日本人の主食である米の安全神話を揺るがした汚染米転売事件で、三笠フーズ(大阪市北区)社長の冬木三男容疑者(73)ら5人が逮捕された。農薬などに汚染された米を食用として流通させた前代未聞の食品偽装。同社元顧問の宮崎一雄容疑者(77)とともに“米ロンダリング”を主導したとされる冬木容疑者は、リゾート地の岡山県備前市のマンションで逮捕された。
冬木容疑者は10日午前9時20分過ぎ、捜査車両に乗せられて大阪市中央区の大阪府警本部に入った。カーキ色のコートを羽織り、目を閉じたまま終始うつむき加減だった。捜査関係者によると、冬木容疑者は備前市の親類宅のマンションに滞在し、午前7時過ぎに捜査員が訪れ、逮捕状を示されると「分かりました」と素直に応じたという。
汚染米転売が発覚した翌日の08年9月6日に記者会見で謝罪して以降、冬木容疑者は公の場から姿を消していた。最近は週に数回、大阪府警の任意の事情聴取を受けていた。
1月中旬、三笠フーズの顧問弁護士に電話をかけてきた。「元気にしてます」との声には、いつもの張りがなかったという。「食欲がない」「何で生きてるんやろ」。逮捕が迫っていることを知っていたのか10分足らずの会話の間、終始弱気だった。
逮捕については「仕方ないやろな」とつぶやき、ワンマン社長として知られた人物とはかけ離れた様子だったらしい。
昨年11月末、三笠と関連会社の辰之巳(東京都)は総額15億5300万円の負債を抱え、破産手続きの開始を大阪地裁に申請した。
関係者によると冬木容疑者は兵庫県宝塚市の自宅にもほとんど戻らず、主に備前市のマンションでひっそりと生活をしていたという。
宮崎一雄容疑者は08年12月、毎日新聞の取材に「警察にはすべて話した。(汚染米問題は)終わった話だ」などと答えた。一問一答は以下の通り。【島田信幸】
--三笠フーズでの立場は。
(非常勤顧問をしていたが)クビになった。
--冬木社長は「宮崎元所長が転売を提案した」と主張しているが。
うそばっかりだ。自分の責任にしたくないんだろう。
--メタミドホスの汚染米を購入した飼料仲介会社は「宮崎元所長から最初に購入を持ちかけられた」と言っているが。
してない。
--汚染米との認識はなかったのか。
いいや。(買った業者も)汚染米と知って買っているはず。三笠がそういう米を仕入れていることを知っているんだから。今ごろになって「知らなかった」というのはおかしい。
--消費者に後ろめたい気持ちは。
仕入れた米を売らなきゃいけない。昔は、違反じゃなかったんだ。
農林水産省では10日午前10時20分、石破茂農相が会見し、三笠フーズ社長の冬木容疑者らの逮捕について「検査体制が万全であれば、このようなことは起きなかった。国民におわびする」と改めて陳謝した。【稲垣淳】
毎日新聞 2009年2月10日 12時19分(最終更新 2月10日 13時37分)