名古屋、焼身自殺の男性（53）。伝えたかったのは「謝罪」か「怒り」か。

自らの身体に火を放ち、業火のなかで死に至る。その様は我々の想像をはるかに超える。
２月４日午前、名古屋市中区のオフィスビルで５３歳の男性が焼身自殺を図った。男性は現場となった太陽光発電施工販売会社を昨年１２月に退職しているが、円満退社とはいかない何らかの理由があった模様で、その日は同社幹部との話し合いをもっていた。

焼身自殺は即死というケースは少なく、ふつう火に包まれた状態での激痛の持続を伴うとされる。自殺の手段としては他に比して格段に苦痛が大きいともいわれ、見た目への衝撃も大きいことから、決然たる抵抗の意志を知らしめるべく敢えて決行されることがある。

ティック・クアン・ドック師が１９６３年、サイゴンのアメリカ大使館前でガソリンをかぶり焼身自殺し、当時の南ベトナムにおいてゴ・ディン・ジエム政権がとった仏教徒に対する高圧的な政策への抗議を表したのは、その最たる例といえる。

では男性は何かしらの抗議の意志を示したかったのか？　乏しい情報から推測する限りでは、どうもそうではないらしい。というのも、「これで勘弁してください」男性はそう言って、ペットボトルに入れたガソリンのような液体をかぶり、ライターで火をつけたということだ。詫びは、決然たる抗議の姿勢とは相容れないものだろう。

とはいえ男性は、燃料を入れたペットボトルをあらかじめ用意し、話し合いに臨んだというから、発作的にではなく、固い決意のもとに行動を起こしたと考えられる。

苛烈なかたちで許しを請わねばならないところまで追いこまれたものか、あるいは彼に理があるかは措くとして、会社側の対応に不信を抱いたものかはわからない。

いずれにしても、この男性が死を選んだことにより、彼が伝えたかった「何か」は永遠に闇の中となってしまった。
（編集部：田中箇）

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【参照】
・2月4日付毎日新聞