、この年の朝鮮出身者の労務動員予定数が８５０００人と決定しました。その後、厚生次官、内務次官、また厚生省職業部長、同省社会局長内務省警保局長から、各地方長官に通達が出されました。さらに朝鮮総督府政務総監は９月１日、各道知事に｢朝鮮人労働者内地移住ニ関スル件｣という通達を出し、集団連行に協力を命じ、｢朝鮮人労働者募集竝渡航取扱い要綱｣を通知しました。
　｢募集｣を希望する事業主は｢朝鮮人労働者募集雇入願｣を職業紹介所を通じて地方長官に提出、厚生大臣の承認、朝鮮総督府の承認を得て、事業主は総督府に指定された地域で｢募集｣を行います。この１９３９年秋の｢募集｣には、生活が苦しくなった朝鮮の農民が多数応募しました。しかし、９月２２日付の｢住友鉱業株式会社｣の｢半島人雇用ニ関スル件｣という文書には、｢(募集ハ)朝鮮官憲ニヨッテ各道各郡各面ニ於テ強制供出スル手筈ニナッテ居ル。即チ警察ニ於テ割当数ヲ必ズ集メル。之ヲ各社ノ募集従事者ガ詮衡スルコトニナッテ居ル｣と記されており、割当数に達しなければ｢強制供出｣も辞さないという姿勢でした。
　実際、｢募集｣人員に達しない場合、郡庁官吏や警察官が面(村)を督励して人員を｢供出｣させています。郡や面への割当てや｢応募｣の督促が官憲によって行なわれており、｢募集｣とは名だけで、実際は｢官斡旋｣でした。｢面事務所の書記や、駐在所の警官に『募集に応じなければ、罰を受ける』とおどかされれば、応じないわけにはいかない｣との証言もあり、この｢募集｣は立場の弱い農民に集中したものであり、｢強制｣と言わざるを得ません。

官斡旋
　１９４２年から、事業主の｢募集｣に朝鮮総督府が援助するという｢募集｣方式から、朝鮮総督府や地方官庁およびその外郭団体が、労働力の徴発の主体になる｢官斡旋｣方式に転換しました。
　同年２月７日朝鮮総督府政務総監から各道知事に通達した｢労務動員実施計画ニヨル朝鮮労働者ノ内地移入斡旋要綱｣によると、事業主は道府県の承認を受け、朝鮮総督府に｢朝鮮人労働者の斡旋｣を申請します。総督府は徴発する人数、期間、地域を決定します。この決定が、その地域の職業紹介所と事業主に報告されます。そして職業紹介所がその地域で労働者を集め、事業主の代理人に引き渡します。
　その実態は、｢募集｣段階でも駐在所の警察官や面の役人による強制強圧的な応募が行なわれましたが、｢官斡旋｣段階では、露骨な強制連行が一般化していたと考えられます。北海道の日曹塩炭鉱の労務課員が同係長に宛てた１９４２年１０月付の手紙には「ただ今の処申込者なく予定人員困難かとも存ぜられ候。この上は各面担当係員を大いに働かせる外なくさらに郡庁を動し徴用令式に引張り出す様手段を依頼致すかと思料致し居り候」とあり、応募者がない状況で、郡庁に徴用令式に、つまり強権を発動して労働力を徴発することを依頼しようとしていたことがうかがえます。また、北炭幌内炭鉱の労務課員は、１９４５年３月付の｢朝鮮募集出張報告｣の中で、｢官斡旋ニ於テモ事実上強制的ニ送出セラレ居リタレバ｣と述べ、｢官斡旋｣が事実上強制的であったことがわかります。

国民徴用令の適用
　１９４４年９月、朝鮮からの労務動員に国民徴用令が適応されました。ここで法的にも｢強制｣になりました。青紙一枚で強制的に動員させられたのです。このとき、国民徴用令が適応されたのは、一般の労務動員で、軍属など軍需要員の朝鮮からの動員は、１９４２年１月から行なわれていました。
　第６代朝鮮総督宇垣一成の秘書鎌田沢一郎は、著書である｢朝鮮新話｣のなかで｢納得の上で応募させていたのでは、その予定数になかなか達しない。そこで郡とか面とかの労務係が深夜や早暁、突然男手のある家の寝込みをおそい、或いは田畑で働いている最中に、トラックを廻して何気なくそれに乗せ、かくてそれらで集団を編成して、北海道や九州の炭坑へ送りこみその責を果たすという乱暴なことをした。但、総督がそれまで強行せよと命じたわけではないが、上司の鼻息を窺う朝鮮出身の末端の官吏や公吏がやってのけたのである｣と記しています。

川崎への労務動員

【日本鋼管川崎工場・扇町工場】
　日本鋼管は１９４２年３月から１０月までの間に、５回にわたって主に京畿道から青年を｢集団移入｣しました。割当て１０００人に対し、９９９人が｢移入｣しました。予定通り｢移入｣できたということになります。１９４４年以降について記された文献はありませんが、日本鋼管で働いたある朝鮮出身労働者は｢ひとつの工場で(朝鮮出身労働者が)３０００人くらい働いていた｣と証言しています。

【味の素川崎工場】
　｢味の素株式会社社史１｣には、１９４５年２月～８月に、｢朝鮮人４９名(延人員)｣を雇用したことを示す記載があります。

【いすゞ自動車】
　｢いすゞ自動車５０年史｣に｢１８３名の朝鮮人徴用者(昭和１９年入職、２０～２４歳、川崎、鶴見、末吉配属)｣という記載があります。

【日本治金川崎工場】
　｢日本治金工業６０年史｣に｢戦時労働力の補充のために朝鮮半島出身者が集団的に日本に送られてきたが、当社も支社の勤労課員を数度にわたって朝鮮半島に派遣し、正規の手続きによって現地で希望者を募集し、集団的に雇用した｣という記載がありますが、人数などは不明です。また川崎市の｢川崎空襲・戦災の記録｣には、戦時下の生活記録として、日本治金川崎工場に勤務した人の話が掲載されています。それには｢朝鮮労務者は毎日のように人員が逃亡し少なくなる。無理もない。食は悪く、また少なく、労働は重労働、言葉は通じないなどで、空襲の時、統制が乱れ、焼夷弾などでたおれていく｣と記されています。

【日本鋳造川崎工場】
　｢日本鋳造５０年史｣に｢徴用工は静岡、神奈川、東京および東北地方、朝鮮などから入所し｣４つの寮に収容されたとあります。

【昭和電工川崎工場】
　｢昭和電工川崎工場史(稿)｣に｢半島労務者は既に炭鉱労務者としてその出勤率、稼働率共に極めて良好で定評を博していた。当工場の半島労務者の採用は昭和１８年(１９４３年)から始まる。第１回が６０名前後の採用で２回行われ、Ｓ氏がはるばる海を越えて半島に渡り採用してきたのである。約１３０名が皐橋の工場に宿舎で入ってそこから工場に通い訓練工として増産の一翼を担ったのである｣と記されています。

【昭和電工アルミニウム】
　｢昭和電工アルミニウム５０年史｣に｢(政府は１９３８年４月)学徒、婦女子を動員し、さらに朝鮮、満州、台湾から強制徴用した労働力を各軍需産業に振り当てた。当社にも朝鮮で採用した相当数の人員が配属された。しかし、こうした転換労働・強制労働力は一般に質が劣り、特に強制労働者の場合は逃亡が相次ぐなど定着率は低かった｣と記載されています。

【日本油化工業】
　１９４５年７月２５日午後１１時、空襲により扇工場で勤務中であったもの７０数名のうち、日本人４０名、朝鮮出身者２１名が死亡しました。実際、勤務していた朝鮮出身労働者総数は、さらに多いと考えられます。

【海軍分工場用埋立地造成】
　１９４３年横須賀海軍工廠が分工場設立のために、現在の千鳥町の埋め立てに着手しました。この造成工場に朝鮮出身の軍属も従事していました。この工事のために、１９４４年に連行されたある朝鮮出身の軍属の証言によると、全体で約５０００人の軍属うち朝鮮出身者は２５０～３６０人、架橋工事や整地に従事しました。

