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【週末読む、観る】◇著者に聞きたい◇武田晴人さん『仕事と日本人』お金だけでない働き方も
『仕事と日本人』(ちくま新書・903円)
「すまじきものは宮仕え」というように、労働という言葉にはマイナスイメージがついて回る。人は給料のためしようがなく退屈な仕事をしている−−。これは経済学では当然のこととされ、人間の生活は「『労働』という奴隷の時間を堪え忍んで、『余暇』という人間的な時間を暮らす」と描かれる。
「地獄の沙汰(さた)も金次第ではありませんが、すべてが金勘定の世界になっています。お金をインセンティブ(動機)として与えれば、すべてうまくいくとされます。働き方や会社のあり方などの考え方が少しゆがんでいると感じていました」と執筆動機を話す。
日本人は「勤勉」といわれる。明治維新以後の急速な産業の発展や西欧化は、そのたまものといわれる。しかし、本書で紹介されている、明治初めに日本を訪れた外国人2人の見方はそうではない。「怠惰で享楽を好むこの国の人々の性癖は」「日本の労働者は、ほとんどいたるところで、動作がのろくだらだらしている」というのだ。これはいったいどういうことなのだろうか。
「江戸時代の農民はそんなに楽な生き方をしていないことは知っています。日本人が東南アジアに進出していった際、現地の人の仕事がのろいなどと不満をいったのと同じだと思いました。画一的な労働という概念で考えないほうがいいのです」
本書は、明治時代にlabourを翻訳してできた「労働」という言葉の使われ方、「労働」観念成立の背景、残業がいつ誕生したかなどや、冒頭の賃金を得ることだけを自己目的とした労働観をどう超克するかまで、多くの本を引用しながら歴史を追い、丁寧につづっている。
世の中には家事やボランティアなど報酬を伴わない「労働」がたくさんある。「働くことはお金だけではないんです。報酬のない働き方もあり、いろいろな選択肢を増やすことです。この本が考えるきっかけになればいい」
(江原和雄)
■たけだ・はるひと 東京大学大学院経済学研究科教授。経済学博士。専攻は日本経済史。昭和24年生まれ。著書に『日本人の経済観念』(岩波書店)、『談合の経済学』(集英社)など。