東京都は中央区築地にある中央卸売市場の移転予定地である江東区豊洲地区の土壌汚染対策を発表した。汚染対策工法の検討を行ってきた「技術会議」(座長=原島文雄東京電機大教授)の提言をもとに、ベンゼンやシアン、重金属などに汚染された土壌の当該地域内処理を基本に対策を実施する。
新工法は公募技術・工法を実効性や環境配慮などの項目で評価し、システムエンジニアリングの手法で組み合わせた。工費は都の当初想定を約400億円下回る586億円、工期も2カ月短縮できるという。
豊洲予定地を巡っては、最近になり、汚染隠しと受け取られてもやむを得ない事実が明らかになった。
昨年7月の「土壌汚染対策等に関する専門家会議最終報告書」以降、発がん物質のベンゾ(a)ピレンが公表値の115倍検出された地点や、不透水層が確認できない地点の存在だ。不透水層がない地点では汚染が深部に達している恐れもあり、対策を講じないと、汚染物質が上昇し、覆土や浄化後の土壌に達することも考えられる。
都は、ベンゾ(a)ピレンは専門家会議の調査対象になっていないことや、「健康に被害が出る数値ではない」ことを根拠に、問題はないと主張してきた。
新工法で土壌処理を実施すれば、これまで明らかになっている物質に加え、ベンゾ(a)ピレンの対策にもなるとの見解だ。不透水層の欠けている地点では、セメント固化材などで不透水層を作る。
では、これで消費者や市場関係者の汚染に対する疑念を払うことができるのか。とてもそうはいえない。
第一に、食物を扱う市場として、高濃度汚染の確認された地区は適切ではないということだ。専門家会議委員も「移転ありき」で報告書を作ったのではないと語っていた。ところが、都は敷地面積23ヘクタールの築地では時代に適応した再開発は不可能と判断している。必要な広さは40ヘクタールで、その適地は都内では豊洲以外にはないという姿勢だ。
しかし、水産物、青果物ともに、市場経由量は規制緩和などもあり減少傾向にある。40ヘクタールは絶対の数字といえるのだろうか。
第二に、技術会議が提言した新工法の評価である。原島座長は最適な技術の組み合わせだというが、同会議が非公開だったこともあり、移転の反対あるいは慎重な市民や仲卸業者を納得させるには十分ではない。実施するには、さらなる技術内容の公表や効果検証が必要だろう。都が汚染情報を後出ししてきたことも、不信感を増大させている。
築地の跡地が予定地だった16年五輪のメディアセンターも別な地点に移った。移転、現地再開発を含め、これまでの行きがかりにとらわれず、最善の道を探るべきではないか。
毎日新聞 2009年2月10日 東京朝刊