＜参考文献＞
・神奈川のなかの朝鮮
　　　　明石書店
・神奈川と朝鮮―神奈川と朝鮮の関係史調査報告書
　　　　神奈川県渉外部

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2005年05月28日

在日者の足跡｢日吉台地下壕｣

日吉に移転してきた軍事施設

　太平洋戦争末期、激しくなる本土空襲。これを避けるため、日本軍のさまざまな機関・施設・軍需工場などが地下に移されました。日吉台地下壕は、連合艦隊司令部など海軍の重要な施設がおかれた地下施設です。
　１９４４年３月、多くの学生が出陣した慶應大学のキャンパスに、海軍の軍令部第３部(情報部)が移ってきました。連合国の情報収集とその分析が任務でした。連合艦隊司令部は、巡洋艦｢大淀｣にありましたが、ここでは充分な司令部としての機能を果たせなかったこと、また｢大淀｣とその護衛駆逐艦３隻を戦力として使うため、司令部は海上から陸上の日吉に１９４４年９月に移されました。日吉が選ばれら理由として、無線通信の受信状態がよい、地上に堅牢な建物がある、地下壕が掘りやすい、東京に近く軍令部に連絡がとりやすい、などがあげられます。
　海軍省人事局は霞ヶ関にありましたが、空襲を避けるための地下壕が完成した１９４５年２月ごろに日吉に移ってきました。海軍省航空本部は５月の空襲で一部焼かれ、６月に日吉に移りました。海軍省艦政本部も空襲を避けるために日吉に移転予定で、地下壕が掘られましたが、移転前に敗戦となりました。
　その他、東京警備隊、東京通信隊、海軍水路部、功績調査部などが日吉の来ていました。
　この日吉地区は、海軍がきたためか、横浜大空襲(１９４５年５月２９日)の前に３回(同年４月４日、４月１５日、４月２４日)もの空襲があり、日吉駅周辺の木造の建物は８０％以上焼失し、多くの人が亡くなりました。
　敗戦後、１９４５年９月、日吉にも米軍が進駐してきました。日吉の町はさながら米軍基地の町になり、さまざまな問題が起こりました。１９４９年１０月、日吉キャンパスは米軍から慶應に返還され、現在に至ります。

日吉台地下壕
　慶應日吉キャンパス内だけで３ヶ所２６３６ｍ、他に箕輪地区の慶應普通部の南側や日吉駅西北西約２㎞のところにも地下壕があります。日吉周辺全体では５ｋｍ以上の地下壕が掘られました。たんなる防空壕ではなく、｢地下施設｣と呼ばれていました。

海軍通信隊の地下壕
　日吉駅西北西約２㎞、川崎市蟹ヶ谷の２００ｍ程度の壕。艦船からの通信を一手に受信する基地で、司令部と地下ケーブルでつながれ、アメリカ人・イギリス人の捕虜が数十名いて、連合国の通信を傍受させていたといいます。１９４４年の春から秋にかけて建設されました。

大本営海軍部軍令部第３部(情報部)の防空壕(待避壕)
　慶應キャンパス内、慶應高校校舎(第一校舎)近く。高校校舎の南玄関前に、防空壕の出入口がありましたが、今は出入口が壊され、中に入れません。
　１９４４年７月１５日に、海軍第３００設営隊がこの軍令部第３部(情報部)の防空壕(待避壕)を掘りはじめました。

連合艦隊司令部の地下壕
　慶應キャンパス内、南側の丘の西側の壕。非常に複雑で迷路のような壕。堅牢で完備された壕で、連合艦隊司令部が入り、後に新設された海軍総隊司令部が入りました。キャンパス内の地下壕は、周りが３０～４０㎝のコンクリートでできており、作戦室・電信室・暗号室など重要な部屋には、当時としては珍しかった蛍光灯が使用されていました。ここから、レイテ作戦、沖縄作戦、特攻隊・戦艦大和の出撃などの指令が出されました(写真)。
　１９４４年８月１５日から１５００人規模の第３０１０設営隊がこの連合艦隊司令部の地下壕を掘りはじめ、暗号・通信室や作戦室などが完成した９月２９日に、連合艦隊司令部が移ってきました。この第３０１０設営隊は赤紙１枚で徴用された４０歳前後の兵で構成されていました。

大本営海軍部軍令部第３部(情報部)・海軍省航空本部の地下壕
　慶應キャンパス内、南側の丘の東側の壕。連合艦隊司令部の地下壕とつながっています。現在、東海道新幹線がこの地下壕の上を走っています。

海軍省人事局の地下壕
　慶應キャンパス内、北側。中心に広い地下室があり、その部屋から６本の地下壕が放射状に延びています。
　１９４４年１０月に第３００設営隊は｢館山航空基地飛行機随道｣設営のために移って行き、これと入れ代わって、この海軍省人事局の地下壕掘りのために、東京地方施設事務所編成の部隊が、鉄道工業株式会社を協力作業隊にして駐屯しました。鉄道工業は、民間建設業者で、鉄道工事、特に随道を掘ることが専門でした。この鉄道工業から派遣された民間人は約２０００人で、このうち少なくとも７００人は｢朝鮮｣出身の労働者でした。

海軍省艦政本部用地下壕
　日吉駅西側、慶應普通部(中学課程)の南側。東西方向の１０本の壕をアミダくじのように南北の壕がつないでいます。全長約２㎞。北よりの４割ほどの壕は、コンクリートや大谷石で作られていますが、他は素彫りのままです。
　この地下壕は海軍省の艦政本部が入る予定のもので、１９４５年１月から工事が開始されました。８月１４日に完成し敗戦となりました。この掘削工事にも｢朝鮮｣出身労働者が１５０人ほど従事したと言われています。

日吉地区と｢朝鮮｣出身労働者

　日吉には多くの｢朝鮮｣出身者が住んでいました。１９２６年に一部開通し１９３２年に全線開通した東横線の建設工事に当たって、多くの｢朝鮮｣出身労働者が働いていました。１９３４年に慶應義塾大学予科が日吉に移転した際にも、日吉にあった｢朝鮮｣出身者の土木建築工事業者のもとには、数十名の｢朝鮮｣出身労働者がいて、校舎建築を請負い、丘を削って整地するなどの作業を行なったという証言があります。
　そしてこの地下壕掘りにも、多くの｢朝鮮｣出身者が従事しています。地下壕建設従事者は、約３２００人、そのうち設営隊が約１２００人、民間建設業者である鉄道工業株式会社が連れてきた労働者が約２０００人、その中の少なくとも７００人は｢朝鮮｣出身者だったと言われています。地下壕掘削は、昼夜兼行で３交替、主にツルハシで掘り、硬い所は発破をかけました。掘り出した土はトロッコで運び、田畑に捨てました。地下水が出る所など、危険な場所の難工事に従事させられるのは、｢朝鮮｣出身労働者でした。賃金は安く、食事は海水で作ったみそ汁と豆粕の入った飯などでした。キャンパス内で働いていた２０歳前後の若者が、日本語を話すことができず、手まねで｢何か食べさせて欲しい｣としばしばやって来たので食べさせてあげたという、地元の人の話もあります。夜になると白木の箱がトロッコに乗せられて、地下壕の中から出てくることを何回も見かけたという地元の人が何人もいました。工事の犠牲者｢６人｣と報告されたものがありますが、それが正確なのか、｢朝鮮｣出身労働者に犠牲者がいたのかなどは不明です。
　保福寺近くの慶應のテニスコート付近と、日吉台小学校から赤門坂(通称)を下った付近に｢朝鮮｣出身労働者の飯場がありました。｢朝鮮｣出身者の不満が直接日本人にぶつかることがないよう、｢朝鮮｣出身者の｢親方｣が立てられていました。
　敗戦間近の１９４５年８月、横須賀にいた｢朝鮮｣出身の軍属の半数２００人が日吉にやってきました。これは日本兵とのトラブルを避けるためだったと言われています。

参考文献
・神奈川と朝鮮―神奈川と朝鮮の関係史調査報告書―
　　　神奈川と朝鮮の関係史調査委員会
・神奈川県の戦争遺跡
　　　神奈川県歴史教育者協議会　大月書店
・神奈川のなかの朝鮮
　　　同編集委員会　　　　　　　明石書店

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2004年05月03日

在日者の足跡｢軍都横須賀｣

軍都横須賀の歴史

＜横須賀海軍工廠＞
　1853年のペリー来航後、海軍力不足を痛感していた幕府は、戸数約２００戸の漁村だった三浦郡横須賀町に、1864年、造船所を建設することを決定しました。横須賀はフランスの軍港ツーロンに似ていることから選ばれたのでした。翌1865年に横須賀製鉄所として起工式が行なわれました。製鉄所はフランスの援助を受けて順次施設が建設、整備され、1867年の明治維新を経て、1871年、第一船渠(ドック)が完成、名称も横須賀造船所となりました。造船だけではなく、鉱山機械の製造や鉄道レールの製造等も行なっていました。管轄も大蔵省、工部省と変わり、1872年には海軍省の管轄になりました。移管後、軍艦の建設が始まり、1885年までに｢清輝(せいき)｣をはじめ660トンから1550トンの木造軍艦6隻を竣工させました。1888年以降に着工した軍艦は全て全鋼鉄艦となりました。
　1882年から海軍の造兵工場の建設も始まりました。長浦湾から浦賀までの地域には、海軍機関学校、海軍水雷学校、横須賀海兵団、海軍砲術学校などが次々に設置されました。　1884年、横浜にあった東海鎮守府も横須賀に移転、横須賀鎮守府と改称されました。これにより海軍関係のほとんどの施設が横須賀に集まり、海軍艦艇の多くも横須賀港を母港とすることになりました。三浦半島の東岸は、東京湾を守る上で重要な位置にあるとされ、砲台や弾薬庫の建設も次々に行なわれました。横須賀と横浜を結ぶ陸路は丘陵が多く不便だったため、1887年には国道の改修が行なわれ、1889年には横須賀線が開通しました。
　1894年６月から、横須賀造船所は完全徹夜体制に入り、工員の平均作業時間は１日17時間以上となり、同年８月、日清戦争が開戦しました。戦後の1897年、横須賀造船所は横須賀海軍造船廠となり、1903年、造船廠と兵器廠が統合され横須賀海軍工廠となりました。建艦能力はいっそう高まり、多くの巡洋艦、駆逐艦、水雷艇が建造されました。民間でも1896年、浦賀船渠が創立、1898年には石川島造船所浦賀工場が開業しました。日露戦争後、海軍工廠では１万トンを越える戦艦「薩摩」や、潜水艦の建造も始まりました。1907年には横須賀の人口が約6万3000人であるのに対し、横須賀海軍工廠の職工は1万3000人もいました。

