リスク管理では、様々な防御壁を組み合わせるが、そのおのおのは普通スイスチーズのように所々穴があいている。このため、折り重なった防御壁の穴を貫通する場合には、リスクが顕在化してしまう。これは「スイスチーズ・モデル」と呼ばれる。
世界は経済恐慌を回避すべく、様々な防御壁を構築してきた。法律、会計、市場による外部からの監視のほか、企業単位では銀行にはBIS規制、保険会社や証券会社にも同様の定量的自己資本規制があり、SOX法による内部統制強化も加わって、防御壁は多岐にわたる。それにもかかわらず、リスクは貫通し、金融危機が顕在化した。
世界が見落としていたのは、「強欲」特にアメリカン・バンカーたちの強欲である。建国以来アメリカン・ドリームは米国人の願望であり、それが米国経済の活力の源泉である。不幸なことに、アメリカン・ドリームと強欲は紙一重に過ぎない。
今回の金融危機で銀行や保険会社も危殆(きたい)に瀕(ひん)したが、米大手インベストメントバンクはすべて破綻(はたん)か、銀行による救済、銀行業への転換を余儀なくされた。インベストメントバンクの暴走を許したのは、この強欲に歯止めをかけるメカニズムの欠如であった。加えて、この暴走の過程でリスクの防御壁ですら両刃の剣となることも明らかになった。
エンロン事件では会計士が利用されたが、今回は格付け機関が引きずり込まれた。インベストメントバンクは業態自体が消滅したといわれるが、資本主義における金融業務とイノベーションの重要性が変わらない限り、インベストメントバンクは消滅してもインベストメントバンカーはいずれ復活しよう。(匡廬)