大規模プロジェクトの背後で、巨額の裏金が動いていた疑いが濃厚だ。
大分市のコンサルタント会社「大光」の社長や、取締役を務めていた元大分県議会議長らが法人税法違反(脱税)容疑で東京地検特捜部に逮捕された。精密機器大手「キヤノン」グループの大型工事を受注したゼネコン大手「鹿島」や下請け受注した電気設備工事大手「九電工」から提供された裏金などを隠し、3億円近くを脱税したとされる。裏金の目的や使途など事件の全容解明を特捜部の捜査に望みたい。
裏金は鹿島が約5億円、九電工が約2億円に上るとみられている。大手企業がこれほど多額の裏金を当たり前のように渡しているとすれば驚きだ。大光の社長はキヤノンの御手洗冨士夫会長と親しい間柄だ。キヤノン関連工事を大光グループが下請け受注した実績もある。キヤノンに対する社長の影響力を期待して裏金を提供したようだ。
それまで受注実績のあった別の大手ゼネコンに取って代わり、鹿島が受注したキヤノン絡みの工事は4件で総額824億円に達する。巨額プロジェクト受注のためなら、5億円は安いと考えたのだろうか。鹿島の担当社員は特捜部に「工事受注の成功報酬だった」と供述しているという。
鹿島は国税当局にも5億円の使途を明らかにせず、使途秘匿金として課税処分を受けた。表に出せない金は、いずれ不正に処理される可能性が強い。裏金提供は企業のコンプライアンス(法令順守)が求められる今の時代に明らかに逆行する行為であり、許されない。
御手洗会長は事件について「キヤノンや私の関与は全くない。迷惑を被っている」と説明している。それでも、キヤノン関連工事が結果として不正の舞台に利用されたことを重く見て、鹿島への発注経過や大光社長によるキヤノンへの働きかけの有無などを詳細に明らかにしてほしい。御手洗会長は日本経団連会長も務めるだけに、取引の透明さがより一層求められるのではないか。
93~94年に摘発されたゼネコン汚職事件をはじめ、裏金がわいろとして政治家や官僚、自治体トップらに渡り、企業の責任が問われた例は枚挙にいとまがない。にもかかわらず、企業の裏金作りは後を絶たない。準大手ゼネコン「西松建設」が海外で作った裏金を不正に国内に持ち込んだとして、前社長や元副社長らが逮捕・起訴されたばかりだ。西松建設の裏金はタイでの工事受注のため、当時のバンコク知事側に渡った疑いなどが浮かんでいる。
公共工事にせよ民間の工事にせよ、裏金が介在すればその分、経費は高くつき、ツケは国民や消費者に回ってくる。裏金を「必要悪」として商取引に介在させる慣習を、いいかげんに断ち切らなければならない。
毎日新聞 2009年2月11日 東京朝刊