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社説:イスラエル 中東和平を大事にする政権を

 政権の行方は判然としないが、国政の重心が右に動いたのは確かである。10日に投開票されたイスラエルの総選挙(定数120)は、与党の中道政党カディマと野党の右派リクードが接戦を演じ、両党の代表がともに勝利を宣言する異例の事態となった。

 カディマを率いるリブニ外相が、イスラエル史上でゴルダ・メイアに続く女性首相となるか、それとも米国のネオコン(新保守主義派)との関係も深い、リクードのネタニヤフ元首相が返り咲くのか。注目される展開だが、結論が出るまで時間がかかりそうだ。

 というのもカディマとリクードの獲得議席はともに30未満。過半数を制して政権を樹立するには、他党と連携して30議席余りを上積みする必要がある。既に65議席を固めたというリクードなどの右派陣営が有利だが、今は多数派工作の推移を見守るしかないだろう。

 だが、誰が首相になるにせよ、どんな連立政権になるにせよ、中東和平に努めなければイスラエルに真の平和と安定は訪れない。この点は強調しておきたい。

 今回の選挙は、イスラエル軍の激しいガザ(パレスチナ自治区)攻撃の熱が冷めやらぬ中で行われた。この軍事行動を境にカディマの支持率が上昇したのは、パレスチナへの鉄拳政策にイスラエル国民が拍手を送ったということだろう。リクードはもっと強硬で、ガザにおけるイスラム原理主義組織ハマスの支配構造の根絶を主張している。

 確かにイスラエル国民の安全は大切である。ハマスのロケット弾が空から降ってこない生活を、と国民が願うのは当然だ。だが、イスラエルが民主国家であり人権を尊重する国ならパレスチナ人の命も大切にすべきである。いかにハマスを悪者にしようと、イスラエル自身の占領による問題が消えるわけでもない。

 「安全」を重視するあまり、対パレスチナで強硬さを競い合う選挙になったのではないか。その好例は極右政党「わが家イスラエル」の躍進だ。アラブ系住民にイスラエルへの「忠誠」を求め、従わない者には市民権を与えないとする政策は過激である。同党はバラク元首相の労働党をしのいで第3党に躍り出た。

 イスラエル国内でアラブ系住民が増え続けることへの危機感の反映だろう。アラブ系を排斥する一方、国際社会が「和平への障害」と憂慮するユダヤ人入植地の建設は続ける。それが極右政党などの主張であり、こうした勢力との連立が新政権を強硬にするのではないかという懸念がある。

 ただ、イスラエルは「安全」とともに対米関係を命綱としている。ブッシュ政権時は「イスラエル一辺倒」とされた米国の姿勢が、オバマ政権になって変わるのかどうか。その点もイスラエル新政権の政策を左右することになるだろう。

毎日新聞 2009年2月12日 東京朝刊

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