＜軍都横須賀＞
　1930年のロンドン海軍軍縮条約の影響で、横須賀海軍工廠の人員整理が行なわれました。しかし1931年の満州事変、1932年の上海事変を経て、横須賀海軍工廠では軍需生産が活発になりました。特に航空母艦の建造に力をそそぎ、1939年に中型空母「飛龍」を、1941年に大型空母「翔鶴」を完成させました。
　海軍の要請により、1943年、浦賀、逗子、長井、大楠、北下浦、武山の４町２村は横須賀市に合併させられました。これによって軍関係の施設が散在するこの地域を、行政、警察、交通、通信の面から有機的に統合し、大軍港都市横須賀が誕生したのでした。1944年の横須賀の人口は約45万人。海軍工廠に勤めていた工員は7万6500人にもなりました。

＜横須賀の在日者の足跡＞
　大日本帝国海軍横須賀鎮守府、横須賀海軍工廠、横須賀海兵団などがあった大軍港都市横須賀。この横須賀に当時日本の植民地だった｢朝鮮｣から多くの人が強制連行され強制労働させられていました。この人たちが、地下壕・海軍施設・道路・鉄道・河川改修などの工事に動員させられていたことは、当事者や市民の証言からわかります。しかしこれを示す記録は敗戦直後かなり焼却されているので、正確な人数はわかりません。しかし記録が残り、わかっているだけでも6000人近くになります。
　1944年ころから空襲が頻繁になり｢本土決戦｣がスローガンとなって、多くの防空壕が掘られるようになりました。横須賀の大規模な地下壕は記録に残るだけでも115ヶ所にも及びます。地下工場や地下司令部などの壕の建設には、ほとんど例外なく当時日本の植民地だった｢朝鮮｣出身の労働者が参加しています。

追浜周辺の足跡

　追浜周辺には横須賀海軍航空技術廠、横須賀海軍航空隊、海軍航空廠などがありました。1945年の｢内鮮関係書類綴｣の中に、横須賀海軍施設部第113部隊から469人が、1945年９月30日に、間宮丸という船で祖国に送還されたという記録があります。この第113部隊は追浜にあり、その部隊長の人物譜の中に｢専ら穴掘り｣と書かれています。つまりこの469人は、追浜周辺の防空壕を掘らされたことになります。
　いくつかの証言をまとめると、防空壕を掘ったのは、海軍兵、第二国民兵、徴用工、そして｢朝鮮｣出身労働者で、仕事はかなりきつく、最も危険な所は｢朝鮮｣出身労働者が作業をやらされていました。飯場は強制疎開させられた家が使われ、飯場は方々にありました。夜になると飯場から悲しげな声でアリランが聞こえてきました。朝５時に起床し、労働は朝６時から夏は午後７時まで、冬は午後５時まで。内容は防空壕掘りの他に石灰かつぎ、トンネル掘り、飛行場の拡張･･･きつい仕事はみんな｢朝鮮｣出身労働者がやらされました。防空壕を掘り進めるときにダイナマイトで岩を爆破する発破作業で、直後の落盤事故が｢棚落ち｣と呼ばれ、多くの死者を出しました。｢朝鮮｣出身労働者の遺体は引き取り手がありませんでした。防空壕の上に設置してあった高射砲を撃つ衝撃で防空壕の天井が崩れて死者が出たこともありました。

＜天神橋＞
　横須賀海軍航空隊の陸上飛行場を建設するため、1918年から1926年まで夏島の埋め立て工事が行なわれました。その作業に従事した｢朝鮮｣出身労働者が天神橋付近に住んでいました。バラックが５，６棟あり、１棟が数軒に分かれていました。

＜浦郷＞
　浦郷の地下壕は総延長13ｋｍもあったといわれています。追浜には日本軍にとって重要な施設が多かったため、空襲そして｢本土決戦｣に備え、この大地下壕が掘られました。｢日本防空史｣には、浦郷の地下壕のことが｢旧横須賀海軍工廠の兵器地下工場で、1944年から稼動された。面積約４万㎡(200ｍ四方の正方形と同じ面積)で数千人の工員が作業していた｣と書かれています。この壕では特攻機｢桜花｣｢秋水｣などの部品製造を行なったとみられます。この壕を作るために、道にトロッコが敷かれ、多くの｢朝鮮｣出身者が働き、事故で亡くなった人を近くの正禅寺に葬ったという証言があります。
　浦郷地区には、深浦湾で船から海軍航空廠へ運ぶ石炭を積みおろす仕事をしていた｢朝鮮｣出身労働者たちが住んでいました。その作業員宿舎は｢石炭部屋｣と呼ばれ、監督も｢朝鮮｣出身者でした。作業は天秤棒をかついでの重労働でした。

＜追浜隧道＞
　追浜随道は、1933年3月に起工し、同年10月に竣工しています。当時７ヶ月で完成させるなんて誰がどのように工事したのでしょうか。このトンネルを抜けた所には、当時、横須賀海軍航空技術廠の施設がありました。

＜貝山緑地＞
　貝山緑地には地下司令部がありました。その壕は、幅２～６ｍ、高さ２～10ｍ、全長約2000ｍ、大部分が素掘りのていねいに立派につくられた壕です。会議室と思われる10ｍ四方の部屋は、天井も高く、側溝もあり電気も引き込んでいました。他に個室と思われる部屋、トイレ、かまど、食糧を備蓄したと思われる壕もあります。この壕は、海軍航空隊の兵士、海軍設営隊の軍属、航空廠の徴用工、動員学徒そして強制連行された｢朝鮮｣出身者によってつくられたと思われます。
　貝山緑地には｢豫科練誕生之地｣の碑や｢海軍甲種飛行予科練習生鎮魂之碑｣はありますが、地下壕があったことや、それが誰によってどのように掘られたかを示す者はありません。

＜横須賀海軍航空隊・海軍航空廠＞
　横須賀海軍航空隊が開設されたのは1916年。その陸上飛行場を作るため1918年から埋め立て工事が行なわれました。この工事によって夏島は陸続きになり、1926年陸上飛行場が完成しました。1932年には横須賀海軍航空隊の隣接地に海軍航空廠が開庁しました。
　戦後、横須賀海軍航空隊の敷地は、日産自動車追浜工場とその関連工場になっています。日産自動車のテストコースが滑走路でした。日産自動車追浜工場には、当時の戦闘機格納庫や、明治憲法起草記念樹などもあります。

＜烏帽子巌之碑＞
　烏帽子岩は追浜の砂浜が東につきる突端にありましたが、1918年に海軍航空隊の陸上飛行場を作るために切り崩しました。この岩は烏帽子形で高さ15ｍ、周囲200ｍで、海を隔てて夏島がありました。

＜夏島貝塚＞
　夏島の壕は幅20ｍ、高さ２～８ｍ、全長1891ｍと巨大です。３層構造の壕で、第１層が格納庫、第２層が事務所か住居、そして第３層が倉庫に使われていたようです。この地下壕は、｢海軍施設系技術官の記録｣に、｢零戦｣４０機分の格納のために設営されたとあります。また特攻機の組み立て格納に使われた可能性もあります。
夏島は伊藤博文の別荘があった所で、この別荘で伊藤博文らが明治憲法の起草をしました。そのことから夏島に明治憲法起草遺跡記念碑があります。

＜野島＞
　野島の山頂には高射砲陣地がつくられました。そして高さ10ｍ、幅20ｍ、長さ270ｍの大トンネルがあります。野島を貫通しているこのトンネルは地下飛行場で｢海軍施設系技術官の記録｣に、｢銀河｣20機分、｢零戦｣20機分の格納のために設営されたとあります。この地下飛行場は｢1945年8月14日に完成｣とも｢７割完成したところで敗戦｣ともいわれていますが、結局、使われることはありませんでした。野島には、強制連行させられ、地下飛行場を造らされていた人たちがいたという証言があります。また野島にも伊藤博文の別荘がありました。

