◎闇サイト対策 ネットの監視だけでは限界
石川県警など六府県警の合同捜査本部が逮捕した振り込め詐欺の集団は、やはり「闇サ
イト」で仲間を集めていた。振り込め詐欺や窃盗仲間の募集、銀行口座、携帯電話、薬物などの不正売買情報など、インターネット上には、さまざまな犯罪行為への「誘い」があふれている。
それでも現行の法律では、闇サイトの運営を規制したり、犯罪仲間を募集する書き込み
をした人物を罪に問うのは難しく、せいぜい接続業者などを通じて削除を求めたり、警告を発するだけである。警察のサイバーパトロールやNPOなど民間団体による監視にはおのずと限界があり、闇サイトは事実上野放しと言ってよい。
捜査当局に検討を求めたいのは、闇サイトに対する「おとり捜査」である。二〇〇四年
七月の最高裁判決で、通常の捜査方法のみでは摘発が難しい場合、犯罪を行う意思があると疑われる者を対象に、おとり捜査を行うことは、任意捜査として許容されるとした判例がある。闇サイト摘発のためのおとり捜査は、判例に照らしても許されるのではないか。犯罪行為の誘いにのったふりをして、実行直前に摘発する捜査を集中的に行えば、効果は絶大だろう。
警察庁は〇六年に、インターネット上で違法に販売されている児童ポルノ画像や偽ブラ
ンド品などについて、警察官が客を装って買い取り、逮捕に結び付ける方針を決め、全国の警察に指示している。「買い受け捜査」と呼ばれる、おとり捜査の手法の一種であり、闇サイトの摘発にも応用できるはずだ。
神奈川県警が昨年七月、インターネットの掲示板で金融機関の口座の売り渡しを勧誘し
た男に、顧客を装ってメールを送り、待ち合わせ場所に現れた男を逮捕した事例もある。
一昨年夏、闇サイトで出会った三人の男が名古屋市で女性を拉致し、ハンマーで殴るな
どして殺害した事件があった。出会い系サイトや自殺サイトに絡んだ犯罪も後を絶たない。
おとり捜査には、国家が犯罪を誘発する危険性もあり、慎重さも求められる。運用規定
を整備したうえで、犯罪抑止に役立てたい。
◎漢検立ち入り調査 ブームに水差さぬ運営を
漢字検定を実施する財団法人「日本漢字能力検定協会」(京都市)が文部科学省の立ち
入り調査を受けた。必要以上の利益を出すことが認められていない公益法人でありながら、過大利益や理事長関連企業への多額の支出などが問題視されている。
漢検の受検者は一九七五年当初の約六百七十人から二〇〇七年度には二百七十三万人に
増え、その資格は就職や進学でも優遇され、社会に広く定着している。検定合格を励みに学習している人は多く、今回の問題が近年の「漢字ブーム」に水を差さないか心配である。協会は文科省の調査に積極的に協力し、襟をただすところがあれば速やかに是正して運営の透明性を高めてほしい。
文科省によると、協会は〇六―〇七年度に計約十五億円の利益を計上し、資産総額は〇
七年度末には約七十三億円にまで積み上がった。さらに理事長らが関係する四社に〇六年度からの三年間で広報や採点処理などの業務委託名目で約六十六億円が支出され、多額の不動産取引や幹部向け供養塔建立なども明らかになっている。
協会は毎年末に清水寺で「今年の漢字」を発表し、関連書籍や家庭用ゲーム、テレビ番
組への問題提供など事業を拡大してきた。それ自体は批判される筋合いではないものの、得た利益の処理については詳しい説明がなく、理事長らの公私混同、私物化と疑われてもやむを得ない面がある。協会も調査委員会を設けたからには自浄能力を発揮してもらいたい。
漢検の受検者が増加した背景には、一九九二年に文部省(当時)認定の技能検定として
お墨付きを得て財団法人化したことがある。文科省はこれまでも協会を指導してきたが、財務の中身は十分に把握してこなかったという。監督官庁としての姿勢にも疑問が残る。
パソコンや携帯電話などの普及で、漢字を書く機会が少なくなったと言われるなかで「
漢字ブーム」は日本語の豊かさを再認識し、活字への関心を促す点でも好ましいことである。漢検を受ける誰もが納得できるよう、協会は運営体制そのものを見直す必要があろう。