アニメのテレビ東京――。こう称されるほど、アニメ業界において存在感が大きいのが同社である。実際、民放地上波キー局で最大のアニメの放映枠数を持っていることに加え、ヒット作の多くが同局発の作品だ。
「新世紀エヴァンゲリオン」「ポケットモンスター」シリーズをはじめ、数々の大型ヒット作品を生み出してきた同局の岩田圭介・メディア事業推進本部コンテンツ事業部次長兼アニメ事業部長に、今回から3回にわたり、今のテレビアニメ界の全体像を解説してもらおう。
――岩田さんの目から見て2006年のアニメビジネスの状況はどうでしたか。
岩田圭介・メディア事業推進本部コンテンツ事業局次長アニメ事業担当兼アニメ事業部長
DVD市場が踊り場にあるとはいえ、まだ将来のヒットを狙った投資の意欲は衰えていないようです。実際、アニメは当たれば大きなリターンがあります。
映像だけではなくゲームや玩具といった商品展開もあるので、タイトルにもよりますが国内だけで数百億円、ワールドワイドでは数千億円規模にも上ることもあります。
こうした規模のアニメビジネスの成否という観点からすると、単発の邦画よりも、テレビアニメ発の作品の方がリスクは少ないように思えますね。映画は1回興行して、それが失敗したらもう終わりです。一方、テレビアニメは毎週放送され、放送し続けることで宣伝効果やテストマーケティング効果が得られますから、途中で軌道修正が可能です。
さらに、製作委員会(複数社が制作費を出資する組合事業)のメンバー各社が企画段階から、そのアニメに関わるビジネスを考えており、それぞれの会社で事業プランが成立しています。そこには具体的な予算もあるわけで、「こういう商品なら小売店に最低でも何ロット卸せる」という計画が可能です。
また、宣伝費を含めた単発の映画の制作コストと、テレビアニメーションの制作コストを比べてみても、テレビアニメの方がいろいろな面で負担は少ないと思います。
バブル崩壊後、資金がアニメ制作に流れ込んだ
――制作費だけで考えた場合、テレビで半年のシリーズならば3億5000万円で、26本作品が作れますからね。映画だったら1本分です。
そうですね。2時間と30分の尺の違いがあったにしても、映画だったら1本しかできないものが、それだけの数を作れる。ということは、DVDなどのビジネスから見ても4話収録で販売巻数が6巻という具合に増やせます。このような使い勝手がいい面をテレビアニメは持っているわけですね。
こうした特徴があって、アニメの放送本数が伸びてきたのだと思っています。ただ、ここ数年でアニメ作品が増えた理由は、これだけではないと思います。私の持論なんですが、バブル景気の崩壊後からアニメに資金がいろいろなところから流れてきたんだと感じているんです。
――具体的にはどういうことですか?
1990年代初頭にバブルがはじけた後、かつてのように不動産への投資、あるいは投機的な資金供給は行えない状況が続きました。従って、“日本マネー”はいろいろな投資先を探している状態にあったと思います。そしてその行き先がIT(情報技術)産業であったり、バイオ産業だったりというわけです。
そして90年代後半になると、投資先の1つとしてコンテンツ産業――とりわけアニメが浮上してきました。これは日本テレビ放送網系の「アンパンマン」のように、放送事業ではそれほど利益をもたらしていないにもかかわらず、著作権を活用したライセンスビジネスでは、大きな収益を生むことが、徐々に世の中に知られていったということが背景にあります。そして新たに金融機関や商社の資金の一部がアニメに流れ込んできたというわけです。
――ただ、アニメ業界は閉鎖的で、外部の企業が資金を出したくてもなかなか出資には結びつかなかったと思いますが。
実は外部からの資金導入は、業界内部の課題を解決する役割もあったんです。それは放送コストの問題です。
メディアが成熟する中で、テレビ放送の媒体価値が高まり、結果として電波料(スポンサーの広告料)も上がっていきました。こうなってくると、玩具メーカーさんが1社だけで、1つのアニメ番組を支えるというのはすごく難しいんですよ。ここで利害が一致したわけです。
外部からの出資を受け入れることで、玩具メーカーさんにとってみれば広告費を抑えつつ番組を展開できる。もちろん、作品が大きくブレークしたときには、出資者にはリターンがありますから、金融的な観点からすると分かりやすい仕組みだったんだと思います。さらに、映像への投資にはメリットがあります。
――何ですか?
映像の投資には隠れたメリットが
それは作品のフィルムの減価償却です。2年という短い期間で償却できます。この特徴を生かすと、アニメへの投資には2つの意味合いを持たせることができます。
その1つは、作品の関連商品を売るための“償却できる広告費”としての意味があること。しかも期間が2年ですから、他の分野で大きな利益が出ている企業にとっては、メリットは大きいでしょう。
その一方で、償却してもフィルム資産は残っているわけです。将来その作品が“名作”として評価されれば、帳簿上はほぼ存在していない資産であるにもかかわらず、DVD-BOXを販売したり、放送権収入を得るなどの可能性があるわけです。
事実、ここ数年のビデオメーカーが主力としている商品の1つのラインとして、旧作のBOX販売があります。子供時代に見た懐かしの作品を、30〜40代の大人に向けて売るという商品が多かったように思いますね。この年末年始に発売された「機動戦士ガンダム」のDVD-BOXなどが最たる例です。数万円の商品が12万セットの販売ですからね。
――そうですね。その点からするとDVDの販売で回収するモデルは旧作だけではなく新作でも主流ですよね。そうしたビジネスが中心になる中、ここ最近のDVDマーケットの市況の影響はどうなのでしょうか。
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