田浦・長浦周辺の足跡

＜軍需部前駅＞
　戦時中、京急安針塚駅は「軍需部前」という名の駅でした。この駅の裏の線路沿いには、当時日本の植民地｢朝鮮｣から来た人たちが集住していました。１９２０年代から箱崎海岸の工事に｢朝鮮｣出身労働者が働かされていたことから、この地域に集住するようになったようです。ある在日朝鮮人の女性は、軍需部前駅裏の内務省のバラックに住み「５棟ほどのバラックがあり、約２５世帯の同胞が住んでいた」と証言しています。この周辺で｢朝鮮｣出身労働者は、海岸工事の他、水雷学校や貯油施設の建設を、また内務省の仕事として国道の複線化にともなうトンネル工事、海軍工廠造兵部火工工場の地下壕掘り、さらに近辺の山という山に防空壕を掘る工事をさせられました。１９４５年の解放後、この地域に朝鮮語を教える教室が一軒の家を会場に始まりました。
　田浦の小高い丘の上には、２階建の徴用工宿舎があり、１部屋１０人で１２～１３室ありました。

＜国道１６号線のトンネル＞
　国道１６号線は、当時、複線化され、この周辺の「新田浦」「新吾妻」「新長浦」「新吉浦」の４つのトンネルが造られました。「新田浦」「新吾妻」「新長浦」の３本は、山側が新トンネルで、「新吉浦」だけ海側が新トンネルです。「新長浦」トンネルは１９４３年８月に竣工しています。

＜横須賀労働基準監督署の裏＞
　労働基準監督署の裏には、レンガ積みのトンネル入口と、もうひとつ防空壕の入口と思われるところが確認できます。さらに自衛隊の田浦宿舎と米軍基地のゲートの間にも、塞いだ防空壕の入口跡があります。道なりに行くとトンネルがあり、その中にも塞いだ防空壕の入口跡がいくつかあります。

＜軍需部長浦倉庫跡＞
　安針塚駅前の道を行き、トンネルを抜けた海側の一帯は海軍工廠軍需部長浦倉庫跡。当時の倉庫の建物は現在もそのままであり、民間企業が倉庫として使っています。
　横須賀線側の一帯は海軍工廠造兵部火工工場の跡地。この工場跡地と田浦駅の間の山には、幅４m、高さ３mほどの防空壕があり、待避所・材料倉庫などとして利用されました。

＜田浦駅＞
　JR横須賀線田浦駅から、軍需部長浦倉庫跡地へ引込み線があります。駅員さんの話によると、戦時中からある引込み線で、ここ10年ほどは全く使用されていないそうです。
　田浦駅前、吾妻トンネルのある山にも防空壕の入口が確認できます。

＜通信学校跡地＞
　自衛隊第二術科学校が通信学校の跡地で「海軍通信教育発祥記念碑」があります。自衛隊横須賀病院と田浦駅の間にある山にも、塞いだ防空壕の入口跡があります。

＜水雷学校跡地＞
　関東自動車工業本社が水雷学校の跡地。１９８３年に建てられた「海軍水雷学校跡」の碑があります。

＜長浦湾＞
　横須賀消防署から長浦湾に出て右側の建物が、海軍工廠造兵部のもの。木工工場・製缶工場・機械工場・水雷工場などがあり、現在は関東自動車工業になっています。
　左側のTOSHIBA横須賀事業所も当時の建物をそのまま使っているようです。機銃工場・電機工場・鍛錬工場などがありました。
　向い側の海上自衛隊船越庁舎は、電池実験部・航海実験部・光学実験部の跡地です。

＜潜水艦基地隊跡地＞
　田浦中学校は潜水艦基地隊の跡地。丘の下には民家が駐車場として利用している壕があります。この壕は機銃射場の跡です。

横須賀中央駅周辺の足跡

＜良長院＞
　良長院(緑ヶ丘)の境内には、「横須賀海軍建築部請負工事殉職者弔魂碑」があります。この碑に、３２人の朝鮮出身者の名前が記されています。創氏改名で日本名を名乗っていた人を含めると５１人になります。
　良長院はもともと楠ヶ浦町(現在の米軍基地)にありました。１９２４年に楠ヶ浦町・稲岡町の民有地と海軍用地の交換が、海軍から提議され、１９３０年この土地交換事業が終了しました。海軍基地の拡張のため良長院は市民とともに追い払われたのです。
　この海軍基地の拡張工事のために、多くの朝鮮出身労働者が働かされました。危険な仕事をさせられ死亡した人たちは、穴を掘って葬られたと言われています。その様子を見聞きしていた当時の良長院の住職大道和尚は、この骨を掘り起こし、現在の良長院の境内の一隅に葬りました。

＜ヴェル二―公園＞
　フランス人のヴェルニーは幕末、横須賀製鉄所(その後、横須賀造船所→横須賀海軍工廠)の建設のために来日しました。１８６５年１月末、土地測量の支持をし、フランスに一時帰国して施設を運営するスタッフの人選、工場に設置する機械の調達をして、翌年４月に横須賀に戻ってきました。そして１８７６年に帰国するまで製鉄所の首長を務めました。
　ヴェルニー公園内、JR横須賀駅近くにヴェルニー記念館があり、ここに２台のスチームハンマーが展示されています。この０．５トンと３トンの２台のスチームハンマーは、１８６５年製造され、オランダから横須賀製鉄所据付の機械として輸入されました。このスチームハンマーは造船のための機械で、船の部品を製作しました。
　ヴェルニー公園には、「逸見波止場衛門」(旧横須賀軍港逸見門の衛兵詰め所、写真)、「ヴェルニー像」、「小栗上野介忠順像」(フランスの支援のもと横須賀製鉄所建設を推進)の他、「海軍の碑」や「軍艦山城の碑」などの碑もあります。

＜横須賀線のトンネル＞
　横須賀線は海軍の要請によって造られ、１８８９年６月、大船－横須賀間が開通しました。鉄道唱歌に「汽車より逗子をながめつつ、はや横須賀に着きにけり、見よやドックに集まりし、わが軍艦の壮大を」という歌詞があります。
　１９４１年８月、横須賀線の横須賀駅から久里浜駅までの延長工事が始まりました。久里浜海岸から、南方の前線に軍事物資を送り出そうという海軍の計画のためです。最短経路をとるため、横須賀－衣笠間には２km以上のトンネルが掘られました。１９４４年４月に開通しました。
　１９５７年版の「横須賀市史」には「・・・極力工期を急ぐ必要があり、手掘りによって同時に数箇所より掘り進むことになった。なにぶん突貫工事で・・・。作業は産業報国隊の朝鮮人労務者が主としてあたり、末期には海軍の兵員にも協力をあおいだ」と記録されています。また間組の「間組百年史」には「工事は深刻な人手不足に悩まなければならなかった。ほどなく人手に窮した現場へ２００人ほどの朝鮮人が配置され、彼らが随道のズリ出しなどの力仕事を受け持った」と書かれています。金谷(トンネルの衣笠側の入口付近)に２００人ほどの朝鮮出身徴用工の宿舎があり、この宿舎で｢再帰熱｣が集団発生し大きな新聞記事になりました。この工事のために１０００人単位で朝鮮出身労働者が携わっていたと思われます。このトンネル工事が終ると、朝鮮出身労働者たちは、田浦の海岸工事へと移動したようです。

＜米軍基地のある半島＞
　現在米軍基地がある半島は、面積約２４０ｈａ(１辺約１.５kmの正方形と同じ広さ)で、日本帝国海軍の一大拠点でした。ここに横須賀鎮守府司令部、横須賀海軍の人事部・経理部・艦船部・海軍工廠・海軍病院・軍法会議・海兵団・通信隊、横須賀警備隊、海軍砲術学校、海軍航海学校、大楠海軍機関学校横須賀分校、第一特攻戦隊司令部などがおかれ、ここは日本海軍の心臓部でした。現在は米軍横須賀基地で、第７艦隊司令部、第１５駆逐戦隊司令部、第５艦隊潜水艦隊司令部などとともに、海軍病院、家族住宅、小学校・中学校・高校・大学、野球場・サッカー場、教会・劇場・映画館・銀行・郵便局など生活に必要な施設は全てそろった人口１万６千人の「街」と伝えられています。
　この半島には全長２６kmもの地下壕が掘られました。旧日本軍は、１９３８年に５年がかりで地下壕の建設をすることを命令しました。まずは日本人によって工事が始められましたが、労働力不足から市民や動員された学生の他に、朝鮮出身労働者が動員されました。労働は、岩石・土砂を穴から運び出す作業で、機械はもちろんなく、人力・シャベル・ピックのみでこの危険な作業をさせられました。１９４３年中に、全長２６km、入口の数２６０の地下壕が完成しました。強制労働をさせられたある朝鮮出身者は「私は日本海軍の地下壕を掘っていた。作業中の監視は厳しく、隣りのトンネルに誰がいたか、どのようなことが行なわれていたかは、まったくわからない。口をきくことは決して許されなかった」と証言しています。戦争がすすむにつれて、司令部・５００床の病院・８００人の住居・倉庫・避難壕など、軍の機能は次々に地下に移されて行きました。

