コラム
郷好文の“うふふ”マーケティング:
二次元の女と三次元の女、見つめたいのはどっち? (2/2)
[郷好文,Business Media 誠]
ナマではない世界観が広がる
例えば電子メール。私自身、相手と“話す”時、通話よりメールを選ぶようになってきた。携帯電話の利用アンケートを読んでも、“喋る派”よりも“打つ派”が圧倒的に多い。それを恐怖とまで言えないとしても、喋ることをわずらわしく感じることがある。会社やお店の予約もできるだけメールで済ましたい。出前や医者の予約もネットで済ます。まだ会ったことのない人でもメールは打てるが、いきなり会うのは失礼でもあり恐い。女性だと信じて相手にメールして、「実はネカマです」。あ、これは別の意味で恐怖だ。
会社でもナマが減っている。退職のあいさつを電子メールで済ますことは普通になってきた。辞める理由をあれこれ詮索されるのもイヤだし、今さらのアドバイスを聞かされてもね。上司が部下を電子メールで叱責する。メールなら打つ方も読む方も最低数メートルは離れているから、冷静になれる。いや、かえって逆上するか? でも会議室に呼び、1対1で諭すのと、どちらが効果的なのだろうか?
デジタル産業やオタク市場、マンガだけではない。家事ロボットやセルフレジのような機械化にも、飲食店の個食ブースも非婚現象にもその匂いを嗅ぎ取れる。ブログの炎上も、コールセンターへの言葉の暴力も、ナマだったらとてもできない。今、ディズニーランドが盛り上がるのは、近場でお手軽だからだけでなく、あそこでは非ナマ(非日常空間)とナマっぽいサービス(キャスト)がうまく混合しているからでもある。
ネット内の世界観だった“ナマからの逃避”が実生活にあふれてきた。ナマというノイズへの恐怖心を和らげる道具やビジネスが増えてきた。もはや「バーチャルな体験は不健康で、ナマの体験こそ素晴らしい」と単純化できない。どちらも私たちの生活リズムや消費心理に深く刻み込まれている。
ナマを観ながら自分好みの女を描く
アニメはファンタジーだから非ナマ女でいい。うーん、否定はしないが、“ナマの裸体”を直視しないで、本当の女が描けるのだろうか? 数々の美人画の巨匠、風間完氏は「美人画は人間を描くこと」だと言う。
「モデルにはいいところも悪いところもあるが、悪いところだってそんなに嫌いなわけじゃない。男と女は、うまさえ合えば欠点は赦しあえる。それが生きている人間のおもしろさだと思う」(アトリエ出版社『女性美の描き方』より)
自分好みの“いい女”を描こうとひたすら手を動かし続ける。「この女の額には何がつまっているんだろう」と思いながらコンテ(素描を描くクレヨン)を動かす。するとハプニングが起きて、画面に“いい女の表情”が突然出てくる。
自分好みのいい女を描く点では、風間画伯もアニメ志望学生も同じ。違うのはナマ(現実のモデル)と非ナマ(自分の好み)を一緒にさせようという努力だろう。アート分野だけでなく、ビジネス分野にも通じるのだが、私たちが生涯を通じてやることとは、自分と市場との折り合いをつけること。2つの世界のギャップを減らし、歩み寄らせることだ。そのためにはナマを直視する必要がある。
ただ画伯はこうも言う。「いい女の前でいいかっこしたいと思う気持ちがあると描けない。年をとって女への想いがある程度麻痺してから、ようやく美人画を描けるようになった」。うーん、ナマ身をファンタジーしちゃう私、まだまだ画伯にはなれないな。
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