総合建設業(ゼネコン)大手の鹿島(東京)による所得隠しが報じられたのは2007年12月のことだった。
東京国税局の税務調査で06年3月期まで2年間で約6億円の所得隠しが指摘された。うち約5億円は、大手精密機器メーカー、キヤノン(同)の子会社が大分市に工場を建設する工事に絡んで、鹿島が下請け業者に架空の外注費を支払ったようにして捻(ねん)出(しゅつ)した資金だという。
鹿島は、この金の使い道を明らかにせず、使途秘匿金として制裁課税された。
この裏金は何のためにつくられ、誰に渡ったのか。鹿島がキヤノンの工事を受注するための工作資金になったのか。
鹿島は03年以降、大分市のデジタルカメラ工場建設を皮切りに、隣接する用地のプリンター関連工場、川崎市のプリンター研究施設、宇都宮市の研究所の建設工事と、次々に受注していった。
この受注工作に一役買ったのが大分市のコンサルタント会社社長ではないか。当初から、こんな見方があった。
裏金問題発覚から1年以上になる。そして、事態は新たな展開を見せた。
東京地検特捜部は、疑惑の人物でコンサルタント会社「大光」社長大賀規久容疑者を法人税法違反容疑で逮捕した。
前日逮捕された大阪市のコンサルタント会社社長らと共謀し、大賀容疑者が経営する内装工事会社の売り上げの一部を除外して架空経費を計上する手口で、06年5月期までの2年間に法人所得約9億7600万円を隠し、約2億9200万円を脱税したという。
脱税工作は同容疑者が主導したとみられている。不透明な金の流れは今後の捜査によって徐々に明らかになるだろう。
それにしても、この問題は常識では判じがたい、不可解な部分だらけだ。
まずは人間関係がひっかかる。キヤノンの御手洗冨士夫会長と同容疑者の親密さを象徴する話が1つあった。
03年夏、大分県が御手洗会長を招いて行ったデジタルカメラ工場の候補地選定の視察に、本来は部外者である同容疑者も同席していたというものだった。
キヤノンは「会長が大分に入るときは同席することが多く、視察はたまたまだった」と説明した。だが、軽率ではないか。御手洗会長に影響力がある人物と世間が過大評価しても不思議ではない。
同県の広瀬勝貞知事にとって御手洗会長と同容疑者は選挙の支援者でもあった。広瀬知事は02年暮れに同容疑者と知り合い、初当選した03年春の「(選挙で)お世話になった」と説明した。
視察に知事も参加した。同容疑者が知事との関係も吹聴する恐れもあった。公私の区別を厳しくすべきでなかったか。
大分市内の2つの工場用地はいずれも県土地開発公社が鹿島と随意契約を結んで造成・整備をさせた。これも釈然としない。ここに至れば捜査当局によって幾多の疑問を解いてもらうしかない。
=2009/02/11付 西日本新聞朝刊=