＜横須賀海軍共済組合病院＞（現横須賀共済病院）
　現在の横須賀共済病院は、横須賀海軍共済組合病院という海軍の病院でした。当時この病院の裏には１６４５mの地下壕がありました。当時の外科のある看護婦さんは「戦時中、海軍関係者のケガ人がどんどん運び込まれ、地下壕の中に手術道具を運んだ記憶がある」と証言しています。この地下壕が地下病院だということです。
　１９８８年発行の「横須賀共済病院略史」によると、「入院患者避難用に地下坑を掘削し、第２病棟地下室・薬品倉庫・トイレ・洗面所などを地下坑に収容・設置する」「避難坑の幅約５.５ｍでアーチ型とする」と１９３５年に計画されています。さらに「この掘削には人夫が交代で掘り進み、看護婦や男子職員が土を運び出した」と記述されています。この「人夫」は元の原稿では「朝鮮人」だったのですが、最終編集会議で「人夫」と書き改められたということです。
　
＜海岸埋め立て地＞
　現在の京浜急行横須賀中央駅から堀ノ内駅までの海側、日の出町・安浦町・堀の内地区は遠浅の海岸を１９２０年代後半から１０年ほどかけ、多くの犠牲者を出して、埋め立てたものです。この埋め立て工事にも朝鮮出身労働者が動員されました。そのため現在の三春町に「山崎部落」、１km足らずの距離を隔てて「堀の内部落」という２つの朝鮮出身者の集落ができました。埋め立て工事は重労働で、ある朝鮮出身者労働者は「１５歳のとき、１８歳と偽って埋め立て工事をした。何１０台ものトロッコが一列に連なって、近くの山のドタン岩を削り、トロッコの箱に積み込み、そして急カーブの坂を下って海岸を埋め立てる工事だった。１人でもまごつくものなら、たちまちトロッコ全体の運行が止まってしまうのだ」と証言しています。ここの朝鮮出身労働者は、埋め立て工事の後、久里浜に向かう道路(現国道１３４号線)の建設に従事しました。
　１９３０年代、春日町には「記念館」と呼ばれる歌舞伎やマジックなどを催す劇場がありました。太平洋戦争がはじまった頃、この劇場は徴用工宿舎になり、慶尚南道出身の若者が２００人ほど収容されました。彼らは横須賀鎮守府(現在の米軍基地)で地下壕を掘らされていました。朝から晩までツルハシをふるう重労働にもかかわらず、弁当は黒い麦飯のおにぎり一つでした。
　
＜在日大韓基督教横須賀教会＞
　中央部の山の方の佐野地区にも朝鮮出身者の集住地域がありました。１９３２年、ここに横須賀唯一の朝鮮出身者の教会、日本基督教会佐野伝道所が設立されました。朝鮮出身者の会員２５名。牧師も朝鮮出身者でした。弾圧により１９４０年から佐野伝道所は閉鎖。戦後は日の出町の在日大韓基督教会横須賀教会となり現在に至っています。

＜参考文献＞
・神奈川の百年
　　著者　高村直助他　山川出版社
・図解・三浦半島―その歴史と文化＜下巻＞
　　監修　長山総一郎他　郷土出版社
・朝鮮人強制連行調査の記録(関東編１)
　　編著　朝鮮人強制連行調査団　柏書房
・神奈川と朝鮮―神奈川と朝鮮の関係史調査報告書―
　　編著　神奈川と朝鮮の関係史調査委員会
・神奈川県の戦争遺跡
　　編集　神奈川県歴史教育者協議会　大月書店
・横須賀海軍工廠外史
　　編集　横須賀海軍工廠会

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2000年05月05日

在日者の足跡「田奈部隊(こどもの国)｣

田奈部隊とは
　田奈部隊の正式名称は「東京陸軍兵器補給廠（しょう)田奈部隊填薬所」で、戦時中の主な役割は次の３つです。
　①填薬（てんやく）→弾薬の組み立て作業
　②格納→完成弾を貯蔵
　③補給→現地部隊へ弾薬の発送
　また取り扱った弾薬は、高射砲弾・小中口径野戦砲弾・手榴弾が主でした。この地域一体には、工場・寮・倉庫・兵器学校などの部隊所属の諸施設があり、田奈部隊は当時、事実上日本一の弾薬取り扱い実施の場でした。
　敗戦直後、田奈部隊では一切の記録が焼却され、記録は全く残っていません。そして、施設の全てを占領軍が接収、米軍の弾薬庫となりました。1950年の６・２５動乱（朝鮮戦争）は、ここから弾薬が運ばれました。その後、弾薬庫としての機能は池子に移され、1960年日本政府に返還。旧地主は買い戻しを求めましたが認められず現天皇の結婚で寄せられた祝い金を基金とし「こどもの国」が建設され、1965年に開園しました。

朝鮮出身者と田奈部隊
　田奈部隊建設における強制労働
　1940年５月に土地収容が完了、1941年の開戦時には弾薬が貯蔵されていると言われていますので、田奈部隊はこの間に建設されています。工事は手作業の突貫工事で、33ヶ所の半洞窟式弾薬貯蔵庫が作られました。他に本土決戦用の地下司令部として掘ったと思われる壕をはじめとする防空壕が、素掘りで作られました。特に危険な作業は、軍指定の請負業者松村組が連れてきた1000人以上の人たちによって行われ、そのうち９割りは、当時の植民地朝鮮の出身者といわれています。松村組の作業員と地元の人が接することはなく、工事終了後、松村組の作業員は全員、他の地へと移されたといいます。工事中、作業に従事した多くの朝鮮出身者が死傷したと思われます。しかし記録は全くありません。それは軍の最高機密であったということ、書類・記録が敗戦直後全て焼却されたということ、そして朝鮮出身者の強制労働における死は「消耗」と呼ばれ、葬りの対象として扱われなかったことなどによります。

　田奈部隊発足後（戦時中、弾薬の組み立て作業開始後）
　田奈部隊における弾薬の組み立て作業には約3000人が従事していましたが、全て日本人です。その中には学徒動員された男女の学生もいます。どんなに危険な仕事でも、治安上問題ということで朝鮮出身者は従事しませんでした。一方、近辺の建設物・倉庫（素堀りの横穴）・防空壕の建設に、1000人以上が従事し、その４分の１ほどが職を求めて集まった朝鮮出身者でした。朝鮮出身者は「南寮」を中心とした作業員宿舎で寝泊まりしました。日本人との賃金の差別はありませんでしたが、食事代とたばこ代が天引きされると、賃金はほとんど残りませんでした。

　敗戦後
　敗戦後、朝鮮出身者は南寮を中心に集まり住みました。1945年11月頃には、南寮に朝鮮人連盟の長津田支部がおかれ、生徒10数人を集めて民族学校も開かれました。1949年朝連解散後は人が減り、1965年には南寮が火災となり、その後、ほとんどの朝鮮出身者はこの地を離れたようです。

田奈部隊の歴史
　土地収容
　村人は全て顔見知りだった奈良町に、地図を持った見知らぬ男が現れたのは、日中戦争の頃からでした。1939年11月、その地域一帯の山林田畑の所有者・地権者全員が小学校に集められ、近衛師団経理部員は「この地域一帯は、軍が必要だから買い上げたい。住民は明年（1940年）５月までに立ち退くこと」と告げました。戦局の進展に伴い、東京板橋の兵器廠では狭くなったための、施設拡充でした。奈良町が選ばれたのは、「東京に近い」「相模原（陸軍）に近い」「海岸から適当に離れている」「秘密が保ちやすい」「火薬を扱う施設として都合がよい地形」「粘着性のある固い岩盤」などの理由です。
　何代も住み続いた９戸の農家は、移転のみならず田畑も失うということで、なかなか立ち退きを応諾しませんでした。しかし、陸軍は、国家総動員法を持ち出し、威圧し、立ち退きを迫り、全く話し合う余地はありませんでした。その後、奈良町は常時憲兵が監視巡回するようになり、村人の路上での立ち話も制限されました。応諾が遅れた地主は、近衛師団司令部に呼び出され「いやなら強制収容もできるし、期限まで立ち退かないときは、非国民の家の周りに鉄条網を張り出入りできなくする」とおどされ、印を押させられました。軍の圧力に屈し、短期間に広大な山林は買収されたのでした。

