親を失った学生を支援している「あしなが育英会」(東京都千代田区)への奨学金出願が急増している。格差の拡大や不況の影響で遺児家庭の家計が苦しくなっているためで、昨年の出願者は約2800人と過去最高を更新した。一方で会の寄付金収入は増えておらず、今春の大学進学希望者への支給率は過去最低の約6割にとどまった。育英会は「不況が長引けば、学生が教育を受ける機会が奪われかねない」と危機感を募らせている。【町田徳丈、山本太一】
出願者を対象にした育英会の調査によると、98年に約200万円だった母子家庭の年間所得は、06年に約137万円に減少した。これに対し、98年に1459人だった奨学金出願者は02年に2000人を突破、不況が深刻化した08年は2808人に上った。
福岡市出身の奨学生で、北里大医療工学科2年の堀田竜也さん(20)は、都内にある育英会の学生寮から大学に通い、がん治療に携わる放射線技師の資格取得を目指している。高校1年の時、父親が借金苦で自ら命を絶った。人の死を目の当たりにして「命を救う医療に携わりたい」と進学を希望した。
介護の仕事をしている母親の収入だけでは大学の学費は工面できなかったといい「社会の支えで大学に通っている。後輩の遺児も一人でも多く進学してほしい」と話す。
だが、育英会を巡る現状は厳しい。団体や個人からの寄付、返還金は、年間20億円前後で推移しており、増加傾向は見られない。
奨学金は高校進学希望者への貸与を優先し、6割以上を充てているため、今年度は大学進学を希望する申請者613人に対し、378人(62%)しか奨学金を貸与できなかった。
奨学金の原資となる寄付金を集めるため、堀田さんは毎年春と秋の2回、同じ寮で暮らす日本大2年、尾上晃二さん(21)ら奨学生仲間と一緒に街頭に立つ。「後輩に進学するチャンスを失わせたくない。景気が悪くなると、弱い立場の遺児家庭はますます苦しくなる現状を訴えたい」。2人はそう思っている。
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■ことば
病気や災害、自殺で保護者を亡くした学生を支援する民間の非営利団体。高校生には月額2万5000~3万円、大学生には4万~5万円の奨学金を無利子で融資し、20年以内に返還してもらう。これまで約2万4000人が奨学金を得て進学した。
毎日新聞 2009年2月9日 東京夕刊