「風邪をひいた」「擦りむいた」−。救急車の安易な利用が社会問題化する中、鳥取県東部を管轄する東部消防局の出動件数は右肩上がりに増え、昨年、過去最多を更新した。連動するように、通報を受けてから現場に到着するまでの「レスポンスタイム」が遅れている。軽症患者を搬送中に重症患者が発生する事態も少なくなく、関係機関は救急車の適正利用を呼び掛けている。
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119番通報を受けて出動する救急車=鳥取市吉成の鳥取消防署
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県内の昨年の出動件数は二万千四十一件。近年は中部・西部消防局で減り、二〇〇七年から二年連続で前年を下回った。
しかし、東部は歯止めが掛からない。東部消防局によると、管内の昨年の出動件数は八千五百四十五件(一日平均二三・三件)で、前年と比べて約百件増えた。一九九九年と比べて一・四倍以上となっている。
出動件数は鳥取市内が八割を占める。以前は救急車を呼んで騒ぎになるのを嫌がる傾向が強かったが、最近は「困ったときの一一九番」が浸透してきたのが一因という。
一方、東部消防局のレスポンスタイムは年々長くなる傾向だ。昨年の平均は六・八分。全国平均(七分)より短いが、前年比でみると長くなった。現場から病院へ運ぶのに要した時間も前年と比べて約一分長く、二八・八分だった。
県防災局消防チームは「出動件数が増えているが、救急車両をなかなか増やせない財政上の問題があり、現場から遠い消防署が出動を強いられる事態も生じている」と指摘する。
深刻なのは、緊急度が低いにもかかわらず、安易に出動を要請するケースだ。一分一秒を争う患者が発生しても、搬送途中で軽症患者を降ろすことはできない。
東部消防局の昨年の搬送車のうち、約四割は入院の必要がない軽症患者だった。中にはガラス片で指を切ったり、転んで擦り傷を負ったり。「しんどい」との通報で駆け付けると、玄関前で入院用の荷物を掲げて待っていた患者もあった。ごくまれだが、タクシー代わりに呼ぶ例もある。
一一九番受信時では症状の判断が難しく、救急隊員は原則として現場へ向かう。東部消防局は今後、一一九番受信時のトリアージ(緊急度による対応順序の決定)制度の導入を検討する方針だ。
警防課の大田康範課長は「必要なときは迷わず要請してほしいが、救急体制には限界があり、安易に要請すると救える命も救えない恐れがある」と訴えている。