コラム
郷好文の“うふふ”マーケティング:
二次元の女と三次元の女、見つめたいのはどっち? (1/2)
あるデザイン専門学校でヌードデッサンの授業をしていると、「気分が悪い」と退室する学生が何人も出たという。二次元のヌード絵は良くて、生身の女性の裸がダメなのはなぜか? その理由を考察していこう。
[郷好文,Business Media 誠]
著者プロフィール:郷 好文
マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・実行、海外駐在を経て、1999年より2008年9月までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。 2008年10月1日より独立。コンサルタント、エッセイストの顔に加えて、クリエイター支援事業 の『くらしクリエイティブ "utte"(うって)』事業の立ち上げに参画。3つの顔、どれが前輪なのかさえ分からぬまま、三輪車でヨチヨチし始めた。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」
ヌードクロッキーのエピソードを、作家であり非常勤講師でもある大野左紀子さんのブログで読んだ。かいつまむとこんな内容である。
ある日のデザイン専門学校での授業。1年生必修のヌードクロッキーがデッサンのテーマだ。女性のモデルさんが裸でポーズを取った。すると、しばらくして「気分が悪い」と退室する学生が何人も出たという。どうしてなのか? 緊張感からだろうか?
教官によるとそれだけではないという。アニメコースに入学する学生は、毎日のように女の子の絵を描いている。ヌードもたくさん描く。だからヌードに緊張したというだけでは説明がつかない。
教官は教えてくれた。アニメ作家志望の彼らには“理想的な女の子”が頭にインプットされている。画面からはみ出すほど長い脚や、ほっそりとした腰の女体。ところがナマの女体はそれとは違う。(鍛えているとはいえ)モデルには脂肪もあれば、シワもあるし、毛もある。三次元のモデルの肉体には、二次元アニメでは省かれがちなそういった“ノイズ”が過剰にある。そのため、ナマの肉体と理想的な女の子とのギャップに耐えきれず、気分を悪くして退室するというのだ。
そしてそればかりか、目の前の裸体とはまるで異なる“アニメの女の子”を、うつむいてスケッチブックに描く学生もいたという。
“ミテルだけ”が象徴すること
さまざまな議論が生まれるだろうエピソードである。アニメはPCでCGを描くもので、マーケットはリアルではなくバーチャルの姿態を求めているのだから、ナマ身のクロッキーがいるだろうかとか。アニメのキャラとはもはや人間観察から生まれず、フィギュアやPCのベジェ曲線から生まれるのかとか。もちろん“ナマの女への恐怖心”というオタク心理分析的なテーマもある。
ひと頃、『ミテルだけ』というDVDが話題になった。50人の女性たちが撮影するビデオカメラの方をじっと見ているだけ。その女性たちの目を1分間見つめるトレーニングによって、人見知りの羞恥心やナマの女性への恐怖心を減らすのが狙いだという。へえ、私なぞは、見つめて吟味して妄想して時々褒めるのが習慣なのに。
見つめるとは本来、“あなたに興味を持っていますよ”というサインなのである。なのに見つめるという行為だけを切り離して、バーチャルでトレーニングするというのはちょっと変だ。無遠慮に見つめる力が付いてしまうのはむしろ恐ろしい。
これはナマへの恐怖心、“ナマ女性対オタクの問題”という構図にとどまらない。“恐怖心を和らげるトレーニング”という切り口は今どきの人間心理をズバリ突いているのだ。ナマを怖がる心のまん延があちこちにあるからだ。
Copyright© 2009 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
新着記事
- 2007年と2008年の忘年会、何が違った?
- 日経平均は186円安と3日続落、7800円割れ=12日前場
- 20代の飲酒、約半数が“家飲み”も
- 日経平均は下げ幅150円超、広範囲に売り先行=12日寄り付き
- 二次元の女と三次元の女、見つめたいのはどっち?
あるデザイン専門学校でヌードデッサンの授業をしていると、「気分が悪い」と退室する学生が何人も出たという。二次元のヌード絵は良くて、生身の女性の裸がダメなのはなぜか? その理由を考察していこう。
新着記事
郷好文の“うふふ”マーケティング:二次元の女と三次元の女、見つめたいのはどっち?
山崎元の時事日想:“転職の親”を裏切ってはいけない。義理の世界で生きているのだから
“日本一”を支えるのは“地域一”――セブン-イレブンの新たな試み(2)
転職者の3人に1人は“景気の影響”を実感――退職理由の1位は?
まだまだ大きくなれるのか? セブン-イレブンの新たな試み(1)
連載記事一覧
財務で読む気になる数字:マイクロソフトに何が起きたのか? “配当しない会社”の決断
1-5.住まいの選択、完全理解!:賃貸 VS. 購入はどちらが合理的?――インテリアを楽しむポイントで比べる
あなたの隣のプロフェッショナル:「クラシック音楽に深く接してこなかった方にこそ聴いてほしい」――“魂のピアニスト”浦山純子氏
アクセスランキング
- 年収500万円台と2000万円以上の人、スキマ時間の使い方に違い(2009年02月09日)
- 3カ月で14〜15万円……USJで働くホームレスの実態 (2008年11月25日)
- 転職者の3人に1人は“景気の影響”を実感――退職理由の1位は?(2009年02月10日)
- 夫婦喧嘩、あまりしないのは近畿地方……最も多いのは?(2009年01月15日)
- 新型ハイブリッド車「インサイト」は売れる? “プリウス市場”に挑むホンダ (2008年09月05日)
- プリウスの独占市場を切り崩せるのか? 189万円の新型インサイト(2009年02月05日)
- 銀行マンが騒然!? 危ない企業300社リストの中身(2009年02月06日)
- 大学生が働いてみたい業界――女性は「放送・出版・新聞」、男性は?(2009年02月09日)
- 2万9800円で480馬力のクルマに乗りませんか?(2009年02月07日)
- 端末不況が直撃──“足もとの弱さ”が垣間見えたソフトバンクの2009年春モデル(2009年02月05日)