◎来春の就職戦線 不景気を人材獲得の好機に
内定取り消しや雇い止めが社会問題化するなか、来春卒業予定者の就職戦線が本格的に
スタートした。金沢市の石川県産業展示館で開催された合同企業説明会は、不景気にもかかわらず、地元企業の参加数が大幅に増えた。昨年のように学生側の「売り手市場」のときは、地元以外の企業に人材を取られるケースが多いため、地元企業の採用意欲はむしろ強いという。
実際、不景気のときこそ優秀な人材を得る好機である。業種によっては輸入原材料や不
動産価格などの下落で、設備投資をしやすい環境にあり、あえて採用増に乗り出す企業も出てきている。北陸の企業は、不景気をチャンスに変えるという意気込みで、地元採用に臨んでほしい。
学生約三千人を集めた合同企業説明会「マイナビ就職EXPO北陸」の参加企業は、百
三十八社に上り、北陸三県の企業が昨年の三割から五割に伸びた。地元企業は、一昨年秋まで続いた好景気で、これはと思う人材を首都圏や関西圏の企業に取られ、悔しい思いをしてきた。採用予定数を確保できなかった企業も少なくなかっただけに、今期の採用にかける企業側の強い意気込みを感じる。
北陸企業の〇九年三月決算は、金融危機を引き金にした実態経済の悪化の影響をもろに
受け、特に輸出が主力の製造業は業績を著しく悪化させている。石川、富山県とも有効求人倍率が一倍を大きく割り込み、学卒者の就職戦線も、急速な景気悪化に伴う企業の採用手控えで一転、「就職氷河期」の再来が心配される状況になった。
新卒者の採用予定数が昨年より減っているのはやむを得ないところだが、不況のときに
は、学生の地元志向が強くなる傾向がある。就職戦線が「売り手市場」から「買い手市場」に変わった今は、積極採用を目指す地元企業にとっては千載一遇の好機だろう。
新卒ばかりではない。人材の流動化が進むと、Uターン希望者も増える。日本を代表す
る企業で技術や販売のノウハウを学んだ人材も多いはずだ。新たな転職先を古里で探そうとする人材にも積極的に目を向けてほしい。
◎構造改革路線の転換 極端な揺り戻しの危うさ
郵政民営化に関する麻生太郎首相の国会答弁が、自民党内の路線対立を再び浮き彫りに
する形になっている。麻生首相は先の施政方針演説で、小泉政権以降の構造改革路線からの転換を鮮明にしたが、小泉政権下で進められた郵政民営化に「賛成でなかった」と発言し、その後修正する答弁のちぐはぐさは、構造改革路線の揺り戻しが極端に流れかねない危うさを感じさせる。
製造業を中心にした派遣労働者らの雇用危機や所得格差の拡大など現在の深刻な経済問
題の主因を、市場重視の新自由主義に基づく小泉構造改革に求める主張が広がっている。麻生首相も施政方針演説で「官から民へというスローガンや、大きな政府か小さな政府かという発想だけでは、あるべき姿は見えない」と述べた。首相の訴えには、もっともな面もあり、構造改革のゆがみは正さなければならない。
それでも、麻生首相が昨年から続けている郵政各社の株式売却凍結論や郵政四分社化見
直し発言は、小泉構造改革に対する批判に乗って、郵政関係団体などの失われた票を取り戻したいという安直な思惑が感じられてならない。さらには、「小さな政府」を志向する構造改革路線からの転換の掛け声が、官僚制度改革にブレーキをかける口実に利用される心配も否定できないのである。
麻生首相は施政方針演説で、国の行政機関の定員純減や出先機関の統廃合などの行政改
革の推進、農業改革などを強調したが、これらはまさに「聖域なき構造改革」の一環にほかならない。経済の新しい成長エンジンを育てるための規制改革も不可欠である。極端な反小泉改革論の中で、必要な行革や分権改革などまで停滞することがないよう、あらためてクギを刺しておきたい。
首相はまた、世界的な金融・経済危機に対応して、世界経済の新しい秩序・ルールづく
りに貢献することが、これからの日本の役割と強調している。そのためにはまず、新自由主義による構造改革、規制改革の功罪を正しく分析、評価することが重要である。