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イスラエル総選挙:募る危機感、右傾化加速

 10日投票のイスラエル総選挙は、右派勢力が国会の過半数を獲得した。リブニ外相率いる中道政党カディマはかろうじて第1党にとどまる見通しだが、連立政権の枠組みがどうであれ右派の影響力増大は確実で、中東和平への道はさらに険しくなった。パレスチナ自治区ガザからの攻撃やイランの核開発などによる危機意識の高まりが背景にある右派の躍進。外交の最優先課題に中東和平を掲げるオバマ米政権にとっても厳しい結果となった。【エルサレム前田英司、ワシントン草野和彦】

◇安保外交後手に不満

 「和平の実現は、中道・左派陣営だけの問題ではない。我々にはテロとの戦いと並行して、和平の好機を追求する義務がある」

 リブニ氏は11日未明の勝利宣言で、和平交渉進展の必要性にこう言及した。議席が伸び悩み政権基盤が揺らぐ中、躍進した右派勢力をけん制して次の連立政権での主導権掌握を狙う発言だった。

 一方、議席を倍増させた右派リクード。党首のネタニヤフ元首相は、選挙結果を有権者のカディマ拒否の意思表示と宣言した。

 今回の右派躍進は、カディマ中心の現在の連立政権が招いたものといえる。06年5月に発足後、安全保障問題で、後手に回り続けてきたからだ。

 06年7月、レバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラによるイスラエル兵拉致を受け、第2次レバノン戦争に突入。大規模に地上部隊を侵攻させながら、ヒズボラの排除は達成できなかった。

 カディマ創設者であるシャロン前首相が05年9月にパレスチナ自治区ガザ地区からユダヤ人入植地を撤去したが、それにもかかわらずガザの武装勢力によるイスラエルへのロケット弾攻撃は続いた。さらに07年6月には、イスラエルの存在を認めないイスラム原理主義組織ハマスがガザを武力制圧。和平交渉のパートナーであるアッバス・パレスチナ自治政府議長の指導力に大きな疑問符が付いた。

 その一方で、イスラエルを敵視するイランは、核やミサイル開発を進めてきた。

 主導権を握れぬ安保外交戦略。政府への不満は積もり、世論の右傾化に結びついた。事前の世論調査でもカディマは終始リクードに後れを取った。起死回生を狙ったガザ攻撃も形勢逆転には至らず、中道・左派陣営は70議席から55議席へと、定数120の半数を割り込んだ。

 選挙結果に、ハマスも警戒を強めている。ハマスのバルフーム報道官は「政権が変わってもパレスチナ人の苦境に変化はない」と発言。別のハマス幹部は「右派勢力勝利は、イスラエルが『過激派』を選んだことを意味している」と指摘した。

 和平交渉進展のためには、譲歩という「痛み」を伴う。そのためには国民的合意が不可欠だが、選挙は和平に向けた動きにブレーキをかけた。パレスチナ自治政府の和平交渉団幹部、エラカト氏は「リブニ氏が首相に就いても、新政権が和平の必要条件を満たすことはないだろう」と悲観的な見方を示した。

◇オバマ戦略に痛手

 中東和平を重要課題に掲げるオバマ米政権にとって、イスラエル総選挙での右派勢力の躍進は大きな痛手だ。和平の停滞が長引けばオバマ政権が目指すイスラム世界との和解も遠のくことになるだけに、米紙ワシントン・ポストは「米政権にとって大きな頭痛の種になる」との専門家の見解を伝えた。

 民主党政権は、ネタニヤフ元首相に対して苦い思い出がある。

 93年、当時のクリントン大統領は、イスラエルの中道左派・労働党政権を率いたラビン首相(当時)と、パレスチナ解放機構のアラファト議長(同)を仲介し、歴史的なパレスチナ暫定自治合意(オスロ合意)に導いた。

 だが、95年のラビン氏暗殺後、96年に首相に就任したネタニヤフ氏は、和平交渉に消極的な姿勢を隠さなかった。クリントン大統領と性格的にも合わず、和平交渉は失速、停滞した。

 一方、カディマ党首のリブニ外相は和平交渉の進展には積極的で、ワシントン・ポストは「米国の交渉担当者はリブニ氏を望んでいた」と分析している。対パレスチナ強硬派の台頭を受けて、オバマ政権は出だしから、手探りの外交を迫られることになる。

【ことば】イスラエルの首相選定プロセス

 次期首相候補は大統領が各党代表と協議し、第1党の党首または過半数の61議席以上を連立によって確保できそうな政党党首(ともに当選議員)に組閣を命じる。組閣期限は28日間で、大統領権限で14日間の延長が可能。不調ならば大統領は別の当選議員に改めて28日間内での組閣を命じる。イスラエルでは48年の建国以来、単独で過半数を獲得した政党はない。

毎日新聞 2009年2月12日 1時17分

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