国土交通省が「ダム事業プロセス検証タスクフォース」を設け、長期間かかるダム事業の経過を検証する。事業追認に終わらず、条件の変化に応じた事業の可否まで突っ込んだ結論を出すべきだ。
タスクフォースは学識経験者八人と国交省側十人。長期間のダム事業で関係者の意見が変化したときの対応策を取りまとめる。
初会合で、川辺川ダム計画の白紙撤回を求める蒲島郁夫・熊本県知事発言要旨、淀川水系河川整備計画に大戸川ダムは不要とする三重、滋賀、京都、大阪四府県知事合意文書が配られた。衝撃の大きさがうかがえる。
会合では、ダム事業への批判として(1)水没地住民の生活基盤喪失(2)自然環境に影響(3)事業の必要性や透明性に関する疑い−が挙げられた。これはほぼ的確だ。
川辺川、大戸川ダムの治水効果が不明確で、設楽(したら)ダム(愛知県)の利水の根拠となる水需要予測が過大との批判は、事業の必要性を疑わせる。徳山ダム(岐阜県)は住民が移転した造成地の地盤が沈下、再移転が必要になった。
従来も、地方整備局の事業評価監視委員会などが、ダムを含む事業の見直しを行ってきた。一九九七年の河川法改正後は、河川整備計画策定には流域委員会などで住民らの意見も聴取する。
だが率直に言って、わずかの例外を除き事業者の方針を追認し、枝葉末節の修正でお茶を濁してこなかったか。淀川水系流域委員会のように河川管理者の方針に真っ向から反対すると、無視されるのが落ちだった。
新しいタスクフォースも、見せ掛けだけ新たにして、前車の轍(てつ)を踏む結果に終われば、国民を欺くことになろう。治水効果はゲリラ豪雨など異常気象に対応できるのか。経済活動や人口変動で水需要の増減はどうか。まず、ダム事業をめぐり近年提起された新しい問題や、流域住民と有識者の声を公正に検討することが重要だろう。
今も疑問や反対の住民も多い設楽ダムは今月五日、国交省、地元設楽町などが建設同意の調印をした。野党が反対、総選挙の争点と予想される八(や)ッ場(んば)ダム(群馬県)は、国交省が本体工事入札の公告をした。もし国交省側がこれらのダムを対象から除けば、検証とは名ばかりのものとなる。
国交省を含むダム事業者の既定の方針からいったん離れ、すべてのダム事業の存廃論にまでさかのぼり具体的な議論を尽くすのが、国民の期待するところである。
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