殺虫剤やカビ毒に汚染された輸入米の転売事件で、大阪、福岡、熊本3府県警合同捜査本部は、大阪市の米卸売加工会社、三笠フーズ(破産手続き中)の冬木三男社長ら5人を不正競争防止法違反(虚偽表示)容疑で逮捕した。
逮捕容疑は、殺虫剤に汚染されたベトナム産の工業用のり米を1キロ当たり約19円で仕入れ、食用米を混ぜて酒造会社に数倍の価格で販売していたというものだ。
ほかにも、中国産米などで工業用米を食用と偽って販売したうえ、転売を繰り返して価格をつり上げた疑いが持たれている。
この事件では、危険な汚染米が菓子や焼酎の原料となったほか、学校や病院、高齢者施設の給食、市販の弁当類にまで使用された。生活に最も身近な食糧である米の安全性に対する信頼が根底から覆された衝撃は大きい。
手口は極めて巧妙かつ悪質で、捜査本部がより罰則が重い詐欺容疑の適用を目指すのは当然だ。徹底的な真相解明を期待したい。
また、迅速な消費者保護を図るためには、捜査当局がこの種の犯罪を摘発しやすくするよう、法整備を進めることも必要だ。
問題となった汚染米は、ウルグアイ・ラウンドの合意に基づき、国が輸入を義務付けられた「ミニマムアクセス米」の一部だ。政府がこの制度の検証を怠ってきたことが事件の土壌となった。
それだけでなく、農水省は三笠フーズに何度も立ち入り検査を実施しながら不正転売を見抜けなかった。米を販売する一方で、検査も行う農水省の立場が検査を甘くしたといえる。
事件をめぐっては昨秋、「あまりじたばた騒いでいない」と発言した太田誠一農相が辞任に追い込まれ、白須敏朗事務次官も事実上更迭された。
後任の事務次官ら25人も処分を受けたが、農水省大阪農政事務所の幹部が三笠フーズから接待を受けていた事実で明らかなように、事件の根底には同省と業者の癒着の構図がある。
農水省は、輸入米に基準を超える残留農薬などが見つかった場合、廃棄するか輸出国に返送するといった再発防止策を打ち出した。だが、昨年暮れには、食品加工製造業者に販売したタイ産米の一部からカビ毒が検出され、対策が不十分である現状が露呈した。
こうした例を見ると、農水省のずさんな検査体制や業者とのもたれ合いの体質は改まっていないのではないかとの疑念がわく。
石破茂農相は先月、農政の指針となる基本計画の見直しを諮問した。米の生産調整である減反政策を維持すべきかどうかが焦点となるが、抜本的な農政改革に踏み出すには、今回の事件の反省を踏まえて、再発防止策を強化することが不可欠だ。
毎日新聞 2009年2月12日 東京朝刊