麻生太郎首相の郵政民営化をめぐる国会での発言が波紋を広げている。
衆院予算委員会で、麻生首相は四分社化された日本郵政グループの経営形態について「今、四つに分断した形が本当に効率としていいのかどうか、もう一回見直すべき時にきているのではないか」と述べた。
郵便、郵便貯金、簡易保険の三事業を運営していた日本郵政公社は、民営化で持ち株会社の日本郵政と四つの事業会社に分割された。民営化の進め方は政府の郵政民営化委員会が三年ごとに見直すことになっており、今年三月が点検時期にあたり、議論が進められている。
過疎地では簡易郵便局の閉鎖が相次ぎ、住民から不満が出ているのは事実だ。自民党内には、サービス向上や経営状況の改善のため、郵便を担当する郵便事業会社と窓口業務を担当する郵便局会社の一体化などを求める声も出ている。国民の声を受けて不都合な点があれば、見直しを行っていくのはむしろ当然なことだろう。
しかし、民営化を決めた当時の小泉内閣で担当の総務相だったことに触れての麻生首相の国会での答弁には耳を疑った。「内閣の一員として最終的に賛成したが、郵政民営化は賛成ではなかった」というのである。あまりにも当事者意識に欠ける言葉ではないか。
その後、記者団に真意を問われての発言も問題だ。当時、民営化を竹中平蔵郵政民営化担当相が所管していたことを念頭に「私は総務相だったが、担当相ではなかった。外されていた」などと述べた。責任逃れにしか聞こえないだろう。
現在の自民党の衆院での議席は、二〇〇五年に郵政民営化法案が参院で否決されたため、小泉純一郎首相が「もう一度国民に聞いてみたい」と、解散に打って出て圧勝した結果である。
麻生首相が選出されたのも、ねじれ国会で三分の二条項を使って重要法案を成立させる政権運営も、郵政選挙で得た議席に支えられている。麻生首相の一連の発言は、自らの政権の正統性を否定するようなものだ。
麻生首相は政権発足に当たり、格差拡大を招いたとされる構造改革路線から一線を画すと同時に、郵政民営化の見直しにたびたび言及してきた。かつての自民党の支持組織だった全国郵便局長会などへ秋波を送る意味合いもあるといわれる。
しかし、重要な政策で方針転換をするというのなら、国民へ十分な説明が必要だ。
男性お笑いタレントのブログに、殺人事件の犯人であるかのような中傷を書き込んだとして、警視庁は全国の十七歳から四十五歳までの男女計十八人を名誉棄損の疑いで書類送検する方針を決めた。これとは別に川崎市の二十九歳の会社員の女が脅迫容疑で書類送検された。
有名人のブログなどに批判や中傷が大量に書き込まれる状況は「炎上」と呼ばれ、大きな問題になっている。炎上をめぐって書き込みをした人が立件されるのは極めて異例だ。
男性タレントは、一九八八年に東京都足立区で起きた女子高生コンクリート詰め殺人事件に関与したかのような事実無根の内容をブログに書き込まれた。昨年一月以降の書き込みは数百件に上り、数十人がかかわっていたという。警察は悪質な書き込みをした人物を特定して立件に踏み切った。
根拠のない誹謗(ひぼう)中傷がエスカレートし、感情むき出しの言葉が特定の個人を攻撃する。匿名性に隠れたネット社会の負の部分だ。今回の事件で書き込んだ十九人全員が「犯罪になるとは思わなかった」と供述したという。「殺してやる」と書き込んだ脅迫容疑の女は「正義感のつもりだった」というから、あぜんとするばかりだ。
警察庁によると、ネットでの誹謗中傷に関する相談は年々増えており、二〇〇三年は約二千六百件だったが、昨年は約八千八百件と五年間で三倍以上になった。身に覚えのない批判を受ける側の精神的なダメージは相当なものに違いない。
今回の立件は、一罰百戒を狙ったものといえよう。誰もが手軽に意見を発信できるのがネットの特性だが、ルールを踏み外した行為は許されない。ネットと付き合うにも責任は必要だ。あらためて肝に銘じたい。
(2009年2月8日掲載)