毎年バレンタインが近づくと女性たちは不満を漏らしていた。 「世界のどこの国でもバレンタインは男性から女性にプレゼントを渡す日なのに、どうして日本でだけはそれが真逆なの?男尊女卑よ!不公平よ!差別よ!お金ないわよ!」と・・・ しかし、文句は言いつつも彼女たちはとっても楽しそうだ。 日本のバレンタイン商戦は世界で最も華やかで多種多様だという。 世界中から超高級有名チョコレートがしのぎを削るために飛行機で空輸されてくる。 鮮やかなラッピングに、甘い香り、カラフルな小さな箱に収められた宝石たち。恋する女の子のオーラが漂うチョコレート売り場は連日大盛況の賑わい・・・
そんなチョコレート売り場では、あちらこちらで女性たちが今日もため息をこぼしている。 「こんな素敵なチョコレート私だって食べたことない!そもそも1粒350円のチョコレートの価値が、あの普段から安い牛丼ばっかり喰ってるアイツ(男)に解るのかしら?」 前からも後ろからもそんな台詞が飛び交っている。隣の女性の会話を聞いて 「ま、男なんてどいつもこいつも一緒よね!(チンケなのは私の彼氏だけじゃないのね!)」 と微笑みながら女性たちはバレンタインを楽しんでいるのだ。
私も毎年、デパートのチョコレート売り場をのぞくのだが、不思議なことに女性たちはみな1月中からチョコレートをお買い求めになるのである。それはちょっといくらなんでも早すぎるでしょ?とツッコミを入れたくなるのは私だけ? 自宅の冷蔵庫で保管したら水戸納豆臭くなっちゃうよ!と心配になる。
しかし、なぜこんなにも高いリスクをおかしてまで、彼女たちは1月末からチョコレートを買い漁るのか?それはもちろんチョコレートを自分で食べたいから・・・だ。
その証拠に女性が買っているチョコレートは3個に1個が自分用である。
しかも、この準備期間中にこの3個買いを何回か繰り返すのだ。その間に彼に渡すために買ったチョコレートを誘惑に負けて試食してしまう女性も少なくない。チョコレートを一口食べて
「美味しい!ほらやっぱり私ってお目が高いわ!」
なんて自画自賛している女性が今の季節ちまたに溢れかえっているのである。
その証拠にチョコレート売り場では、売り子がお客様に「ご自宅用ですか?」と最初に聞くのが慣例となっている。チョコレート売り場に群がる女達はバレンタイン当日までに、いったいいくつのチョコレートを食べるのか?私は毎年見守っている。
女性ならば忘れられないバレンタインの思い出は、恋と結婚願望を語り合いながら友達と手作りしたチョコレートの記憶である。チョコレートを渡した相手の男のことは記憶から綺麗さっぱりなくなっても(女性は過去の男に未練どころか、興味も関心も残っていないことがほとんどだ・・・)、手作りチョコレートを一緒に作った友達との思い出は残っている。
毎年必ずバレンタイン直前の建国記念日の前あたりに、手作りチョコレートの会というガールズデーがあるのだ。それでは手作りチョコの会の結成理由を簡単に紹介しよう。
ずばり、1はシビアな現実。2、3は大義名分。4は胃酸が出るような課題。
そして、手作りチョコの会の最大の目的は、5のひたすらチョコレートのつまみ食いだ。
女の子達で何人か集まって共同で手作りチョコを作っている、まさにその現場でチョコレートはどんどん減っていく・・・
「これ失敗作だから私が食べてもいいよね?」
おいおい・・・食べたくてワザと失敗しただろ?と突っ込みたいのをみんなが堪えて、みんなでチョコレートをつまみ食いしながら作業は進むのだ。
全国各地の手作りチョコの会、その独自な味を一言で言うならば、チョコレートを溶かす温度が高すぎて、渋みが出てしまったチョコレート(失敗作)の味である。手作りチョコの作り方の本に書いてある、温度計を使って温度調節したことなんかほとんどの女の子が一度もありゃしない。ちょっぴりビターな手作り失敗チョコは、女性たちにとって最も親しまれているバレンタインの思い出の味である。結局、完成までこぎつけるチョコレートは、材料の約6割以下。とてもメイドインジャパンとは思えない生産ラインの低レベルさを露呈させ、女性たちは誇らしげにこう断言するのだ。
「私たちのチョコって愛情こもってるよね!!!」
愛情以外の余計な物もいっぱいこもっちゃったけどね・・・
渋みが出てしまって、しかも自分たちの食べ残りのチョコレートを大袈裟にラッピングして、ちゃっかりした顔をして男の元へ付け届けるのだから、女はやっぱり生まれながらにして女優である。男が女の欲深さに敵うわけがないと思うのだ。