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社説

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オバマ経済対策―早く実行に移し信認を

 「何もしなければ破局になりかねない」。オバマ米大統領は就任後初の本格的な記者会見で、危機感をあらわにした。日々悪化する経済に、いても立ってもいられないのだろう。

 最優先課題である「経済再生」への取り組みが、最初の正念場を迎えている。就任から3週間。早くも政権の実行力を問われる局面である。

 再生策の第1の柱である大型の景気対策法案は、上院を通過した。異なる内容の法案を可決した下院と協議し、法案を一本化したうえで、16日までの成立をめざす。「最大400万人の雇用を確保する」と強調してきた大統領の公約である。成立のめどが立ったことは、いちおうの成果だろう。

 だが代償も大きい。オバマ大統領は「超党派の協力」を呼びかけたが、野党・共和党の賛成は下院でゼロ。上院でも3人にとどまった。党派対立という「ワシントンの悪弊」は、高支持率に支えられるオバマ氏にとっても分厚い壁であることが明らかになった。

 オバマ氏は不況に直撃されている地方で、国民との対話集会を始めた。議会が協力姿勢を示すよう、草の根から圧力をかける狙いのようだ。だが、人事でのつまずきもあり、今後も議会対策では苦しむことになりそうだ。

 経済再生の第2の柱は、新たな金融安定計画である。こちらはガイトナー財務長官が今週発表した。

 官民が一体となって1兆ドル(90兆円)規模という「不良資産買い取り基金」を設立することを打ち出した。ブッシュ時代と違って対策を前進させると強調するが、その真価は政策の「やり方」次第になるだろう。

 基金を新設しても、不良資産を「いくらで買うのか」という課題を克服しないことには、前に進まない。

 金融機関から高く買えば、損失を押しつけられる国民が納得しない。逆に安いと、損失が表面化する金融機関は売却を嫌い、貸し渋りを続ける道を選ぶだろう。ブッシュ政権が乗り越えられなかった課題である。

 このジレンマを解決するには、金融当局が資産内容を徹底して検査し、適正な価格を割り出すしかない。まずシティグループなど特に経営の悪いところを取り上げ、優良資産と不良資産を切り分ける実践例をつくることが、その突破口になるのではないか。

 だがそれは、洗いざらい調べられる金融機関にとって極めてつらい手術だ。さまざまな抵抗が予想される。対策の発表後にニューヨークの株式相場が今年最大の下落となったのは、金融・株式市場のそうした不安感を反映しているのかもしれない。

 景気も金融も、スピード感をもって対策を実行すること。これが、オバマ氏への「期待」を政権への「信認」に高められるかどうかの鍵になる。

イスラエル選挙―和平への道を閉ざすな

 イスラエルの総選挙で右派が議席を伸ばした。新しい政権の構図はまだはっきりしないが、パレスチナやシリアとの和平の展望はいちだんと厳しいものになりそうだ。中東全体にも緊張が高まることが懸念される。

 開票速報によると、現与党の中道政党カディマと右派の野党リクードが第1党を争っている。さらに強硬右派の「イスラエル我が家」が第3党に躍進することが確実となった。中道左派の与党労働党は第4党に後退した。

 新政権づくりでは、カディマがリクードに大連立を呼びかける一方、リクードは右派の諸政党による連立を唱えている。いずれにせよ右派勢力主軸の政権が生まれる公算が大きい。

 イスラエルは年末からイスラム過激派ハマスが支配するガザに大規模な攻撃をかけ、国際的な非難を浴びた。それにもかかわらず、この攻撃をユダヤ系国民の9割以上が支持する。核疑惑のあるイランに対する軍事攻撃を支持する空気も広がっている。

 結局、有権者は「交渉による和平」ではなく「力に基づく安全確保」の方を選択したということだ。強硬発言を繰り返すイランのアフマディネジャド政権や、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマスの勢力が衰えないことへの恐怖感も根底にあるのだろう。

 それにしても、90年代に和平推進を掲げてリクードと政権を争った労働党の低落ぶりには驚かされる。

 ガザ攻撃を主導したのは、労働党党首のバラク国防相だった。世論が「安全確保」に傾いているのを意識してのことだったろう。それでも支持回復にはつなげられなかった。

 2000年にパレスチナ人のインティファーダ(民衆蜂起)が始まって以来、国民に和平への期待は失われ、強硬論が強まった。そうした流れを覆す明確な和平構想を示せなかったことがこの惨敗を生んだ。

 今回、躍進した強硬な右派政党「イスラエル我が家」は国への忠誠を強調し、和平交渉を拒否する。国内のアラブ系住民の排斥さえ唱えている。

 リクードはそこまで過激ではないものの、イスラエルの占領地撤退と見返りにアラブ諸国がイスラエルの生存権を認めるという「土地と平和の交換」に基づく和平に否定的だ。ヨルダン川西岸の入植地の拡大も主張している。

 右派主軸の政権となれば、中東和平に積極姿勢を見せているオバマ米大統領にはショックだろう。イランに対話を呼びかけたのも、この地域の安定に欠かせないと見たからだ。イスラエルとイランの関係が険しくなれば、中東戦略全体が難しくなりかねない。

 中東の平和と安定は、世界の安全にかかわる。イスラエルが和平に背を向けないよう、日本を含めて国際社会はメッセージを送り続けるべきだ。

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