　田奈部隊の建設
　第１期工事で第１・第２トンネルより西（西谷）の施設、及び兵器学校等が完成しました。1941年の部隊発足後、第２期工事でトンネルより東（東谷）の施設や引き込み線を完成させました。
　
　田奈部隊の内容
＜填薬（てんやく、弾薬の組み立て作業）＞
　各地から送られてくる黄色火薬、黒色火薬、その他の材料で弾薬が造られました。取り扱われた主な弾薬は、高射砲弾、小中口径野戦砲弾、手榴弾、戦車地雷、小銃、拳銃などでした。
　大きく分けて西谷には弾薬庫が、東谷には13の火工場、熔填場、穿孔場、完成場などがありました。

＜従業員＞
　軍人、軍属、民間人、徴用工、また学徒動員によって県立横浜第二中学校（現翠嵐高校）の４年生（28期生）全員と、神奈川高等女学校（現神奈川学園）の４年・３年（29期生・30期生）の各１クラスが、田奈部隊に動員されました。中学生・女学生たちは「天皇陛下のおんために死ぬことは、この世で一番美しいこと」と教えられ「一度は散る命。お国のために精一杯働き、天皇陛下のご恩に報いよう」と心をこめて弾薬造りに励みました。
　作業員は「填薬班」「倉庫班」「輸送班」に分けられました。戦争が激しくなるにつれ、年配の徴用工員まで召集され、女学生も力仕事をするようになりました。また勤労動員生徒も、疎開するなどでその数は減っていきました。それでも終戦時には約３０００人が田奈部隊に参加していました。

＜火工場＞
　点火薬とか発火薬と呼ばれていた黒色火薬を、円筒形の布袋の底についている丸いポケットに、漏斗（ろうと）で流し込み、口を縫い閉じる作業が行われました。

＜熔填場（ようてんば）＞
　弾頭部分に黄色火薬を詰める作業が行われました。作業員は足の裏や手のひらが黄色になっていきました。作業終了後は、薬入りのコーヒーが飲まされ、女学生の間では「熔填場に行くと生理が止まる」とささやかれていました。

＜完成場＞
　火薬を詰め終わった弾頭と薬莢（やっきょう）を機械で合わせて完成弾を造る作業が行われました。

＜穿孔場（せんこうば）＞
　弾丸の先に信管を取り付ける穴を開ける作業が行われました。

＜弾薬貯蔵＞
　３３か所の半洞窟式弾薬貯蔵庫の他、有煙薬火薬庫、無煙薬火薬庫、水畜火薬庫（黄燐）、未填薬弾薬庫などがありました。

＜弾薬の搬出＞
　弾薬は、引き込み線で長津田に運び、横浜線で横浜へ。さらに陸路・海路で各地に運ばれて行きました。

＜防空壕＞
　防空と弾薬貯蔵のため、無数の横穴が掘られました。空襲警報がなると直ちに作業を中止し、作業員は作業中の火薬とともに防空壕に入りました。

＜恩田倉庫＞
　部隊発足後、恩田地区に７００以上の素堀りの横穴が掘られ、仮弾薬庫としました。

＜その他＞
　部隊内には実地訓練を行うための陸軍兵器学校火工科分教所、従業員の厚生施設である共栄会、医務室、官舎、工員宿舎、将校や憲兵の常駐がありました。また長津田駅近くには弾薬箱製造工場の日本木材兵器、防湿紙で防湿筒を作る工場の日本紙工がありました。

　トラック事故による勤労動員生徒の犠牲
　1944年11月30日朝、学徒動員された県立二中（現翠嵐高校）の生徒を乗せたトラックが、田奈部隊近くの住吉神社前で奈良川に転落しました。この事故によって脱出できなかった６人が犠牲になりました。その２日後、部隊葬が行われ、部隊長は「兵士たちが命をかけて戦っているこの非常時に、これしきの犠牲は止むをえまい」と言いました。６人は靖国神社に合祀されることになり、これを聞いた神奈川高女の教師が「これが君達なら、めったに女子の入れない靖国の宮に入れるのに・・・」と残念そうに言いました。
　この事故のあと、勤労動員生徒の通勤は、トラックから窓のないぎゅうぎゅう詰めの貨車に変わりました。

　棒地雷爆発事故
　1945年２月７日昼前、西谷ホームで馬車から貨車への積み込み作業中だった棒地雷が突然大爆発を起こし、近くの倉庫にあった爆雷用火薬２トンが爆発、馬と６人の作業員が一瞬で細かい肉片になり四方に飛び散りました。馬肉と人肉の区別は不可能で、集めた肉片を６つに分けて遺族に引き渡しました。負傷者も多数あり、たまたま食事当番だった女学生が負傷、片足を切断しました。この事故は軍の秘密として処理され、１行の記録も残されませんでした。

　米空軍機墜落事故　1945年４月のある深夜、米空軍機が部隊近くの山林に墜落、大爆発して炎上しました。近所の人たちは、パラシュートで降りてきた一人の米兵を部隊に引渡し、パラシュートが開かずに墜死したもう一人の米兵を松岳院に葬りました。

　田奈部隊の解散
　1945年８月15日正午、部隊全員が本部前広場に整列し「終戦の詔勅」のラジオ放送を聞きました。午後４時に隊長が「部隊は直ちに解散。利用できる物（食料・生活必需品）は、各自持ちかえってよい」と申し渡しました。部隊はしばらく混乱し、若い将校の夫婦が手榴弾で自決しました。敗戦直後、田奈部隊からは連日、煙が上り書類・記録は全て焼却され、今は何の資料も残っていません。爆撃を受けなかった田奈部隊は、莫大な量の火薬・弾薬が貯蔵されたまま敗戦をむかえました。アメリカ兵が駐留し、11月末から翌年の５月まで弾薬処理が行われました。弾薬は海底に投棄され、鉄は溶かされ民需用に、真鍮（しんちゅう）の薬莢は五円玉の原料になりました。

田奈部隊の史跡

　こどもの国（田奈部隊跡地）
　約１００万㎡（正方形なら１辺１㎞）、外周道路約４㎞。

＜憲兵詰所跡と女学生用休息所跡＞
　こどもの国のゲートをくぐった右手の丘に憲兵詰所と女学生用休息所がありました。当時この二つの建物の間には「重営倉」と呼ばれた軍隊の牢の鉄格子の窓が見えました。
　現在ここには「平和の碑」が建っています。学徒動員で田奈部隊で弾薬作りを行った、神奈川高等女学校の30回生の有志が、「自分たちの造った手榴弾が、沖縄の人たちの自決に使われたかもしれない。自分たちの造った武器が、自分が知らない所で、人を傷つけ、そして人を殺していた・・・」という思いから「戦争のない世界を願って」1996年にこの碑を建てました。

＜本部跡地＞
　ゲートから坂を上りきった右手、第１トンネル手前の食堂が田奈部隊の本部があった所です。

＜西谷ホーム＞
　引き込み線は、現在の中央広場まで伸び、ここに西谷ホームがありました。ここで棒地雷の大爆発事故がありました。

＜弾薬庫跡＞
　弾薬庫は、丘の斜面を横から掘って平らにし、コンクリートで作ったのち、再び土をかぶせました。ひとつの弾薬庫に入口２つ、換気筒２つが基本です。現在、弾薬庫跡は変電設備等、別なものとして利用されています。
　
＜壕＞
　ゲートを入って直ぐ左手、従業員の駐車場にある建物と建物の間の、崖の下に壕があります。また食堂裏や第１トンネル手前の右側にも、壕の跡があります。また結婚記念館付近の丘の下や、サッカー場付近にもトンネルがありました。基礎工事をしない素掘りのトンネルで、第１・第２トンネルを含め、朝鮮出身者の強制労働によって掘られたと考えられます。

＜東谷ホーム＞
　奈良橋バス停付近から別れた引き込み線は、現在の第２グランドにあった東谷ホームまで続いていました。

＜ヨコハマヒザクラ＞
　トラック事故で死亡した学生の同期生のひとりが、「ソメイヨシノ」以来、３００年ぶりの新種「ヨコハマヒザクラ」の育成に成功しました。現在、こどもの国のミニＳＬ近くに植えられているサクラはこのヨコハマヒザクラです。

　日本木材兵器・日本紙工跡地
　現在は厚生病院・スーパー・マンションになっています。

　引き込み線と分岐点跡
　引き込み線は現在、東急こどもの国線になっていますが、当時は２つに分かれていました。その分岐点が、今の奈良橋バス停付近で１本線路が見えています。一方の引き込み線は、現在のこどもの国駅より伸びていて、こどもの国の中央広場に西谷ホームがありました。もう一方は、現在の第２グランドまで伸び、そこが東谷ホームでした。部隊内のこの２ヵ所のホームから弾薬を運んだのです。引き込み線は第２期工事で作られているので、職を求めて集まった朝鮮出身者も多く作業していると考えられます。

