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大阪府の橋下徹知事の口から、また大胆な発言が飛び出した。
政府が独自に進める道路やダムなどの公共事業で地元自治体に費用負担を求める直轄事業負担金に批判の矢を向けた。「僕の責任で2割ストップさせてもらう」。支払い拒否宣言である。
09年度で425億円の負担金の支払いが必要になるが、大幅に削るという。府の事業は聖域なく削っているのに、国の事業だけ青天井とはいかないというわけだ。当然の主張だ。
大阪府に限らず、慢性的な財政難にあえぐ多くの自治体は、公共事業でも何を優先するか厳しく吟味して予算を組んでいる。なのに、政府の事業はそんな事情とは無関係に進められ、後から請求書を突きつけられる。
むろん、地方が必要とする直轄事業はある。だが、ことは自治体の予算の使い道に直結する。そちらに財源をとられ、福祉や教育など身近なサービスにしわ寄せがいきかねない。
それだけではない。こうした負担金の明細が不透明だと、自治体の首長たちは不満を募らせている。予算計上の段階で、何にいくら使うのか詳細な支出が示されないまま、負担額だけが自治体に通告される仕組みなのだ。
国会でも個別の事業の中身はあまり論議されず、自治体発注の工事と比べてかなりコスト高になっている点も指摘されている。
全国知事会は毎年、負担金の廃止を要求しているが、知事たちは唯々諾々と支払いに応じている。鳥取県の前知事で慶応大教授の片山善博氏によると、江戸の敵を長崎で討たれかねないという心配が背景にあるという。
政府の事業に反対すると、後から別の国の補助事業でしっぺ返しを食うのではないか。そう恐れる首長が少なくないのだ。政策や信念、選挙によほどの自信がないと異を唱えにくいということなのだろう。実際に、政府に公然と挑んできたのは片山氏らごく少数の首長に限られている。
橋下知事は職員の給与カットをはじめ、福祉や教育分野にも切り込んで府の財政再建に取り組んでいる。地方が乾いたタオルをしぼるような節約努力を強いられているのに、一方的な負担のつけ回しは納得できないという橋下氏の考えは理解できる。
抜本的な解決策は、財源と権限を地方へ渡す分権を加速させることだ。ひもつき補助金をなくし、直轄負担金を廃止する。広域的な利害にかかわる案件では、関係する首長が相談し、負担を話し合えばいい。
就任から1年。府民の高い支持を得ている橋下氏だからできる話なのかもしれないが、ほかの知事たちも声をあげてもらいたい。掛け声だけになりがちな分権を実のあるものにする大きな一歩になるはずだ。
タクシー事業について、行政機関が新規参入や台数を制限できるようにする特別措置法案が近く閣議決定される。2002年に参入や増車、運賃への規制が緩和されたが、これを再び規制強化の方向へ引き戻すものだ。
規制緩和の結果、都市によっては台数が増えすぎ、運転手の賃金も大きく下がっている。こうした点を是正することは必要だが、問題はどのような方法で是正するかである。
法案は、台数過剰になった都市などを「特定地域」に指定し、台数を減らしたり、タクシー会社の合併など経営改善を促したりできるようにする。それによってタクシー事業を適正化し、運転手の賃金を底上げするという。
民主党も改革案づくりを進めている。一部を自由化した運賃を同一地域・同一運賃へ戻す案が出ており、政府与党と同様に元の規制へ復帰させていく方向を考えているようだ。
こうした手法には疑問がある。行政機関がタクシー事業について細かく規制する「業界保護行政」へ単純に逆戻りする懸念があるからだ。業界に利権を生じさせることにもなる。
台数を減らして新規参入を制限すればタクシー運転手の処遇がよくなるとは言い切れない。そうではなく、運転手の賃金や労働条件への規制の方を強めるのがいいのではないか。
運転手の賃金は歩合制が基本。台数が増えすぎて料金収入が減り、賃金が下がった。だがタクシー会社にとっては、1台あたりの収入が減れば賃金も減るので、痛手は少ない。台数をさらに増やして利益を確保しようとしがちだ。これが、野放図に台数が増える根本の原因になっている。
そこで、運転手の固定給部分を手厚くし、安全運転のために勤務規制も強める。野放図に台数を増やせば経営のマイナスになる仕組みをつくって、需要に合った台数へ落ち着くよう誘導する手法が望ましい。
国土交通省は2月にも検討会を設け、歩合制の見直し策を探るという。ならばまずその結論を出してから、規制の内容を再検討するのが筋だ。
タクシーは規制緩和路線の象徴になってきた。世界不況のなかで小泉改革への批判が強まり、タクシー規制を元に戻す動きに弾みがついている。しかし、規制緩和のすべてが善とはいえないのと同様に、すべて悪でもない。
タクシーは身近な足であり、公共交通機関だ。社会が高齢化するにしたがってますます欠かせない足となるだろう。要は、便利な交通手段とするにはどんな仕組みがよいかである。
業界保護への回帰では、それは達成できない。利用者に喜んでもらえるよう事業者が競うことが大切なのではないか。改革論議に「利用者第一」の視点が乏しいことが最大の問題だ。