オバマ米大統領が早期成立を目指す大型景気対策法案の審議が決着しようとしている。規模や内容をめぐり、民主、共和両党の激論となった上院で、民主党議員と共和党の一部議員が合意に達した。十日にも採決の見込みだが、さらに先に可決された下院案との一本化など、最終的な調整が残っている。
法案は、大型減税と大規模なインフラ整備が柱になっている。中低所得層の所得税減税や住宅取得者の減税、高速道路や橋の建設、太陽光発電の普及支援などを盛り込み、最大四百万人の雇用創出を目指す。
深刻な景気後退に陥っている米経済は、昨年末のクリスマス商戦も不振で、一月の失業率は7・6%まで悪化した。一九九二年九月以来、十六年四カ月ぶりの高水準である。雇用情勢の一段の悪化が、個人消費や企業収益の低迷に拍車を掛け、負の連鎖が進みかねない。
法案は過去最大規模の財政出動で雇用情勢の悪化を食い止め、成長分野への投資で需要を創出、民間主導の景気回復につなげることを狙っている。米経済の回復は、同時不況に見舞われている世界経済にも好影響を及ぼすものであり、迅速な景気対策が望まれる。
一方で気掛かりなのが米国製品の購入を義務づける「バイ・アメリカン条項」だ。下院案に、公共事業では米国製の鉄鋼のみを使うことが盛り込まれた。さらに上院は、鉄鋼と並び「工業製品」の文言を加え、対象を拡大した。
これに対して、日本や欧州各国、カナダなどが「保護主義を助長する」として反発、米国商業会議所も反対声明を出すなど内外から批判が上がった。オバマ大統領も「貿易戦争」を引き起こしかねないとして、修正の必要性を示した。
ところが、上院は条項を削除する案を否決した。代わりに「国際合意に基づく米国の義務と矛盾しない方法で適用する」との文言を付け加える修正案を承認した。実際の運用がどうなるか不透明で、保護主義への懸念は残されたままだ。
昨年十一月に開かれた緊急首脳会合(金融サミット)は保護主義の拒否を宣言した。各国が保護主義的な政策を強めれば、世界的に輸出市場が縮小し、雇用情勢の一段の悪化を招く恐れがある。
法案は一本化すれば、オバマ大統領の署名を経て成立する。米国は保護主義に走らないという明確なメッセージを、大統領は発信すべきだろう。
南極海で、日本の調査捕鯨船二隻が、相次いで米環境保護団体「シー・シェパード」の抗議船から体当たりを受ける出来事があった。
抗議船の船長はクジラを調査母船に移すのを阻止しようとした際のトラブルで、故意ではないと主張したが、二隻にぶつかった状況から考えて疑わしい。抗議船は前日にも悪臭を放つ液体入りの瓶を投げ込んだりロープを投下するなど、調査捕鯨の妨害活動を行っている。
ぶつけられた二隻とも船尾を損傷したものの、負傷者などが出なかったのは幸いだった。石破茂農水相は「犯罪だ」と強く非難し、外務省は抗議船の船籍国であるオランダの駐日大使に抗議した。
シー・シェパードの抗議船は昨年も日本の調査捕鯨船団に薬品入りの瓶などを投げ込み、負傷者が出た。日本の調査捕鯨は国際的に認められている。たとえ反対であっても、暴力に訴えることは絶対に許せない。議論によって解決策を見つけていくのが筋である。
日本を含む捕鯨国と反捕鯨国の溝は深い。だが、今月初め、国際捕鯨委員会(IWC)の作業部会は日本が南極海での調査捕鯨を大幅縮小する見返りに、日本の求める沿岸捕鯨を認めるなどとする報告書を発表した。石破農相は調査捕鯨継続を訴えつつも内容を精査する考えを示した。今後の協議の糸口となる可能性はあろう。危険行為は話し合いの機運を阻害し、感情的対立を助長しかねない。
抗議船にはオーストラリアが港を提供するなど、シー・シェパードに関係する国は多い。いずれも反捕鯨の世論が強い国だが、危険行為に対しては各国政府は毅然(きぜん)とした態度をとるべきだ。それぞれの国内世論とは別次元の話である。
(2009年2月10日掲載)