　恩田倉庫跡地
　中恩田交差点から住吉神社までの、道路をはさんで、こどもの国線とは逆側の丘一帯に恩田倉庫がありました。７００以上の素堀りの横穴で、ほとんどが職を求めて集まった朝鮮出身の作業員によって掘られました。部隊の弾薬や資材を保管しました。

　南寮跡地
　徳恩寺近くのガソリンスタンドの道向かい付近が、南寮の跡地です。田奈部隊発足後の作業員宿舎で、朝鮮出身者はこの南寮を中心に寝泊まりした。敗戦後、朝鮮出身者が集まり住み、1945年11月頃には朝鮮人連盟の長津田支部がおかれ、民族学校も開かれました。

　勤労学徒慰霊碑（住吉神社前）
　1944年11月、学徒動員された学生を乗せたトラックが、住吉神社前で川に転落し、６人が死亡しました。その慰霊碑が1953年に建立されました。死亡した６人の名が刻まれています。

　松岳院
　1945年４月米軍機が墜落し、パラシュートが開かず死亡した米軍兵を埋葬しました。

　徳恩寺
　戦時中、この寺の墓地の土手に、横穴を堀り７～８人の朝鮮出身者を葬った、と言い伝えられています。当時の土手は崩れて今の土手とはちがっています。
　千秋の丘は横浜の野宿生活者の墓ですが、1991年、時代身元不明の朝鮮出身者と思われる骨も合葬しました。
　田奈部隊の作業員で、1950年に亡くなった朴伍元（松原）さんの墓があります。

　杉山神社北側
　２期工事で引き込み線用の盛土の採掘作業中、山崩れで２人の朝鮮出身者が亡くなています。

＜参考文献＞
・田奈の森－学徒動員の記－
（酒井智恵子、近代文藝社）
・神奈川のなかの朝鮮
（同編集委員会、明石書店）
・神奈川と朝鮮－神奈川と朝鮮の関係史調査報告
（同調査委員会）
・続田奈の郷土誌
（同編集委員会）
・横浜緑区史通史編
（同刊行委員会）
・「戦時中の田奈部隊弾薬庫づくりの朝鮮人」
　　（三田登美子、「在朝鮮人史研究」第12号)

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1999年11月03日

在日者の足跡｢関東大震災における虐殺｣

＜関東大震災と朝鮮人の虐殺＞
　１９２３年９月１日、Ｍ７.９の大地震が関東地方一帯を襲い、多くの家が倒壊し、瞬く間に火災が広がりました。この直後から「朝鮮人が暴動を起こそうとしている」などのデマが広まり、関東地方で約６０００人の朝鮮出身者が虐殺されました。神奈川県内の虐殺は２０００人以上と言われています。（当時、神奈川県内には３０００人から４０００人の朝鮮出身者が住んでいたと言われている）

＜流言の発生＞
　神奈川県内では、９月１日の夜から各地でデマが飛びかい、２日から３日が虐殺のピークとなりました。デマは避難民によって横浜から県内各地に広がっていきました。
　１日夜７時頃、横浜市本牧町付近で火災が発生、その周辺に「朝鮮人が放火する」という流言が広がりました。その流言は、「朝鮮人が強盗する」「強姦する」となり、さらに「井戸に毒を投げ入れている」とか「殺人をおかしている」という流言に拡大。２日の昼頃には鶴見、川崎方面にまで広がりました。
　横浜から東京方面への非難民によって、朝鮮人についての流言が広がり、２日のうちに東京から千葉・栃木・茨城など関東一円に広がり、３日には福島まで達しています。

１日午後７時　横浜市本牧町
「朝鮮人が放火する」との流言が、本牧町の火災発生中の付近一帯に広がる

１日午後７時　横浜市山元町
「朝鮮人２００人が襲来、放火・暴動・強姦・井戸に投毒のおそれがある」と、中村町および根岸町相沢方面から、山元町方面に伝わる。民衆の一部は武器を持ち警戒にあたる。

１日午後８時　横浜市根岸町
「本牧町大鳥谷戸や箕輪下方面は、鮮人のために放火され目下延焼中」「大鳥小に鮮人２００～３００名が襲来、爆薬を所持している」と、本牧方面から、根岸町立野方面に伝わる。

２日未明　川崎
「朝鮮人によって、放火・強姦・金品略奪が行われている」と、横浜からの避難民によって伝わる。

２日午前６時　鎌倉
「横浜市根岸町相沢方面において、朝鮮人が強奪・強姦をし、警察官との間に衝突が起こり多数の死傷者が出た」「横浜市蒔田町の山間に数千人の朝鮮人が集まり、その一部が鎌倉町に襲来する」「川崎・鶴見で朝鮮人が井戸に毒を入れたため、これを飲んで中毒を起こした者がいる」などと、京浜地区からの避難民によって伝わる。

２日午前１１時　横浜市南太田町
「昨夜、本牧方面で鮮人による放火があり、井戸には毒が投げ入れられた」と、避難民によって続々と伝えられ、南太田・久保山付近で自警団が組織される。

２日午前１１時　鶴見
「昨夜不逞鮮人が、横浜で強盗・強姦・井戸への投毒を行っている」「３００以上の不逞鮮人が、鶴見方面に向かって来襲する」などと、横浜からの避難民によって頻繁に伝えられる。

２日正午　横浜市新山下町
「鮮人が来襲し、井戸水に投毒しているので飲料水に注意」と本牧方面から、新山下町方面に伝わる。

２日午後　横浜市神奈川
「数百人の鮮人が、一団となっていたるところで放火、また毒薬を井戸に投じ、婦女子を強姦している」と、保土ヶ谷方面から東京方面に伝わる。

２日午後8時　横浜市加賀町警察署管内
「不逞鮮人300人が保土ヶ谷方面から襲来、西戸部、藤棚、久保山方面で警察官と戦闘中」との情報。

２日午後9時横浜市加賀町警察署管内
「警察官力及ばず、不逞鮮人２00人が西戸部で強奪・強姦」との情報。

２日午後１０時横浜市加賀町警察署管内
「不逞鮮人２00人が寿町方面から花園橋方面に向う。」これを聞いて１５０名が武器を持って加賀署に集結する。

２日午後１０時　伊勢佐木町警察署管内
「不逞鮮人が来襲、強盗・強姦・放火・掠奪をしている」と、中村町方面から伝わり、たちまち南太田・井土ヶ谷・弘明寺などに広まる。男子は自衛のため武器を持ち、婦女子は外出を全く止めた。

３日　横須賀
「鮮人来襲」の情報が横浜からの避難民によって伝えられる。このため４日、陸軍倉庫に「朝鮮人救護所」を設け、横須賀署管内220余名の朝鮮出身者を収容。

３日　三浦郡
「不逞鮮人は暴行のみならず、井戸水などに毒薬を投ずる事実があるので注意」と、三浦郡長が管下各市町村に通達する。

＜自警団と虐殺＞
　神奈川県下では６６１の自警団が組織されました。各地で組織された自警団は、竹やり・刀・銃で避難民や村落を守りましたが、自衛の域を越え、「朝鮮人狩り」をしたのでした。
　自警団は武器を持ち、検問をし、朝鮮人を見つけると捕らえ虐殺したのです。警察が「朝鮮人は殺してもよい」という命令をだした、という風説が横浜市内でかなり広まりました。自警団は通行人に対し「１５円５０銭と言って見ろ」と言い、うまく発音できない人を「朝鮮人」として捕まえました。

＜虐殺の証言＞
　行く途中でも、いろんな悲惨な状態を見ました。生麦のあたりまで行きましたら、針金で手を縛られ、身体中たたきのめされたあとがある死体が道路はしにおきざりにしてありました。死体には大きな青蝿が群がって、見るもむざんな姿でした。横浜駅に行くまでの間に、そのような死体が十体ほどありました。(「十一時五十八分」より)

　朝鮮人の暴動騒ぎを防ぐために、自衛組織をつくり、交替に見廻りました。私も父と一緒に加わりましたが、「朝鮮人を見たらたたき切ってしまえ」というのが当時普通でした。でも女性や子どもまでもみさかえなく殺してしまうようなやり方をした所もあったそうですからむごいですね。(「十一時五十八分」より)

「旦那、朝鮮人はどうですぃ。俺ァ今日まで６人やりました」
「そいつは凄いな」
「何てっても身が護れねぇ、天下晴れての人殺しだから、豪気なものでサァ」
(「横浜市震災史」より)

＜虐殺の背景＞
　日韓併合で日本の植民地「朝鮮」にされ、土地調査事業で土地が奪われ、東拓によって財産が奪われ、貧しくなった人々は、日本の「いい仕事がある」という求人広告にだまされ、日本に渡ります。神奈川県でも「朝鮮」出身労働者が増えていました。この人たちはおもに土木労働者として働き、日本人より低い賃金であることなどの差別があり、日本人労働者とのけんかや対立は少なくありませんでした。
　「３・１独立運動」の後、「朝鮮」出身者は「不逞鮮人」と呼ばれ、警察の警戒の対象となり、「朝鮮人は危険」という風潮が民衆に広まっていました。そして当時の警視総監赤池濃、内務大臣水野錬太郎は、「３・１独立運動」のとき、朝鮮総督府政務総督と警保局長だったのです。

