Sさん(53歳女性)からの相談メールが届きました。「最近、顔がほてる、夜寝つかれないなどの症状に悩まされています。ホルモン補充療法というのがあると雑誌で読んだので、そんな治療を試みてもいいかなと思っているのですが、薬を飲むことに抵抗があって」。
顔があつくなる(ほてる)、汗をかきやすい、腰や手足が冷える、息切れ・動悸(どうき)がする、寝つきが悪い・眠りが浅い、怒りやすく・イライラする、くよくよしたり憂うつになる、頭痛・めまい・吐き気がよくある、疲れやすい、肩こり・腰痛・手足の痛みがある。
更年期女性によく見られる訴えを並べたものです。「私にはまったく関係ないわ」という女性はむしろ皆無ではないでしょうか。
日本産科婦人科学会用語集によれば、更年期とは「生殖期から老年期への移行期」と定義され、閉経(わが国の平均閉経年齢は50.5歳)の前後5年間をいうとしています。このような時期に起こるのが更年期障害。「更年期に現れる多種多様の症候群で、器質的変化に相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴を主訴とする症候群をいう。(中略)のぼせ、冷汗、冷え性、心悸亢進など主として血管運動神経障害、精神神経症状が特徴的である。その他、性器の変化、関節痛、腰痛など骨粗鬆(そしょう)症を含む。」
更年期障害や自律神経失調症というのは不定愁訴の代名詞のようで、僕たち臨床医を悩ませています。女性ホルモン、特に卵胞ホルモンの減少が原因で起こっている症状であればホルモン補充療法が極めて有効ですが、不定愁訴には更年期世代にありがちな高血圧、糖尿病、肝疾患、精神疾患などが原因していることもあります。
夫や義父母とのトラブル、子どもの受験や不登校、職場での人間関係など解決しなければならない問題に悩まされている女性だって少なくありません。これらの解決には医療の専門家といえども無力なのです。
Sさんが訴える症状に対しては、メールにあるホルモン補充療法だけでなく、漢方療法、抗不安薬、抗うつ薬、カウンセリングなどが一般に行われています。実は、このホルモン補充療法ですが、最近新しい薬剤が発売されました。今までも、卵胞ホルモン(エストロゲン)製剤としては飲み薬、皮膚に張る薬、皮膚に塗るゲル剤などが使われていました。ただし、子宮が存在する女性の場合には、子宮内膜がんを予防するために黄体ホルモン(プロゲステロン)製剤を合わせて使用することが必要でした。貼布(ちょうふ)剤でもゲル剤でも黄体ホルモン製剤を合わせて飲むというのはわずらわしさもあって患者からは不評の声が挙がっていました。
新しい薬剤はこの問題を解決することになったのです。ひとつはメノエイド○Rコンビパッチ。卵胞ホルモンと黄体ホルモンを配合した貼布剤です。白色半透明で直径3.4センチの円形状のもので、これを下腹部に貼布することで効果を現します。しかも、コンビパッチ1枚を3~4日ごとに1回(週2回)張るだけですから、毎日張るのと違って簡単な方法です。特にSさんの主訴である「のぼせ」や発汗などの運動血管神経系症状の改善には最適といえます。しかも、子宮内膜がんの危険性が黄体ホルモンの併用によって抑えられ、使用していない女性と比べて0.8倍との心強い結果も得られています。貼布剤ですから張った皮膚が赤くなったり、かゆくなったりしないかとの不安がありますが、張る部位を毎回変更することで予防できます。
もうひとつが閉経後骨粗しょう症治療剤であるウェールナラ配合錠。これも卵胞ホルモンと黄体ホルモンを配合した飲み薬で、腰椎(ようつい)骨の密度を1年間で8%、2年間で10%増加させたといいます。張り薬であっても飲み薬であっても、使用できない人、使用に慎重を要する人がいます。Sさんのようなお悩みを抱えておられる女性がいらっしゃいましたら、ぜひとも婦人科の門をたたいてみてはいかがでしょうか。
2009年2月12日