＜震災無縁仏の墓＞
　横浜市は、関東大震災の横死者のうち、氏名不詳で引取人のいない３３００名を仮埋葬しました。この中に虐殺された人が含まれていたかもしれません。その後、横浜市西区の久保山墓地に久保山合祀霊場を建設、１９２６年９月１日に慰霊祭を執行しました。久保山墓地に横浜市大震火災横死者合葬之墓と久保山墓地震災無縁仏の墓があります。

＜関東大震災殉難朝鮮人慰霊之碑＞
　この碑も久保山墓地にあります。非難する途中、久保山で電信柱に縛りつけられていた朝鮮出身者の死体を目撃した当時小学校２年生の石橋さんが、１９７４年にこの碑を建立しました。このの裏面には「少年の日に目撃した一市民建之」と書いてあります。

＜関東大震災韓国人慰霊碑＞
　横浜市南区堀ノ内にある宝生寺。階段を登り山門の左手に「関東大震災韓国人慰霊碑」があります。この碑は在日本大韓民国居留民団神奈川県地方本部が建立委員となって、１９７１年に、建てました。近くの中村橋や天神橋は多くの虐殺が行われた場所です。

＜参考文献＞
・神奈川のなかの朝鮮　　　　　　（同編集委員会、明石書店）
・関東大震災横浜記録
・区制５０周年記念　横浜西区史　（同編集委員会）
・横濱復興史　第三編　　　　　　（横浜市）

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1999年05月05日

在日者の足跡｢相模湖･ダム｣

＜相模湖と相模ダム＞
　相模湖は、相模ダムの建設によってできた人口湖です。東京オリンピックではカヌー競技が行われ、毎年夏には花火大会が行われる観光地、相模湖。しかしこの相模ダム建設において、当時日本の植民地だった「朝鮮」出身の労働者や、捕虜として連行された中国人が、強制労働させられているのです。

＜軍事のためのダム着工＞
　１９３１年に満州事変が勃発してから、日本の軍事費は大幅に膨張しました。川崎・鶴見・横浜を中心とした京浜工業地帯で軍需品を量産するための、大量の電力と工業用水の確保が急務となりました。
　１９３５年、神奈川県知事石田馨は、相模川上流域にダムを建設することを計画しはじめました。そしてこの計画は１９３８年、半井清知事によって県会に提出されました。その直後、地域住民を中心とするデモ隊２０００人が県会議事堂をとりかこみ、地元では土地不売同盟が結成されるなど、激しい抵抗運動がありました。しかし県当局は、陸軍大将の小磯国昭・杉山元・荒木貞夫らを迎えて一大デモンストレーションを行い、住民は結局、軍事体制に協力せざるを得なくなりました。そして１３８戸の住民が転居させられ、１９４０年１１月、相模湖・ダムは着工されました。完成したのは、敗戦後の１９４７年です。

＜相模ダム建設における強制労働＞
　相模ダムは途中工事の中断もあり完成したのは、１９４７年７月です。この間のべ３６０万人がダム工事のために働きました。戦時中の労働者不足で、北陸や東北からの出稼ぎ、学徒動員・・・そして建設工事に携わった６割の人が「朝鮮」出身労働者でした。
　「日本・韓国朝鮮人の殉職者殉難者名簿」には５２名の名前がありますが、名前から推測して、「韓国朝鮮人の殉職者殉難者」は１７人前後です。病死者（病死扱いにされた）の数は、はかりしれません。逃亡者は多く、逃亡が見つかると死にいたるほどの暴行を受けましたが、「朝鮮」出身労働者の逃亡は後を断ちませんでした。
　捕虜として強制連行され、相模ダム建設で働かされた中国人が２８７人いました。「中国人の殉職者殉難者名簿」には２８名の名前があります。その死因は、作業中の転落などの事故、大腸炎・結核などの病気のほか、自殺・精神病・警察取調中・不明などが書いてあります。

＜相模ダム建設で強制労働をさせられた中国人于宋起（ウ・ソウキ）さんの証言＞
　中国人の于宋起（ウ・ソウキ）さんは、１９４４年２３歳のとき捕虜として日本に連行され相模湖・ダム建設で強制労働をさせられました。今でも拷問の後遺症で突然意識不明になったり、体が震えだしてしまうことがあります。于さんは、相模湖での労働が終わったあと、松本に連れて行かれ、防空壕を掘るという強制労働をさせられました。そして敗戦をむかえ、１９４５年１１月に帰国します。
　「私は中国の狼牙山で日本軍に捕まりました。その時私は、地下の病院でケガの治療中でした。捕虜になってからは、ほんの少しのコーリャンの飯を１日１回しか与えられませんでした。長イスに縛られカラシの水を飲まされるという拷問を受けました。口を開けないと鉄の棒で口をこじ開けられました。電気で拷問された人や、焼いた鉄棒を体に当てられた人、足をノコギリで切られた人もいました。その後、北京へ運ばれました。北京では、ずっと部屋に閉じ込められ、食事は１日２食でした。やはりコーリャンの飯だけで、何人もの人が、足や全身がむくみ、腫れ、そして皮膚が割れて黄色い水のようなものが出てきます。そういう状態になった人は必ず死にました。収容所の中の病棟に行き、診てもらい薬を飲むと必ず悪くなりました。そしてもう一度薬をもらって飲むと必ず死にました。北京に５か月いた後、３００人くらいが船で日本に連行されました。下関に着き電車に乗り大阪・東京を通って与瀬に着きました。（与瀬駅は現在の相模湖駅）
　翌日からすぐに仕事が始まりました。砂や石、コンクリートをトロッコで運ぶのですがトロッコに積むのも運ぶのも３人１組でした。朝６時から仕事が始まり、昼に１時間休み夕方６時まで、１日11時間働かされました。さらに午前中10回、午後10回、計１日20回運ぶというノルマがあり、それができなければ殴られ、終わるまでやらされるという重労働でした。食事は１日３食ありましたが、大豆の油を絞ったカスとトウモロコシを混ぜて作った蒸しパンでした。そのパンが朝晩１つずつ、昼に２つ、おかずがほんの少しつきました。衣服は粗末なズボンが１つ配られただけでした。
　逃亡した人も何人かいましたが、どこへ逃げたらいいかわからず、結局もどってきてしまい、その後は刑務所に送られました。多くの人が死にました。崔さんは私と同じ村の出身、韓さんは20㎞ほど離れた村の人でしたが、２人とも死にました。崔さんは飢えると何でも拾って食べたので、中毒を起こして死にました。韓さんは病気で寝ていたわけではありませんでした。死ぬ前日まではそう悪くはなかったのですが、過酷な労働生活で身体がダメになったのでしょう。
　私は、こんなに重労働で食べ物も粗末で、日本で死んでしまってもう帰れないのではないかと思いました。日本ではあまりにも過酷でした。日本人はひどすぎる。今も頭に残っていることは、よく怒鳴られたこと、殴られたことです。｣
「第18回相模湖・ダム建設殉職者合同追悼会しおり」（同実行委員会発行）に掲載された于宋起さんの証言をまとめる。

＜慰霊塔＞
　相模ダムと相模湖大橋の間にある慰霊塔は、１９６２年に再建されたものです。この慰霊碑には５２人の名前しか記されていません。うち何人が｢朝鮮｣出身労働者かは不明です。中国人殉難者の名は１名も記されていません。

＜湖銘碑＞
　相模湖公園にある湖銘碑には、日本語・韓国語・中国語で碑文が書かれています。またわかっている殉難者全員の名前が刻まれています。現在の湖銘碑は１９９３年に建立。

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神奈川外キ連

在日者の足跡を訪ねるツアー

2008年05月06日

第１３回神奈川の渡日者の足跡を訪ねるツアー＜報告＞

神奈川外キ連 第１３回神奈川の渡日者の足跡を訪ねるツアー

2007年11月23日

第12回神奈川の在日者の足跡を訪ねるツアー

2007年05月03日

第１１回 在日者の足跡を訪ねるツアー

2006年05月05日

在日者の足跡｢工都川崎｣

2005年05月28日

在日者の足跡｢日吉台地下壕｣

2004年05月03日

在日者の足跡｢軍都横須賀｣

2000年05月05日

在日者の足跡「田奈部隊(こどもの国)｣

1999年11月03日

在日者の足跡｢関東大震災における虐殺｣

1999年05月05日

在日者の足跡｢相模湖･ダム｣

神奈川外キ連　第１３回神奈川の渡日者の足跡を訪ねるツアー

第１１回　在日者の足跡を訪ねるツアー